後期高齢者の医療費窓口負担「3割」に大幅アップも検討 新たな「高齢社会対策大綱」
政府は9月13日、高齢社会対策の指針となる「高齢社会対策大綱」を閣議決定した。大綱は原則として5年ごとに見直されるが、今回は6年半ぶりの改定となった。今回の大綱では、介護や福祉の施策を強化する一方で、前回の2018年版に比べ、具体的な数値目標を示さない項目が増えたことが注目されている。
包摂的社会を目指す3つの柱
今回政府は、超高齢社会に対応するための3つの主要施策を提示した。
1.「年齢に関わらず希望に応じて活躍できる経済社会の構築」
高齢者が年齢に関わらず、自身のスキルを活かして働き続けられる環境を整備するもので、特にリスキリング(技能の再習得)やスキルアップの支援が含まれている。企業側も、高齢者を積極的に雇用する方針を推進し、多様な就業機会を提供する。
2.「一人暮らし高齢者や認知症高齢者の増加に対応する支援」
地域包括ケアシステムをさらに強化し、訪問介護や通所介護など、在宅サービスの拡充を目指す。地域コミュニティとの連携を深め、社会的孤立を防ぐ仕組みが重視されている。
3.「加齢に伴う身体機能・認知機能の変化に対応する施策」
認知症対策の強化に加え、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の普及が進められる。また、ICTや介護ロボットの導入を促進し、介護現場での負担軽減と人材不足への対応を図る。
後期高齢者医療負担の拡大と新たな支援策
後期高齢者の医療費負担を引き上げる案も議論されている。政府は2028年度までに、75歳以上の高齢者の医療費窓口負担を、所得に応じて3割負担にすることを検討している。現在は、所得に応じて1割か2割の負担となっているが、現役世代との負担調整を図るために段階的な引き上げが提案されている。 一方で、身寄りのない高齢者への支援策も強化される予定だ。特に、民間の保証制度を利用できない高齢者を対象としたモデル事業の実施が計画されている。6月に策定された「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」に基づき、適切な事業者の確保が進められる見通しだ。
数値目標削減の背景と今後の課題
今回の大綱では、健康寿命の延伸や介護職員数に関する数値目標が示されていない。前回の大綱では、2020年までに健康寿命を1歳延ばし、2025年には2歳以上延ばすという数値目標が掲げられていたが、今回は「身体機能が低下したからといって健康でないと判断するのは、生きづらさを助長する」との意見を踏まえ、数値設定が見送られた。 介護職員数についても、ICTや介護ロボットの普及により必要人数が変動する可能性があるため、具体的な目標は示されていない。これにより、政策の進捗をどのように評価し、成果をどう測定するかという課題が浮上している。 一方で、ICTや介護ロボットの導入、在宅介護サービスの充実などは、将来的な介護現場の改善に期待が寄せられている。今後は、これらの施策が具体的な成果を上げるかが焦点となり、政策の透明性と進捗の「見える化」が求められるだろう。
構成・文/介護ポストセブン編集部