「暗くて後ろ向きな夫が嫌」シニア女性の悩みに毒蝮三太夫がアドバイス!|マムちゃんの毒入り相談室」第73回
「夫と毎日を笑って暮らしたい」と願っている74歳の女性。しかし、夫はと言えば、極端にネガティブな性格で、すべてを悲観的に受け止めて後ろ向きなことしか言わない。相談者は「夫を変えたい」と願っているが、マムシさんは「ダンナの性格はもう変わらないよ」と断言しつつ、それでも二人で楽しく暮らしていける道を探る。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「口を開けば泣き言か愚痴しか言わない夫が嫌です」
このところ「今日も暑いねー」が挨拶になっちゃってる。今は一年でいちばん暑い時期だ。最近の暑さは昔とは迫力が違うからね。ジジイもババアも熱中症にはくれぐれも気を付けてくれよ。何はさておき、適切にエアコンを使うことと小まめな水分補給が大事だ。
時々「自分は大丈夫だ。年寄り扱いするな!」なんて強がってるのもいるけど、そんなのはぜんぜんカッコよくない。何よりかわいげがないよ。「いやあ、もう歳だからね。ちゃんと気を付けてるよ。心配してくれてありがとうね」と素直に言えるチャーミングな年寄りになろうじゃないか。
今回は、5歳年上の夫のことで悩んでいる74歳のパートの女性からの相談だ。
「79歳の夫は、口を開けば泣き言か愚痴しか言いません。夏になって自分が汗かきな体質だということが気になり始めたら、それだけで『早く死にたい』と何度も繰り返しています。
子どもたちが夫のことを心配して意見を言うと、激しく落ち込んで『やさしい言葉が欲しい』とか『お前が先に死んだらやさしくしてもらえない』とブツブツ言い続けます。
私たちの生活に張り合いを持たせようと思って、子どもたちが犬を買ってくれたんですけど、夫は『世話が嫌だ』と文句ばかり。朝から晩まで一日中、暗くて後ろ向きなことしか言わないので、もうかける言葉がなくなってきました。私は夫と毎日を笑って暮らしたいのです。どうすればいいでしょうか」
回答:「きっとダンナは変わらないよ。まず自分が笑顔になってみよう」
なるほどね。奥さんであるあなたは、根暗なダンナに不満がたまってるわけだ。気持ちはわかるよ。でも、ダンナの気持ちもわかる。きっと長いあいだちゃんと働いて、家族を支えてきたわけだ。この年代の男性は、何より仕事優先で、家族との接点は少なかったかもしれない。言ってみれば、昭和の男として一生懸命に生きてきたわけだよな。
俺もそんなところがあるけど、外ではそれなりに人当たりがよくても、奥さんにはムスッとした態度を取ってきたかもしれない。甘えてると言われれば、そのとおりだ。だけど、ずっと家でムスッとしてきたダンナに、ガラッと性格を変えろ、家の中ではいつもニコニコしていろと言っても、そりゃ無理な話だよ。
たしかに相談を読むと、こういうダンナが家にいたら気が滅入るだろうな、とは感じる。でもね、人と人との関係っていうのは合わせ鏡だ。奥さんの側も、ダンナに対して小言ばっかり言っていたり、嫌な顔しか見せてなかったりするんじゃないのかな。「とんでもない。私はいつもニコニコと接してます!」ってことなら、勝手に決めつけて悪かった。謝ります。
俺が言いたいのは、ダンナの短所ばかり見ていても、けっして楽しい毎日にはならないってことだ。「どうしてウチのダンナはこうなのかしら」とばかり思っていたら、欠点ばかり目に付くし、どんどんイヤな人間に見えてくる。はっきり言って、ダンナの性格はもう変わらないよ。変えることを考えるより、今のダンナをどう受け止めるかを考えよう。
あなたは、ダンナと別れたいわけじゃない。これからも一緒に、できれば楽しく暮らしたいと思ってる。ということは、ちゃんとダンナを愛してるってことだ。けっして100点のダンナじゃないかもしれないけど、70点ぐらいは取れているとしたら、いいところだってたくさんあるに違いない。どうせだったら、そっちを探そうじゃないか。
「人は変えられない。まずは自分を変えよう」っていう言葉を聞いたことはないかな。人間関係の悩みは、ほとんどが「どうすれば相手を変えられるか」っていうところにある。そう考えていても、解決策は見つからない。だから悩みがどんどん深くなる。
ダンナの笑顔を増やす手っ取り早い方法は、自分がいつも笑顔でいることだ。「もっと笑いなさいよ! どうしてそんなに暗いの!」とハッパをかけたところで、ダンナの笑顔は増えないよ。思い出の場所や店を訪れてみたり寄席に行ってみたりしれば、自然に顔がほころぶかもしれない。DVDで懐かしい映画や名人の噺を一緒に見るのも楽しいんじゃないかな。
トゲトゲしてる相手に対して、こっちもトゲトゲした受け止め方をしてたら、ぶつかり合って火花が散るだけだ。こっちは蒲団のようにやわらかいクッションになって、ふわっと受け止めてみたらどうかな。一方的に我慢しろって言ってるわけじゃない。お互いが穏やかな気持ちで過ごせるように、まずは自分ができる工夫をしてみようって話だ。
いろいろ厳しいことも言っちゃったけど、ダンナと毎日を楽しく過ごしたいと思っているあなたは、とてもいい奥さんだよ。「夫なんか知ったこっちゃないわ」って言って、ハナから相手にしようとしない妻も多いんだから。相談を読むと、二人ともまだまだ元気みたいだ。ないものねだりよりも、今ある幸せをたっぷり噛みしめようじゃないか。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時から放送中。89歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
YouTubeの「マムちゃんねる【公式】」も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
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石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」「失礼な一言」など著書多数。新著『昭和人間のトリセツ』(日経プレミアシリーズ)と『大人のための“名言ケア”』(創元社)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。