話題の脳トレ スピードトレーニング「ブレインHQ」認知症専門家の評価は?
今年7月に開催された国際アルツハイマー病会議で、コンピューターによる脳トレ「スピードトレーニング」の利用によって認知症リスクが低下すると発表され、話題になっている。
この脳トレを認知症治療にいち早く取り入れている東京の「メモリークリニックお茶の水」院長の朝田隆氏に、この脳トレの特徴や期待される効果について話を聞いた。
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認知症予防に有効な、たったの2つの方法
「この30年ほどの間に、認知症予防に有効とされる方法や食品は数多く登場してきましたが、その中で“エビデンス(科学的根拠)”のあるものは、残念ながらごくわずかです」と、朝田氏は言う。
認知症に関しては、これまで1000を超える論文が発表されてきたが、最近になってその論文の質を評価する作業が進められてきた。
「ショッキングなことに、認知機能の低下に対して意味があると認められたものは『運動』と、一部の『認知トレーニング』だけでした」(朝日氏、以下「」同)
こうした研究結果を踏まえ、朝田氏は認知症予防に有効な方法として次の5項目をあげ、自身のクリニックでも積極的に推奨している。
⦁ 「運動」がイチオシ!
⦁ 学んで「認知予備能」を伸ばす
⦁ バランスのよい食事で脳を育む
⦁ 睡眠の質を高めることで、記憶をつくる
⦁ 社会と交流し、ストレス解消を
この中の2つ目、「認知予備能」に関わってくるのが認知トレーニング、いわゆる“脳トレ”だ。ただし、どんな脳トレでも有効というわけではない。
「認知症の予防には、今まで使っていなかったけれど、ずっと脳内に維持されてきた神経細胞を活性化し、そこに新しい神経回路を作る、つまり『認知予備能を生かす』のがミソなんです。そのためには、これまでに体験したことのない、新しくて面白いものに取り組む必要があります。
例えばインターネット・サーフィン中に面白い話題を見つけると、次々にリンクをたどり、あっという間に30分や1時間たってしまうことがありますね。これを神経心理学的に『作業興奮』といいます。作業することで脳が興奮し、どんどん活動的になる状態です。認知予備能を目覚めさせるには、作業興奮を起こすような面白くて、新しい刺激が必要です。
1人で黙々と取り組む数独のようなゲームや、定石のようなパターンのある囲碁、将棋などでは、既存の神経回路を使い回しているだけですから、認知症予防にはほとんど意味がありません」
ゲーム感覚で脳を鍛える
朝田氏が院長を務める「メモリークリニックお茶の水」では、認知機能低下の早期発見・早期治療をコンセプトに、さまざまな認知機能プログラムを採用している。
例えば、運動と知的活動をミックスした「シナプソロジー」や、芸術活動に取り組む「アートマン」、料理教室など。今後、そのプログラムのひとつとして検討されているのが、コンピューターを使った脳トレ『ブレインHQ』だ。現在は一部の患者が試験的にこのトレーニングを受けている段階だと朝田氏は話す。
『ブレインHQ』は、100人以上の世界的な脳研究者の協力のもと、アメリカのポジット・サイエンス社が開発した脳エクササイズ。この中には、アメリカでの大規模実験によって「認知症発症リスクを48%低下させる可能性がある」とされた認知トレーニングである「スピードトレーニング」など、23のゲームが含まれている。
例えば、注意力を鍛える「ダブル・ディシジョン」というゲームでは、画面に現れた2つの図形の“色”が同じかどうかを瞬時に判断してはい/いいえで回答する。最初のうちは、同じ画面が2秒ほど表示されるため楽勝だが、表示時間は次第に短くなっていき、最後のほうには瞬きする間に見逃してしまうほどの間で判断することが求められる。