若者の8割以上は「補聴器に抵抗がない」周囲の目が気になるシニア世代とは、意識の差が大きいことが判明【専門家が教える難聴対策Vol.25】
シニア世代のかたの中には、「補聴器をしていると知られるのが嫌、恥ずかしい」という理由から補聴器に一歩踏み出せない人もいるのではないだろうか。しかし、「若者の8割が、加齢により聞こえにくくなったときは補聴器装用に抵抗を感じない」という興味深い調査結果がある。この調査をもとに、認定補聴器技能者の田中智子さんが補聴器を巡る社会の状況を考察。
教えてくれた人
認定補聴器技能者・田中智子さん
うぐいす補聴器代表。大手補聴器メーカー在籍中に経営学修士(MBA)を取得。訪問診療を行うクリニックの事務長を務めた後、主要メーカーの補聴器を試せる補聴器専門店・うぐいす補聴器を開業。講演会や執筆なども手がける。https://uguisu.co.jp/
補聴器をつけている人を若者はどう見ている?
若年層に聞いたアンケートによると、補聴器をつけているシニア世代について、「ポジティブに感じる」人は7割超、「かっこ悪いと感じない」人は9割超。
世界トップクラスのシェアをもつデンマークの補聴器メーカーの日本法人、GNヒアリングジャパンが実施した調査※で、興味深い結果が出ています。
※「難聴を感じているシニア500名と若者500名に聞いた『補聴器をつけることに対する意識』アンケート調査レポート 2025年」(GNヒアリングジャパン)。https://x.gd/i3MGU
補聴器販売店に来店されるお客様から、「補聴器を着けていると知られたら、話しかけられなくなってしまうのでは」とか「聞こえないことが相手にわかって恥ずかしい」といった心配事をよくお聞きします。
しかし、前述のアンケート調査からは、シニア世代と若者の意識にギャップがあることがわかりました。
調査によると「年寄りだと思われたくない」といった見た目に関するネガティブな思いを持つシニア世代が全体の25%、「周囲の目が気になる」人は35%いました。
一方、若者はそもそも「恥ずかしいことではないと思う」という意見が56.4%と最も多い結果となっています。
また「目が悪くなったらメガネをかけることと同じで、耳が悪くなったら補聴器を着けることが自然なことだと思う」などの意見も。若者にとっては、自分らしく生活するためなら、補聴器を使用することは「当たり前」だと感じているのです。
この調査でも引用されているのですが、一般社団法人日本補聴器工業会によると、「難聴を感じている65才以上のシニアの補聴器所有率は」約18%となっています。
これに対し、若者は「自身が将来聞こえにくくなった際に補聴器をつけることに抵抗はあるか?」と聞いたところなんと83%が「いいえ」と回答しているのです。
同調査に寄せられた声には、「年を取ると新しいことにチャレンジしない人が多いので、補聴器をしていると頑固ではない、柔軟性があると好印象」など、補聴器を着けるシニアはかっこいい大人であるという意見が寄せられています。
どうでしょう?皆さんが思っているよりも、補聴器をつけていることは若者にとってはクールに映っているのです。
生活を楽しくする補聴器の機能
私のお店に来るお客様には、「隠したってしょうがない。むしろ見せた方がいいのよ」と補聴器の装着に対してポジティブなかたもいらっしゃいます。こうしたかたたちは、補聴器に慣れて、使いこなせるまでのスピードも早く、その後の人生を積極的に楽しまれています。
ある70代の女性のお客様は、「補聴器をつけたら旅先でアクティブに楽しめた」「補聴器店に来店する道中、新しいカフェのケーキを見つけたのよ」など、会うたびに明るい話題を提供してくださいます。
その女性の補聴器は、Bluetoothでスマホから音楽をストリーミングして流せる最新型。掃除機をかけるときに、大好きな韓流ドラマのサウンドトラックを聞いているそうで、掃除の時間が楽しくなったそうです。
何も耳につけていない状態なら、大きな音を発する掃除機をかけながら音楽を聴くというのはなかなか難しいことです。でも、補聴器をつけているからこそ、そういった楽しみができるのです。
補聴器は、聞こえないことを補うものではなく、むしろ積極的に人生を楽しめるようになるツール。
まさに冒頭のアンケート調査が示している通り、この方は補聴器で日々新しいチャレンジをポジティブに楽しみ、人生を積極的に謳歌されているようです。
補聴器が当たり前になりつつある社会へ
若者が補聴器に対してポジティブなイメージを持つようになった背景には、近年のワイヤレスイヤホンの普及が大きな影響を及ぼしているのではないでしょうか。
ワイヤレスイヤホンは、音楽を聴くだけではなく、オンライン会議、学習ツール、動画の視聴など、あらゆるシーンで重要な役割を果たしており、イヤホン市場は2025年も引き続き成長を続けていくことが予想されています。
近ごろ、牛丼チェーン店では、若者はみんなイヤホンをして、スマホを見ながら牛丼を食べていますよね(実は私、牛丼が好物です)。
耳にイヤホンを入れて物を食べると、咀嚼音が気になって本来だったら食べづらいはずなんです。しかし咀嚼音より、好きな音楽や動画配信サービスの音を聴きながら、食事を楽しんでいる。
これは補聴器も同じことがいえます。初めて補聴器を付けて食事をすると、食べ物を噛む音が気になるという人が多いのですが、だんだん慣れていくものなんです。
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「補聴器は年寄りがするもの」ではなく、人生をよりポジティブに輝かせることができる大人のためのツールだと捉えられる時代がやってきました。「聞こえにくいな」と感じているなら、どうか周囲の目は気にせず、新たな補聴器生活に一歩踏み出してみてはいかがでしょう。

今の時代、補聴器をつけることは「格好いい大人」のたしなみ
取材・文/立花加久 イラスト/奥川りな