倉田真由美さん「119歳まで生きた女性の言葉」くらたまね~&らいふVol.30
漫画家の倉田真由美さんの地元、福岡で119歳まで生きた女性、田中カ子(子はカタカナの「ネ」の異字体。以下カネ)さん。その言葉に深い感銘を受けたという。「人生100年時代」をはるかに超えて生きた女性のエピソードから、亡き夫への思いが交錯してーー。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。夫の叶井俊太郎さん(享年56)の闘病から看取りまでを綴った書籍『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』も話題に。
高齢者のエピソードから学ぶこと
自分より年上の、高齢の方の言葉やエピソードには学ぶものが多々あります。
私の実家がある福岡の地元の老人ホームに、田中カネさんという方がいらっしゃいました。2022年に119歳で亡くなるまで4年近く、日本だけではなく「存命中の世界最高齢」でギネスにも公式認定されていました。
当然地元では有名人で、福岡のローカル番組にも時折ご出演されていました。私も何度か観たことがあります。
日本人は長寿なので100歳以上の方は珍しくありません。先日も国内の100歳オーバーが初の10万人を超えたことがニュースになったばかりです。でもスーパーセンテナリアンと呼ばれる110歳を超える人はその中でもごく稀です。大体150人未満といわれているので、110歳以上の人は普通に暮らしていても出会えないレベルの超人ということになります。
カネさんのエピソードには驚かされるものが多くありました。私が観た時にはもう110歳はとっくに超えておられましたが、歩行器を使って自力歩行できていましたし、毎日勝つまで好きなオセロをしたりとお元気でした。
「今までで一番辛かったことは何ですか?」という質問に、「辛かったこと、なーんもない。一度もない」とお答えになったのは印象深く覚えています。それだけ長く生きて辛かったことがないわけないのに、辛い思い出として残しておられないことに、さすがスーパーセンテナリアンと深く感銘を受けました。
好物は「コーラ」「チョコレート」
好物を聞かれて「コーラ」「チョコレート」というお答えだったのにも驚きました。
どちらも糖分が高いし一般的には身体にいいとはいわれていないのに、世界最高齢の方が毎日のように嗜んでいるというのは「身体が特別頑丈だから」なのか、「意外と身体に悪くない」のか、「好きなものを我慢せず食べるということが良い効果を生んでいる」のか、判断がつきません。
ちなみに歴代世界最高齢の中でも最も高齢、ギネスで人類史上最高齢の認定を受けたフランスの女性ジャンヌさんは122歳まで生きましたが、彼女もチョコレートが好物で毎週1キロ近く食べていたそうです。
好きなものを好きなように食べるって、誰にでもできるようでできないものです。
私はあまり我慢しない方ですが、それでも「これ以上食べたら太るかも」「身体に良くないものはなるべく食べないでおこう」と自らストップがかかることはあります。これが悪いことではないと思いますが、過ぎると逆にストレスになることはあります。
夫が亡くなる2か月前の会話
先日、録音して保存してある夫との電話での会話を聞き直していた時に、こういうやり取りがありました。亡くなる2か月ほど前の会話です。
「なんかポテトチップが食べたくなった。買ってきてよ」
「え、でもポテトチップは…硬いし、消化によくないんじゃない?」
ポテトチップスをねだる夫に、難色を示す私。その後夫は、
「わかった、じゃあもういいよ。プリンとゼリー買ってきて。ゼリーは果物が入ってるやつ」
と、すぐに諦めます。私は「わかった、プリンとゼリーね。晩御飯はどうする?」と答えて会話が続くのですが、今聞くと「なぜポテトチップスを買ってあげないのか!?」と当時の自分を激しく問い詰めたい、苦しい気持ちになりました。自分で自分を憎みたくなるほどです。
買ってあげればよかった。
ポテトチップス、食べたいなら食べさせてあげればよかった。
当時、食べすぎたりなどして毎日のように腹痛を起こしていた夫。私はそれを警戒して、「好きなものを食べさせたい」と思う気持ちと「腹痛を起こしてほしくない」という気持ちがせめぎ合っていました。
でも、食べたい時に食べたいものを食べるって、そんな機会はずっと続くわけではありません。あの時せっかく食べたくなったのに、なんで反対してしまったんだろうと悔やむばかりです。
私はカネさんのように「辛かったことがない」なんて絶対に答えられないし、食べたいものを好きなように食べることも、食べさせることもできませんでした。とても超人にはなれそうになく、でもまあこれも私なので受け入れて生きるしかありません。
カネさんのエピソードを思い、そして夫とのやり取りを思い出して、自分の小っぽけさを噛み締めるばかりです。
