介護施設に持ち込みNGの服とは?介護が必要な人にとって安全で心地いい服選びのポイントを社会福祉士が解説
介護が必要になり、自分で着替えが難しくなるとこれまで着ていた服が着られなくなることも。「着替えは本人にとっても介助する側も負担がかかるもの。服選びにはいくつか気をつけたいポイントがあります」とは、長年、認知症の母の介護を担った経験をもつ社会福祉士の渋澤和世さん。母のケアを振り返り、服選びのポイントについて解説いただいた。
この記事を執筆した専門家/渋澤和世さん
渋澤和世さん/在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れ
介護する人・される人にとって便利で快適な服とは?
高齢者の服選びは「自分自身で着替えがしやすいもの」を選んで欲しいと思います。誰かに着替えさせてもらうのではなく、なるべく長く自分で着替えができる状態を維持したいものですが、いずれは介護が必要になり他人のサポートが必要になることもあるかもしれません。
着替えの介助が必要な人も、介助する側も、どちらも快適な服の特徴や、介護施設に入居した際に持参する服のポイントについて、考えてみたいと思います。
着替えに介助が必要な人の服選び
高齢になると、ボタンやホックをとめたり、袖を通したりかぶったりするなど、ちょっとした動作がしにくくなります。要介護となり自分で着替えができない場合、介助する側も着替えのたびに腕や腰を持ち上げて、脱いだり着せたりするのはなかなか大変なこと。無理な体勢で着替えをさせてしまうと痛みや違和感が生じ、着替えを嫌がられてしまうことも。本人にも着替えさせる側にも負担が大きくなります。
ボタンがなく首からかぶるタイプの服も一人で着替えられる場合には着やすくて動きやすいのですが、「着替えの介助」を考えると、お互い負担が大きいかもしれません。
バンザイの体制が無理なくできるかたであれば、かぶるタイプでも比較的スムーズに着ることがきますし、ボタンなどの留め具がないのもラク。
腕を上げにくいかたの着替えを介助する場合は「前開きタイプ」がおすすめです。また、伸縮性があり、ゆったりした服は着替えのサポ-トもしやすく、着心地もいい。「伸縮性」「ゆったり」「安全」を重視して選びたいものです。
伸縮性
伸縮性のある素材は、身体への圧迫を最小限に抑えます。伸びることで介護者の作業もしやすくなり、本人も動きやすいので長時間快適に過ごせるでしょう。
ゆったり
サイズ選びは、なるべくゆったりとしたものを選び、肌に負担をかけないようにしたいもの。高齢になると肌が敏感になることもあり、車いすで座った状態が長い、ベッドで寝た状態が長くなると衣服の擦れによって肌に負担がかかります。
安全性
介護が必要なかたの場合、装飾はなるべく少ないデザインの服を選ぶと安心です。ファスナーに指を挟んでしまったり、小さなボタンを誤飲してしまったり、服の装飾が事故に繋がることも。また、フードがどこかに引っかかってしまう、丈が長すぎるズボンやスカートは踏んだり巻き込んだりして転倒に繋がるケースもあるので注意が必要です。
介護施設に持ち込みNGの服とは?
介護する人もされる人にも優しく安全に設計されている「介護服」の中で、施設に持ち込むには注意したほうがいいのが「面ファスナー」です。マジックタイプのテープでとめる面ファスナーはボタンより扱いがラク。
ボタンを自分でとめにくい高齢者や、着替えをサポートするときにも便利なことから、「フルオープンパンツ」「フルオープンパジャマ」などの名称で販売されています。着替えに便利な面ファスナー式の服ですが、介護施設によってはNGとなっているケースが多いのです。
「面ファスナー」タイプがNGの理由
介護施設の多くは、入居者の衣類を一度に洗濯、乾燥しています。乾燥機を使うことで干す手間が省け、スタッフの労力が削減されます。高温で乾燥させることで衣類の細菌の繁殖を防ぐ目的もあります。
面ファスナーの衣類に乾燥機を使うと接着面が弱ってしまい、くっつきにくくなってしまいます。面ファスナーをいちいち閉じてから洗うのも手間がかかる作業です。
施設に持ち込む服は、「乾燥機対応」「シワになりにくい」「乾きやすい」「縮みにくい」こと、そして「ネームタグがつけられる」ものが必要とされます。これらの条件を考えると、ポリエステルやナイロンなどスポーツウェアに使用される素材が好ましいかもしれません。
前空きの場合は、面ファスナーは避けること。抑えるとパチンと止まる「スナップボタン」のタイプで乾燥機対応のものを選ぶといいでしょう。
認知症の母の服選びで気をつけていたこと
私の実母はアルツハイマー型認知症でしたが、自身で比較的長い間、着替えることができました。それ自体は喜ばしいことでしたが、温度や季節に無頓着になるため季節はずれの衣類を着用していることもよくありました。上着が花柄、ズボンがチェックなどのチグハグなコーディネートも全く気にしていない様子。
「デイサービスに出かけるのに、さすがにその組み合わせは…」と違和感を覚えたので、服を揃えるときに、ある工夫をしていました。
介護中には、排泄の失敗や食べこぼしによって服を汚してしまうことも増えていましたので、新しい服を購入する機会も増えました。新しい服を揃えるにあたり、上着とズボンやスカートのどちらかを無地と決めておくと、自分で着替えるときにチグハグな取り合わせにならずに済みます。我が家では上着は柄物もあり、ズボンやスカートは「無地」と決めていました。
また、素材や色は、春や秋物を選んでおくと、上着で調整ができるので、季節外れ感もなくなります。介護施設に持参する際には、柄や色のバランスも気にかけてみてあげてください。
介護が必要となっても身体状態に個人差がありますので、ご本人と介助する側の状況に合うものを選ぶことが大切です。着心地だけでなくコーディネートといった見た目も、お互い心地よく過ごせる服を選んで欲しいと思います。