「もう長生きしたくない、と言う母にかける言葉が見つかりません」悩む娘に毒蝮三太夫が授けた“魔法の言葉”|「マムちゃんの毒入り相談室」第72回
夫を亡くして以来、口癖のように「私も早くお迎えが来てほしい」と言っている88歳の母親。58歳の娘は、そんな様子に胸を痛めつつ「母を前向きにする言葉が見つからない」と悩んでいる。「母に長生きの楽しさを教えてください」という訴えに対して、マムシさんは母親の気持ちを慮りつつ、いくつかの“魔法の言葉”を伝授する。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「元気がない母親に前向きな気持ちを持ってほしい」
巨星墜つ、だな。長嶋茂雄さんが、3日にお亡くなりになった。野球界はもちろん、戦後の日本を明るく照らしてくれた大恩人だ。まさに日本の星だったよ。この日がいつか来ることは覚悟していたけど、もう会えないかと思うと、片腕をもがれたような気持ちだ。
オレとは同い年で、長嶋さんからは「毒さん」と呼ばれてた。どっちもねずみ年ってことで、長嶋さんは「オレはハツカネズミで、毒さんはドブネズミだ」なんて冗談で言ってたな。本当に長い間お疲れさまでした。オレとしては長嶋さんの分まで命を大事にして、長く生きていかないとね。それが長嶋さんへの何よりのお返しだし、供養だと思ってる。
今回は、88歳のお母さんのことで悩んでいる58歳の会社員の女性からの相談だ。
「母は今88歳。二年前に父が他界してからは、口癖のように『私も早くお迎えが来てほしい』と言ってばかりです。
私は、少し離れたところに住んでいるのでいつも一緒にいるわけではありませんが、一人娘なので、できるだけ母のところに行くようにしています。
私や孫(23歳)に会ったときは、それなりに楽しそうにしていますし、元気がないわけではないのですが、『このままずっと元気かわからないし、死ぬならぽっくりがいい』『私が長生きしても、迷惑なだけでしょ?』『お父さんもいないし、会いたいお友達もいない』と話す母。それを聞くと、私もその気持ちがよくわかるのです。
もちろん、母には元気で長生きしてほしいですが、いつ介護状態になるかわからないし、そうなったときに、母が今より楽しい暮らしができるとも思えないのが正直なところです。母を前向きにする言葉がまったく見つからないのです。
やさしくない娘だと思うのですが、私は母とどう過ごしたらいいのでしょうか? いつもお元気なマムシさん、母に長生きの楽しさを教えてください」
回答:「気持ちを受け止めた上で、お母さんがいなくなったら寂しいと伝え自分は必要な存在なんだと思ってもらおうよ」
こういう話は、よく聞くよね。やさしくないなんて、とんでもない。お母さんを心配してあげているあなたは、十分すぎるほどやさしい娘だよ。お母さんは、これまで立派にがんばって生きてきた人なんだろう。だけど今は、夫や子どもの面倒を見る必要がなくなって、一種の虚脱感を覚えているのかもしれない。その寂しい気持ちは、いったん受け止めてあげよう。
頭ごなしに「そんなことばっかり言って!」「後ろ向きなことばっかり言わないで!」なんて叱りつけたらかわいそうだ。まずは「そうなんだね。そう思うんだね」と、やさしい口調で返してあげる。その上で「でも、お母さんがいなくなったら私たちも寂しいから、なるべく長くいっしょにいたいな」と言って、自分はまだ必要な存在なんだと思ってもらおう。
こんな話をするのもいいかもしれない。「あの世に行くときは、いちばんいい顔で行ったほうがいいんじゃないの。エンマ様だって、こっちが笑顔で幸せそうにしてると天国に行かせたくなるけど、つまんなさそうな顔してたら地獄に落とされちゃうかもよ」って。「お父さんだって、幸せそうなお母さんを迎えたいと思ってるわよ」と言ってあげるのもいいね。
お母さんは、言ってみれば生きる目標や意味を見失ってるわけだ。「お母さんがいい顔で毎日を過ごしてくれるだけで、私たち子どもや孫は幸せを与えてもらえるんだから」と何度でも伝えよう。照れくさいかもしれないけど、これは子どもや孫としては嘘偽りのない気持ちだ。気持ちは言葉に出さないと伝わらないから、ひとつがんばってみよう。
「お母さんがいい顔になれば、私たちもいい顔になれるじゃない。そしたらみんなエンマ様に合格点をもらえて、タイミングは違うかもしれないけど、いつかは一緒に天国で暮らせるわよ」と伝えるのもいいね。宗教的には何の根拠もない話だけど、大事なのはお母さんに元気になってもらうことだ。その気持ちは必ず伝わるよ。
言葉だけじゃなくて、お母さんの寂しさを具体的に埋める必要もあるかもしれないな。何かの折に、若い頃にどんな映画が好きだったとか、どんな歌手のファンだったかなんてことを聞いてみよう。落語や浪曲が好きだったかもしれない。好みがわかったら、DVDを探してきて「久しぶりに観てみれば」なんて勧めれば、けっこうはまるんじゃないかな。
身体は動くようだから、夫との思い出の場所に連れて行ってあげるのもいいね。そういうときに母親から昔話を聞けたら、きっと楽しいし大事な思い出になるよ。今はあなた自身も、母親に影響されて後ろ向きな気持ちになっているみたいだけど、母親をどう励ませばいいか考えることで、前向きな気持ちになれるんじゃないかな。
親孝行ができるっていうのは幸せなことなんだ。昔から「孝行したいときには親はなし」「墓に布団は着せられず」っていう言葉がある。仕事も家庭もあって忙しいとは思うけど、いなくなってから後悔しても遅い。精一杯お母さんを大事にしてあげてくれ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時から放送中。89歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
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石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」「失礼な一言」など著書多数。新著『昭和人間のトリセツ』(日経プレミアシリーズ)と『大人のための“名言ケア”』(創元社)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。