介護の呪縛や圧から《逃げる》心も体もラクになる最新メソッド「親と子のバウンダリーを意識しましょう」【介護ジャーナリスト・小山朝子さん提案】
介護期間は4~10年未満が最も多く、10年以上続く長期介護も14.8%存在する(生命保険文化センター調べ)。いつ終わるかわからない介護だからこそ、心身疲弊しないために「選択肢はひとつではないこと、当たり前だと思っていた呪縛から逃げる、手放す方法を知っておくことも大切です」と、介護ジャーナリストの小山朝子さん。自身の長年の介護経験や知見をもとに上梓した新著『介護じょうずは逃げじょうず』から、介護者の心と体をラクにするヒントを教えてもらった。
この記事を執筆した専門家
小山朝子さん/介護ジャーナリスト
洋画家の祖母を10年に渡って在宅介護した経験から、執筆や講演会など多方面で活躍。介護福祉士の資格も持つ。著書『介護というお仕事』(講談社)のほか、2023年に発売した『ひとり暮らしでも大丈夫! 自分で自分の介護をする本』『【11の成功例でわかる】自分で自分の介護をする本』、新著『介護じょうずは逃げじょうず』(すべて河出書房新社)も話題に。
介護の「親子共倒れ」から逃げる
母ひとり子ひとりの環境で育ってきたある女性(娘)のケースです。彼女は介護保険制度などの外部サービスを一切頼ることなく、仕事を辞めてひとりで母親の介護を始めました。
しかし、介護の知識も経験もないまま密室で抱え込んだ結果、気づいたときには母親に重度の褥瘡(床ずれ、同じ姿勢を続けることで体の一部に圧力がかかり、血流が悪くなることで生じる皮膚のトラブルのこと)ができ、娘自身も激しく疲弊していました。
近所の人からの連絡で自治体職員や近所にある事業所のケアマネジャーが自宅を訪問したときには、室内は散乱した状況でした。
「これ以上発見が遅れていたら、ふたり揃って衰弱死していた可能性もあっただろう」と、訪問したケアマネジャーは話していました。
「親孝行の子どもでありたい」「親は子どもに面倒を見てほしいと思っているに違いない」と、自分の力だけで完結させようとするほど閉鎖的になってしまうのです。
自分を守るために「バウンダリー(境界線)」を意識しましょう
こうした抱え込みや共倒れを防ぐためのキーワードが「バウンダリー(人と人との間にある見えない境界線)」です。親の人生と自分の人生に心の境界線を引くことで、介護のトラブルを防げることもあります。
かつて親と不仲で長年実家を離れていた人が経済的な事情などから同居することとなり、過去の確執が再燃して深刻な事件に発展した例もありました。
その関係性に傷や葛藤を抱えた関係であるほど、相手から「逃げること」、「距離をとったままでいること」が最善の策になることもあるのです。
私はこれまで、親に嫌味を言われ続けてきた、あるいは虐待を受けて育った人から話を聞いてきました。こうしたかたたちは、結婚し、家を出た現在でも当時のことを生々しく覚えており、親と心の距離を保ちながら生活している人が少なくありません。
もちろん、これは過去のトラウマや不仲を抱える家庭に限った話ではありません。親子関係が極めて良好で、お互いを想い合ってきた家庭であっても、介護においては適度な「心の距離」をとることは大切です。
良好な関係だからこそ「もっと力になってあげたい」と境界線が曖昧になり、知らず知らずのうちに共倒れしてしまうリスクも潜んでいるからです。
周囲や介護事業者への「過度な期待」を手放す
このバウンダリーの視点は、実の親に対してだけでなく、親戚や知り合い、さらには介護事業者との人間関係においても同じことが言えます。拙著『介護じょうずは逃げじょうず』(河出書房新社)では、教師だった母親を介護していたKさんのエピソードを紹介しています。
母親の元教え子から「私にできることはありませんか?」という申し出を受け、その言葉に甘えて見守りをお願いしたこともありましたが、やがて元教え子からの連絡も途絶えてしまいました。相手に悪気はないものの、「手伝ってくれるはず」という過度な期待が、結果として自分自身の気疲れを招いてしまったのです。
一方、介護サービスを提供する事業者との関わり方においても、心の境界線は不可欠です。サービス利用前に契約内容は確認しますが、決められた範囲以上の対応を過度に期待してしまうことは、過剰な不満やストレスに繋がりかねません。お互いにビジネスとしての境界線を保ち、過度な情や期待をかけすぎないことが良好な関係を長続きさせます。
介護中から始めておきたい「介護ロス」予防策
相手との適切な距離感を保つことは、看取り後に訪れる「介護ロス症候群(以下、介護ロス)」を未然に防ぐための重要な心得でもあります。
介護ロスとは、介護を終えた後に激しい喪失感から抜け出せず、燃え尽きたような状態になって心身のバランスを崩してしまうことです。
「介護が終わればそれまでの苦労から解放されて楽になれる」と思いがちですが、そう簡単に割り切れるものではなく、「私はこれから何のために生きていけばよいのだろう」と自分の存在意義さえ見失ってしまう人がいるのです。
介護をしている間も、ときには「逃げる」選択をしながら、介護の先にあるあなたの人生も豊かに彩っていきましょう。
