オバ記者、80才の体と精神を「うらしまたろう」装着で体験!
61才は「初老」ではあるけど、「老人」にはあと一歩。「高齢者」なんてめっそうもない──と、若者からの呼ばれ方に近ごろ敏感な女性セブンの名物記者・オバ記者こと野原広子(61才)。そこで、80代の体と精神はどうなるのか体験できる装具“うらしまたろう ”を着けて高齢者体験をガッツリしてきた。オバ記者がその体験記をつづる。
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もとはといえば、同世代の友達との茶飲み話。「無料で“シニア体験”をさせてくれるらしいよ」と聞いて、「行こ、行こ」と私。ちょっと変わったイベントに参加するくらいのつもりだったの。
ところが、手足に重りをつけたり、関節を拘束したり、特殊な耳栓や眼鏡をかけたりして、一歩動いたときの衝撃といったら…。
80代の自分はどうなるか。本当の“老い”とはどんなものか。今回、私は「80才」を体験したと思っている。そのリアルな驚きから今も抜け出せないでいる ──。
最初に私が老いらしきものを自覚したのは“目”で、39才のとき。5才年上の友人から差し出されたパンフレットの細かい文字が読めなくて、「文字がにじんでる」と突き返そうとしたら、「老眼!」と決めつけられた。「違うよ。今日はたまたま」と言うと、「これ、かけてみて」と眼鏡を渡された。
「…読めるわ」
「だから、老眼」
「老」という濡れ雑巾を頭からかぶせられたような、不愉快さを今も鮮明に覚えている。その後、閉経すると体全部が油切れ状態で、脚の付け根が痛んだり、かと思えば血圧計が「165/90」だったり。目の前の物が見えないことに気づいて眼科に飛び込んだら、「それもこれも年をとると“あるある”ですよ」と若い医者は半笑い。
それでも、たいがいはその場さえしのげば昨日の続きで明日が来る。ショーウインドーに映る自分から秒速で目をそらしてきたけど、どこまで考えが甘かったんだろう。
背筋をピンと伸ばしたくなったら、ぜひに!
私が参加したのは、東京ガス新宿ショールームで行われている、無料体験プログラム「シニアシミュレーション」。
そこでは、特殊な耳栓や特殊な眼鏡、重りなどをつけて、外に表れる老化を疑似体験する「うらしま太郎体験」や、映像と音響を使って、認知症のかたがどのように考えて行動しているのかを疑似体験する「認知症シミュレータ」などが行われている。
定員5名・所要時間90分のフルプログラムと、定員5名・所要時間60分のショートプログラムがある。装着したものは以下。
【耳栓】
高い周波数をカットする特殊な耳栓をつけて、老人性難聴に近い状態に。女性の声の高音、早口が聞きにくい。
【眼鏡】
重度の白内障になるとどう見えるかを体感。視界の狭さは想像以上。
【チョッキ】
左右のポケットに重り(男性:左右1kgずつ、女性:左右500gずつ)を入れる。
【肘と手首サポーター】
肘にサポーターと手首に750gの重りをつけて、筋力の衰えによって起こる肘関節の変化と腕の上げ下げのしにくさを体感。
【手袋】
薄いゴムの手袋、布手袋、サポーターと3種類を重ねづけし、末端の感覚が鈍った高齢者の指先を体感。
【膝サポーター】
膝にサポーターを巻きつけ、膝関節の動きにくさを体感。
【靴型サポーター】
足首から土踏まずまでサポーターで固定。足首には1kgの重りをつける。
このプログラムの目的は、「高齢者の日常生活を身体的・心理的に体験することで、家の中のさまざまな不便さを実感し、住まいづくりの参考にしていただければ」(東京ガス新宿ショールーム スタッフ)で、実際、とても参考になった。
そしてさらにもう1つ、私は画期的な効果を見つけてしまったの。
それは、80代の自分を実感するとビックリし、ガッカリもしたさ。でもね、体験してみて思うのは、今ある体の機能をとことん生かしきって、しっかりと生きなくちゃダメだなということ。迷いの多い50代以上の人が、心の背筋をピンと伸ばしたくなったら、この体験をおすすめしたい。
尚、“シニアシミュレーション”は、身体的な老いの体験だけではない。認知症になるとどう考えて行動するかまで、キチンと見せてくれる。
同居する娘夫婦が建て替えた2階建ての家を舞台に、トイレを探してさまよい歩くおばあちゃんの心と体の動きを映像化しているのが“認知症シミュレータ”だ。「トイレは朝から何度も行っているでしょ。なぜ探すの?」と、最初、私は不思議だったけど、だんだんおばあちゃんと61才の自分が重なってくるんだわ。
たとえば動き出したときに、ふいに誰かに声をかけられると、当初の目的を忘れてしまうとか、家の中で移動した後で、なぜここに来たのかわからなくなるとか。
家のトイレがどこかわからないことはまだないけれど、その行動パターンは理解できるし、自分もその扉を少し開けていて、足元に忍び寄ってくる老いが見える。だから怖いんだよ。
「おばあちゃんッ、そんなことしていたらトイレに間に合わなくなるよ」。口には出さなかったけど、ホラー映画より、ハラハラ、ドキドキした。
※女性セブン2018年5月3日号
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