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健康

高齢者がいつまでも自分の口から食べるために「“噛む”ことが食の喜びをもたらす」 家庭でできる持続可能な食支援を専門家が指南

 家電メーカーのシロカが自動調理鍋の新製品「おうちシェフクッカー」の発表会を開催(5月22日・千代田区)した。製品の案内に続いて出席者の関心を集めたのは、歯科医師で食支援研究家の五島朋幸さんによるセミナーだ。テーマは【「何を食べるかは、どう生きるか」~新しい介護の食の提案~】。一部を紹介する。

五島朋幸氏プロフィール

日本歯科大学卒業。博士(歯学)。ふれあい歯科ごとう代表。日本歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科臨床教授。新宿食支援研究会代表。株式会社WinWin代表取締役。著書に『死ぬまで噛んで食べる 誤嚥性肺炎を防ぐ12の鉄則』(光文社新書)、『訪問歯科ドクターごとう1:歯医者が家にやってくる!?』(大隅書店)などがある。

筋力低下に伴い「飲み込む力」も弱くなる

 歯科医師の五島さんは、1997年から訪問歯科診療を行い、「食べるための支援」を続けている。

「高齢者のお宅を訪問していると、ある現実を目にします。ほんの数日前まで家族みんなで同じ食事をしていたのに、入院して退院したら、口からの食事がままならない方が大勢いることです。誤嚥性肺炎ならまだわかります。でも実は、大腿骨骨折で入院して、食べられなくなって帰ってくる人がいっぱいいるんです」(五島さん・以下同)

 骨折で入院すると、なぜ口から食べることが困難になるのか。背景には、サルコペニアが影響している。サルコペニアとは筋肉量が減少し筋力(身体機能)が低下する状態で、進行すると歩行や立ち上がりなどの日常的な動作が難しくなり、転倒や寝たきり、さらには死に至るリスクもあるという。

「サルコペニアには2種類あり、一つは加齢が原因の一次性サルコペニア。人の筋肉量のピークは20才で、そこから筋肉量が下降します。そして50代以降は10年間でおよそ10%のペース、つまり年1%のペースで落ちていくという報告があります(※1)。

 加えて、活動、栄養、疾患が原因の二次性サルコペニアがあり、その一例が、入院中に急激な筋力低下を起こすケースです。

 高齢者が入院して安静にしていると、1日0.5%筋肉量が減ると言われています。加齢により落ちる筋力が年1%なのに対し、1週間の入院で3.5%、つまり3年分の筋肉が失われる計算になります。分かりやすく言えば、85才のお父さんが入院して1週間後に帰ってきたら、88才相当の筋肉量になってしまうわけです」

※1 出典/谷本芳美、渡辺美鈴、河野令、広田千賀、高崎恭輔、河野公一、日本人筋肉量の加齢による特徴、日本老齢医学2010:(47)52-57

 さらに注意したいのが、サルコペニアによる嚥下(えんげ)障害(飲み込み障害)だ。

「人が口からものを食べられなくなる原因は、脳梗塞の後遺症による嚥下障害や精神疾患などいろいろ挙げられますが、もう一つ、サルコペニアによる嚥下障害があります。これは全身の筋力低下に伴い嚥下関連筋がもろくなり、“噛んで、送って、飲み込む”という一連の動作が困難になる状態のこと。誤嚥性肺炎後では約41%(※2)、大腿骨骨折後では約34%(※3)の患者が発症するという報告があります。

 みなさんが高齢の家族と一緒に暮らしていたら、その方は明日から食べられなくなる可能性だってある。身近な問題として考えてほしいんです」

※2 R Momosaki et al. Predictive factors for oral intake after aspiration pneumonia in older adults. Geriatrics & gerontology international, 16(5) 556-60, May, 2016
※3 Love A L, et al. Oropharyngeal dysphagia in an elderly post-operative hip fracture population: a prospective cohort study.Age Ageing. 2013 Nov;42(6):782-5.

形あるものを食べることが食の喜びに

 では、どうすればいいのか。五島さんが予防策として挙げたのが、咀嚼(噛むこと)を可能な限り維持し、嚥下筋力を落とさないことだ。噛むためには、歯(または義歯)、噛む力(筋力)、食物を認知する能力(口腔認知)、頬や舌の働き、そして唾液——この5つが必要になる。「中でも特に重要なのが食物を認知する能力だ」と五島さんは語る。

「目隠しをして、口の中に食べ物を入れられても人は噛めます。飴玉ならガリッ、おせんべいならパリッ、マシュマロならすっと噛む。わかっているから噛めるんです。でも高齢になると、この力が落ちてくる。口に入ったのに、入ったという感覚がなくなる。これが在宅介護の現場でよく起きていることです」

五島さんは、在宅療養中の高齢者の約3割が噛むことに何らかの問題を抱えており、約7割が栄養に問題がある(※4)というデータを挙げながら、咀嚼能力と栄養状態の因果関係を示唆した。

※4 出典:「平成24年度老人保健健康増進等事業在宅療養患者の摂食状況・栄養状態の把握に関する調査研究報告書」(国立⾧寿医療研究センター)

「噛む健康効果はいくつもあります。消化吸収の促進や口腔環境の改善、生活習慣病の予防、そして特に注目すべきは脳への刺激です。しっかり噛むことで前頭前野が活性化され、コミュニケーション力、感情のコントロール、そして認知力の向上にもつながることが研究で示されています」と、五島さん。噛むことが、健康の土台を作っているのだ。

 さらに食べることで身体だけでなく心にも栄養補給ができるのだと、五島さんは強調する。

「色彩豊かな食材に美しい盛り付け、料理の香り、咀嚼の音や会話、食感や喉ごし、味覚。口から食べることで五感を通じた喜びを得られます。形のある、美味しそうな料理を目の前に出された時と、とろとろの流動食を渡された時とでは、今日のお昼が楽しみという気持ちが全然違うはずです。形があるということには、それだけの意味があるんです」

家庭でできる「持続可能な介護食」とは

 高齢者の食を支える手段として、市販の介護食品や配食弁当などの活用がある。噛むことや飲み込みに配慮がされているものが多く、いずれも有効な選択肢だが、それぞれに課題もある。市販の介護食品は1食分を揃えるとコストがそれなりにかかり、配食弁当は機能に合わせた細かな対応が難しい場合があり、どうしても飽きてしまうことも。

「家庭で対応できるのであれば、やっぱり家庭で作りたいですよね。本人の希望に応えられる、家族と同じ食材、出来たてを食べられる——家庭調理にはそれだけの価値があります。ただし、作る側の負担は計り知れません」

 そこでキーワードとなるのが「便利な家電」の活用だ。

やわらか食づくりに「おうちシェフクッカー」を

 時短・安全・再現性の高い調理が可能になり、介護者の負担を大きく減らすことができる。そのニーズに応えた製品が、今回シロカが発表した自動調理鍋「おうちシェフクッカー」だ。

 独自の「スマートプレッシャー技術」により、業界最高クラス(※)の高圧力(最高100kPa)を一定にかけ続けることで、食材を芯まで柔らかく煮込みながら形を残すことができる。普通の鍋と比べて柔らかさは約4.5倍UP、味のしみこみ度は約3倍UP、さらに栄養素の残存率は約94%と高い。

※[調査方法]2026年5月時点で発売されている電気圧力鍋カテゴリーにおいて(シロカ調べ)

 付属の「やわらか食」専用レシピブックには、白身魚の煮つけや豚肉のしょうが煮など、長時間煮込む手間なく時短で柔らかく仕上げられるレシピが多数収録されている。

 開発担当者は、食感と見た目にとことんこだわったと話す。「流動食ではなく、形があって見た目も美味しそう、食感も残る――家族みんなで同じものを食べられる“やわらか食”を目指しました」と語ってくれた。

 操作の手順や調理の進み具合を音声で知らせてくれる「音声ガイド」機能も搭載。シニア世帯でも安心して使えるユニバーサルデザインが施されている。

 2.4Lサイズは1〜3人分に対応し、シニア世帯にちょうど良いコンパクトサイズ。5Lサイズは4〜6人分が作れ、主菜と副菜を同時に完成させる「同時調理」機能も備える。

市販の介護食品や配食弁当を上手に組み合わせながら、こうした家電を取り入れることも、食生活を無理なく続けていくひとつの選択肢だ。

 何を食べるかは、どう生きるかにつながる。口から食べ続けることを諦めないために、こうした便利家電も最大限活用したい。

取材・文/桜田容子

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