《すい臓がんの夫を自宅で看取ってから1年半》倉田真由美さん、夫を漫画で描く心境を語る「夫の声が聴こえてくる気がして…どうしても泣けてきてしまう」
「夫が旅立って1年半が過ぎ、家の中から彼の気配が消えていくような寂しさを感じています」と、漫画家の倉田真由美さん。新著『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』が話題の倉田さんに、現在の心境を語ってもらった。
「リアルに夫が蘇ってくる」
「オレ家で死にたい。だめ?」
倉田さんの新著には、夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(享年56)を看取るまでの640日間がイラストと文章、コミックで描かれている。すい臓がんが発覚した2022年の初夏、「俺のこと漫画にしたら?」と言う夫に対し、「そんなの嫌だよ」と答えていた倉田さん。
旅立ちの日から1年半が過ぎ、いよいよ漫画に本格的にペンを入れることを決心した。
「夫を失った直後はとても漫画を描けるような状態ではなかったんですね、辛すぎて…。紙の上で夫のキャラクターを動かすとき、つまり絵にセリフをつけていくと、夫の声が聴こえてくる気がしてね…。リアルに夫が蘇ってくるんですよ。描いていると、どうしても泣けてきてしまうんです」(倉田さん、以下同)
《「涙って熱いんだな」というのをはっきりと自覚したのも、夫の死後、あまりにも何度も泣くようになってからです。夫を失って、私の生きる世界はこれまでと別の物になってしまいました》(新著・第4章より)
闘病から看取り、そして伴侶を失ってからの日々、激しい後悔や苦しい胸のうちが綴られているが、少しずつではあるが「泣かない日」も増えているという。
「この一年半、長かったような短かったような…。これからも変わらず月日は流れていくわけですが、それが少し怖くもあるんです。
夫は、リビングの座椅子によく座っていたんですよ。ニトリで買った同じ座椅子を3つ並べているんですが、夫がいつも座っていた左側の座椅子が一番大切なんです。
最後の日々で少し吐いてしまったときのシミがちょっと残っていて…。彼の思い出が色濃く残っているんですよね。
もちろん記憶はあるし夫の思い出は映像としては頭に浮かぶんですけど、夫がここにいて、こういう感じで話していたな、とか、臨場感が少しずつ薄れていく気がするんです。家の中から夫の気配が少しずつなくなっていくような気がして…。それがとても寂しいんです。
当たり前に夫がいた日が、遠ざかっていく感覚もあります。去年までは、『一年前の今日は夫がいた』という振り返り方ができていたけれど、1年前の今日には、もう夫はいないんです」
姪っ子の明るさに救われる日も
叶井さんが使っていた部屋には、現在24才の姪(妹の娘)が暮らしている。
「夫の死後、ほどなくして姪から連絡があり、『来月から一緒に住むけん!』と宣言されて、それからずっと一緒に暮らしています。
姪はとっても明るくて、今時のキラキラ系女子。いわゆるパリピという感じ。インスタに載せる写真をしょっちゅう撮っていて、私のLINEにもよく写真を送ってくれます。
どこか夫に似ているところがあって面白い。漫画に描きやすいキャラクターというか、見ていて飽きません。姪っ子はとても明るくて、家の中が暗くならずに済んだことはあるのかもしれません」
新著では、在宅緩和ケア医の萬田緑平さんとの対談も収録されているが、ふたりの意見で共通しているのが「いつ死んでもいいように生きていく」という考え方だ。
「夫は9月18日が誕生日なので、生きていたら58才。あんなに未来も過去のことにもこだわらない人、見たことないですよ。常に今を楽しんで生きている人でした。『いつ死んでも悔いはない』と本気で言っていましたからね。
夫の看取りを経験して、10年先のことよりも今日をいかに生きるか。今やりたいことをやっておきたいという考え方に変わりました。
未来を決めつけるようなことはあまりしたくない。あまり先のことを考えても仕方ない。だって私、夫とずっと一緒にいるつもりだったのに、50代でかなわなくなったわけですから」

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◆倉田真由美
くらた・まゆみ/1971年福岡県生まれ。漫画家。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。最新著『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』が9月26日に刊行。
写真提供/倉田真由美さん 撮影/五十嵐美弥 ヘアメイク/大嶋祥枝 取材・文/桜田容子