『半沢直樹』いよいよ今夜!半沢が出向になった理由は明かされるのか?
いよいよ堺雅人主演『半沢直樹』の新作が7月19日からスタート。それにさきがけて7月5日、12日と2夜にわたって、前作の「特別総集編」が放送された。12日に放送された「特別総集編」後編には、待望の大和田常務(香川照之)との対決が!「日曜劇場研究」を連載してきた近藤正高さんが、『半沢直樹』のストーリーを解説し、大和田常務との会話から新シリーズの設定を推理する。
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まずは前シリーズをおさらい!ホテルの再建に奔走する半沢だが
『半沢直樹』の新シリーズがいよいよ今夜9時にスタートする。その前に、先週7月12日に放送された、2013年の前シリーズを約2時間の尺にまとめた『半沢直樹』特別総集編の後編について振り返っておきたい。
東京中央銀行の大阪西支店から、東京本部の中枢・営業第2部にめでたく栄転した半沢だが、ここで難題を課せられる。それは、老舗ホテルの伊勢島ホテルの経営再建と、近々予定されていた金融庁検査への対応だった。伊勢島ホテルは業績低迷が続いており、東京中央銀行から200億円を融資した直後には、資金の運用失敗による120億もの損失が明るみになっていた。それだけに、部長の内藤(吉田鋼太郎)から伊勢島の担当になるよう言われた半沢は当初難色を示すも、中野渡頭取(北大路欣也)命令と聞いては引き受けざるをえなかった。
伊勢島ホテルの120億もの損失は、創業家の湯浅社長(駿河太郎)を追い落とすべく、資金運用を図った羽根専務(倍賞美津子)がそれに失敗して出したものだった。ライバル行の白水銀行はすぐにそれを察知して融資をストップしたのに対し、メインバンクの東京第一にはなぜか報告がいかなかった。それというのも、ホテルの経理の戸越(小林隆)がいずれの銀行にも内部告発したものの、東京第一ではその情報が何者かによって握りつぶされ、あげく戸越は内部告発の件をホテル側にリークされ追放されてしまう。
半沢は戸越とともに、直接の担当者である東京中央銀行京橋支店の融資課長代理・古里(手塚とおる)を問い詰めると、内部告発が上からの指示で握りつぶされたことを白状させる。ホテルの120億円損失を報告する文書は、金融庁に見られてはまずいので別の場所に疎開する資料(疎開資料)のなかにまぎれこんでいた。半沢はそれを引き抜いたうえ、勢いに乗じて古里に対し、自分の同期でタミヤ電機に出向中の近藤(滝藤賢一)が京橋支店に再三要請しながらなかなか下りずにいた融資までも認めさせた。
ここから半沢は、金融庁の手から疎開資料を逃しつつ、ホテルの再建のため奔走することになる。疎開資料はまず自宅に持ち帰ったが、大阪西支店以来の宿敵である金融庁の主任検査官・黒崎(片岡愛之助)はそれを嗅ぎつけ、部下たちを彼の家に踏み込ませる(その模様をわざわざネットで実況中継させて半沢に見せつけるのがエグい!)。だが、資料は妻の花(上戸彩)が機転を利かせてひそかに実家に送ってくれていたおかげで救われる。
ホテルのほうは、再建計画の要であった予約システムを発注していたIT企業・ナルセンが、米ホテル最大手のフォスターから特許侵害で訴えられ破綻、計画は頓挫する。これを受けて、羽根専務が、湯浅社長を解任して自分が後任として再建を進めると表明。じつはそれは東京中央銀行の大和田常務(香川照之)の差し金だった。ここから半沢と宿命の敵である大和田とのバトルが本格化する。半沢はすでにこれ以前、大和田にホテル再建の暁には土下座してもらうと約束させていた。
半沢は、新たなホテル再建策を考えに考えた末、湯浅社長にフォスターの資本を受け入れることを提言する。再建計画をつぶした当事者の傘下に入ることに当然、湯浅は渋面を見せる。だが、そうでなければ羽根にこのホテルを譲らねばならない。苦渋の決断を迫られ、湯浅が最終的に出した結論とは……。果たして金融庁検査の最終聞き取り調査で、黒崎があらためてホテルをどうするかと息巻くなか、最後の最後になって半沢の携帯に、湯浅からフォスター傘下に入るとの返信が届いた。こうしてホテル再建の問題は切り抜けた。
父の死にまつわる大和田常務と半沢の因縁
しかし疎開資料は、花の実家から東京本部地下の機械室に隠したものの、またしても黒崎に嗅ぎつけられてしまう。機械室でさっそく段ボール箱を見つけた黒崎。半沢、万事休す! だが、箱を開けば、なかに入っていたのは宴会の小道具だった。黒崎は狐につままれたような表情のまま、前編に続き今回も撤退を余儀なくされる。
この間、大和田にもいくつか大きな疑惑が浮上していた。まず、伊勢島ホテルの資金運用の失敗は、大和田が羽根専務と結託して仕組んだものだった。どうやら次期頭取をめざす大和田は、この一件を金融庁検査であかるみにすることで、中野渡頭取を引責辞任に追い込もうとしたらしい。さらに東京中央銀行がタミヤ電機に行なった融資を、大和田が夫人(相築あきこ)の経営する会社に又貸しさせていたという迂回融資の疑惑も持ち上がる。タミヤ電機に出向していた近藤は、社長の田宮(前川泰之)から証言をとるも、それを察知した大和田は人事を盾に近藤を取り込んでしまう。
それでも半沢は、自分が同じ立場なら近藤と同じ選択をとると許し、再び一から大和田を追いつめる証拠を集め続けた。半沢がそこまで大和田に執念を燃やすのには、25年前に父(笑福亭鶴瓶)が自ら首をくくったというつらい体験があった。ネジ工場を経営していた父は、経営難から銀行に融資を求めるも断られ、工場を手離さざるをえなかった。このとき融資の求めを蹴った張本人こそ、金沢支店に勤めていた大和田だったのだ。父の仇をとるためにも半沢は大和田の不正をあかるみにせねばならなかった。
調査の過程で、大和田の腹心である岸川取締役(森田順平)の娘が金融庁の黒崎と婚約しているという事実があきらかになる。すべては大和田が次期頭取になるため、岸川や黒崎を取り込んで仕組んだものだった。半沢はさらに大和田夫人の預金口座まで調べ上げ、役員会で洗いざらいぶちまける。最初は反論していた大和田だが、岸川がすべてを打ち明けるにいたって、とうとう窮地に追い込まれた。その一部始終を見ていた中野渡は水戸黄門よろしく「もうそのへんでいいだろう」と言って、半沢を制止する。だが、半沢はまだ気が済まない。そう、大和田に土下座させるまでは。「やれーっ、大和田ぁ!!」と叫ぶ半沢に、大和田は咆哮をあげながら、ゆっくりと腰をかがめ、ついに土下座してみせるのだった。それを見届け半沢の右手には、父の形見であるネジが強く握られ、手のひらを開くと血がにじんでいた……。
妻と同期に支えられて
今回も、半沢は周りの人から協力を受けながら本懐を遂げることができた。なかでもお手柄は妻の花だろう。金融庁の家宅捜査を見事乗り切ったことはすでに書いたとおりだが、岸川の娘が黒崎と婚約しているという事実も、花が行内の夫人会に参加して岸川夫人(松居直美)から聞き出したものだった。このほか、同期の渡真利(及川光博)はフォスターとの交渉にあたってくれ、近藤も最後は大和田に取り込まれながら、苦しい立場のなか、できるかぎりのことをしてくれた。半沢はそんな2人に「たとえどんな結果に終わったとしても、俺はおまえたちと同期でよかった」と感謝する。
だが、妻や同期に助けられながらも、半沢には常に孤独の影がつきまとう。そもそも父のことも花には詳しく話していないとはどういうことだろう。たぶん、よけいな心配させない心遣いなのだろうが、一方で、根本のところで妻を信用していないのではないかとも勘ぐってしまう。
ともあれ、半沢の告発により、岸川は出向となる一方で、肝心の大和田は常務からヒラの取締役への降格という処分にとどまる。それというのも、中野渡は大和田に恩を売ることで行内派閥を抑え込むためであった。だがそれ以上に釈然としないのが、中野渡を救ったはずの半沢が、関連会社の東京セントラル証券へ出向させられたことだ。そこにはどんな思惑があるのか、おそらく新シリーズではそのあたりもあきらかになることだろう。
半沢直樹は1968年生まれ?
さて、今回の総集編を見ていて色々とわかったことがある。前編のレビューで、半沢の父親はコテコテの大阪弁なのに、彼自身はそうではないのはなぜかと疑問を呈したが、後編では彼が金沢出身ということがあきらかにされた。たとえ父親が大阪出身でも、本人は金沢で育ったとなれば、大阪弁がしゃべれなくてもまあ納得がゆく。
それとあわせて筆者が気になっていたのが、『半沢直樹』の前シリーズの時代設定はいつなのかということだ。これも後編を見ていて、何となく解明できた。前編では半沢が大学を卒業して東京中央銀行に入ったのが1991年とあった。父親を亡くした半沢はおそらく大学を浪人も留年もできなかっただろうから、ストレートで入行したはずである。とすれば、彼は1968年度生まれということになる。後編の大和田常務との会話では、半沢が父を亡くしたのが14歳のときで、大阪西支店より東京本部・営業2課に異動してから25年が経ったと言っていた。とすれば、半沢は前シリーズの時点で39歳、劇中の年代は2007〜08年ということになる。今夜スタートの新シリーズも、前シリーズで出向を命じられた東京セントラル証券を舞台に始まるとなると、おそらくこの時代設定はさほど進んでいないはずだ。現実世界では、このあと銀行業界は、2008年9月に起こるリーマンショックに直面するはずだが、そのへんはドラマに反映されているのかどうか。
もっとも、前シリーズでは半沢の入行年以外、時代設定があまり明示されなかったことを思えば、案外、新シリーズもあっさり描かれる可能性は高いが……。そんな細かいところも気になりつつ、新天地で半沢が今度はどんな立ち回りを見せてくれるのか、楽しみに放送を待ちたい。
『半沢直樹』(前回シリーズ)は配信サービスParaviで視聴可能(有料)
文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)
ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。
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