《親・高齢者との付き合い方》全国の介護施設を回るレギュラー「話し上手より聞き上手」認知症の人の同じ話も“笑い”に変えて家族をラクに
「あるある探検隊」のリズムネタで一世を風靡したお笑いコンビ・レギュラーの西川晃啓さん(47歳)と松本康太さん(47歳)。現在は「レクリエーション介護士」などの資格を取得し、全国の介護施設を訪問して高齢者に笑顔を届ける活動を10年以上にわたって続けている。お笑いの第一線で培った技術を活かした高齢者とのコミュニケーションの極意から、介護現場への深いリスペクト、そして今後の目標まで2人に話を聞いた。【全3回の第3回】
相槌とリアクションはオーバーに。相手が話しやすい空気を作る芸人の技術
――高齢の親や祖父母と話す際、何を話せばいいか分からないという読者も少なくありません。会話を盛り上げるために、今すぐ試せるコツはありますか?
松本さん:学生さんや介護を学びたい人たちから「どうやったら高齢者の方が話をしてくれるんですか?」と質問された時、ぼくらが最初に伝えるのは「リアクションはオーバーに」ということです。ぼくら芸人も「話し上手になる前に、聞き上手にならなあかん」と先輩から教わります。相手が気持ちよく話せるように、合いの手を入れたりリアクションを取ったりすることが大切です。
すると、相手の話をどんどん引き出していけるので、話しているこちらも勢いがついて楽しくなってきます。つまり、「私はあなたに興味を持っていますよ」という姿勢を、全身で伝えることが大事なんです。
――相手に興味を持つことが、何よりのコミュニケーションになるのですね。ただ、高齢者の中には急に不機嫌になったり、何度も同じことを繰り返したりする方もいます。そうした場合はどう接すればいいのでしょうか。
西川さん:認知症などで忘れてしまって、何回も同じことを言うことってありますよね。もし家族など、すでにしっかりとした人間関係ができている間柄なら、そこを明るくツッコむのも一つの手です。強く否定して言い返すのではなく、「その話、さっきも聞いたで!」と、うまく笑いに変えてあげるんです。
松本さん:基本は「受け流す」という感覚ですね。「そうなんや、分かった」と一度受け止めてから、うまく受け流してあげる。そうやって深刻になりすぎずに向き合うことで、介護をしているご家族が、後で他の人に「うちの親、こんなこと言うててん」と笑い話として話せるようになればいいなと思っています。
節分も若者文化でアップデート。介護スタッフも若者も楽しめる空間づくり
――世間では、介護に対して「きつい」「暗い」といったネガティブなイメージを持つ人もいます。このイメージをどのように変えていきたいですか?
松本さん:現場で毎日介護をされているスタッフの皆さんは、本当に大変な部分がたくさんあると思います。ぼくたちはあくまで介護業界の端っこで、自分たちの得意な「お笑い」というジャンルでお邪魔させていただいている立場なので、あまり大きなことは言えません。でも、少しでも介護スタッフの方自身が楽しんで働ける環境になっていけばいいなと願っています。
以前、ある施設に行かせていただいたときのことです。そこは若いスタッフさんが多い施設だったのですが、節分の豆まきのときに、スタッフが『進撃の巨人』の巨人スーツを着ていたんですよ。“鬼”ではなく“巨人”の格好をして、それに向かって利用者さんが丸めた紙を投げるというレクリエーションでした。ちゃんとアニメのテーマ曲も流してね。
若いスタッフさんたちはノリノリでやっているし、高齢者の方々は「これ何?」と言いながらも、「若者の間でこんなアニメが流行ってるんですよ」と教えてもらって楽しんでいました。昔の文化に寄せるだけでなく、今の流行りを取り入れることで、高齢者も今の若者の文化を学べるんです。
西川さん:高齢者の方にとっても、施設で流行りを教えてもらうことは、家に帰ったときにお孫さんとの会話のネタになると思うんです。新しいことを追うのは、いくつになっても大事なことですよね。
信じられないくらいウケる。介護現場が芸人に与えてくれる圧倒的なパワー
――お二人が10年以上にわたって介護と向き合い、施設への慰問や講演活動を続けてこられた原動力は何でしょうか。
松本さん:純粋に、福祉業界の方々がたくさん依頼をしてくださるからです。「来てくれてうれしいです。ありがとうございます」と言っていただけるのが本当にありがたくて。
西川さん:あとは、信じられへんぐらいウケるからです。もちろん劇場の舞台も楽しいのですが、ウケるから芸人としての自信がつく場なんですよ。
松本さん:それから、ぼくらがお笑いの仕事をしていて一番強く感じるのが、福祉従事者の方々の温かさです。例えば、福祉関連の会社さんが全国からスタッフを集めて行う忘年会などに、「15分ネタをやってください」と呼んでいただくことがあります。そういう時、福祉関連の方々はもう、めちゃくちゃ笑ってくれるんです。普段から人の気持ちに寄り添っている方々だからこそ、ぼくらの舞台を圧倒的なウェルカム感で迎えてくれる。一緒にその場を盛り上げようとしてくださるんです。その優しさに、ぼくたちはいつもすごいパワーをいただいています。
――今後、お笑いコンビとして「介護」というテーマでさらに挑戦していきたい活動はありますか?
松本さん:よく「福祉は若者のなり手が少ない」と言われます。だからこそ、まだ福祉に興味がない人たちに知ってもらえるような活動ができればと思っています。例えば、最初は「お笑いを見に来る」という感覚で福祉フェアや講演会に来てもらい、そこで「実は介護の現場ってこんなに面白いことがあるんですよ」と若い世代に伝える。全国でそういう講演会を続けて、「この人たちの話を学生や若者の前でしてもらおう」と呼んでいただける機会が広がっていけばいいなと思っています。ぼくたちの活動が、福祉業界に若い方たちが入ってくれるきっかけになれば、これほどうれしいことはありません。
◆お笑いコンビ・レギュラー
西川晃啓(にしかわ・あきひろ)/1979年8月11日、京都府生まれ。松本康太(まつもと・こうた)/1979年5月16日、京都府生まれ。1998年にコンビを結成。「あるある探検隊」のリズムネタで大ブレイクし、バラエティ番組などで活躍。2014年より全国の介護施設への慰問活動を本格的に開始し、2017年にコンビ揃って「レクリエーション介護士」の資格を取得。現在は介護施設でのお笑いライブのほか、介護に関する講演会やイベントにも多数出演。笑いを取り入れた独自のレクリエーション活動を精力的に行っている。
撮影/TOYO 取材・文/小山内麗香
