最近テレビの音が大きい86才の父に補聴器が必要な理由
補聴器市場が拡大し、補聴器の性能も日々進化している。しかし「聞こえているから大丈夫」と抵抗感を示す高齢者も多い。最近“聞こえ”の悪さを家族に指摘された86才男性は、補聴器を作るべきか? 補聴器の必要性について専門医に聞いた。
「テレビの音が大きい」家族の指摘で補聴器作りへ
「また、うるさくして…」。
妻の光佐子さん(77才)は買い物から帰るたびに、夫の藤堂和雄さん(86才)がテレビを大音量で見ている姿を見ては、ため息をつく。
最近は食事時に2階にいる夫に声をかけても一向に返事はない。いちいち階段をのぼって呼びにいく毎日だ。
食事中に話しかければ、「えっ!?」と聞き返される。そのやりとりが数回続くと、夫は「母さんの声が小さいんだ」と怒り出す。
現状を娘に伝えると、「耳が遠いと認知症につながるらしいよ。補聴器を試してみたら」とすすめてくれた。
藤堂さんはようやく重い腰を上げた。
補聴器選びの第一歩は家族と一緒に耳鼻科へ
東京・銀座の『慶友銀座クリニック』に足を運んだ。
同クリニックの大場俊彦医師は、「今おいくつですか?」と滑舌よく、声量を上げて話しかける。その声は藤堂さんにしっかり届き、「いくつに見えますか?」と返答する。
「うーんと、76才!」「いや、86才です」「お若く見えますね」。
和やかな雰囲気で診察が始まった。
「高齢であり、耳が遠いという自覚症状、もしくはご家族から指摘があれば、まず加齢性難聴を疑いますが、なかには耳垢がたまっていたり、隠れた病気が見つかる場合もあります。そのためにもまず耳鼻科を受診していただきたい。
また、ご家族のかたに同席いただくと、普段の様子やコミュニケーションについてもお話を聞けるので、最初の検査にはぜひ立ち会ってほしいですね」(大場さん)
補聴器の必要性、難聴は認知症の危険因子にも
今回は家族の指摘があったため受診に至った藤堂さん。そう、耳の不調は自覚しにくいのだ。
「聞こえが悪くなっても、普段の生活ではテレビの音量を上げれば済んでしまいます。しかし、耳が不自由なままでいると、特に高齢者は性格が内にこもりがちになってしまうのです」(大場さん)
聞こえが悪くなると、話しかけられてもトンチンカンな返事をしたり、何度も聞き返したり。当然ストレスがたまり、申し訳ないという気持ちも芽生える。そういう毎日を送っていると“聞きたくない”“出かけたくない”と、どんどん自分の殻に閉じこもってしまう。
人は耳から多くの情報を得ているが、耳から入る刺激が減ると、脳の働きも鈍ってしまう。2015年には「難聴は認知症の危険因子の1つ」と国の認知症施策推進総合戦略で発表されている。放置すべきではない疾患なのだ。
藤堂さんの初めての補聴器作りについて、順次お届けする。
撮影/浅野剛
教えてくれた人
大場俊彦さん/東京・銀座『慶友銀座クリニック』医師、栗原一民さん/認定補聴器技能者、八嶋隆さん/日本補聴器工業会事務局長
※女性セブン2020年3月19日号
https://josei7.com/