倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.26「夫の遺品整理」
漫画家の倉田真由美さんの夫、叶井俊太郎さんが医師から「末期がんで、もって余命1年」と告げられたのは2022年の夏のこと。余命を超えて2024年2月に旅立った叶井さんが残した遺品について、妻として思うこととは――。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
夫の遺品「なかなか整理ができないまま」
夫の遺品はあれもこれも捨てられないものばかりで、なかなか整理ができないままでいます。
夫が長く愛用していたものは勿論、夫が気に入っていたもの、夫の匂いが残っているもの、夫らしさが詰まったもの。中にはかなり嵩張るものもありますが、夫が使っていた姿を思い浮かべるとどうしても手元に置いておきたくなってしまいます。
私はものにこだわらない質なので、思い入れがあってもものはもの、遺品を大切にとっておくなんて思っていませんでした。自分でも意外です。夫がいなくなって、今まで知らなかった自分に何度も出会うことになりました。
夫が病気になってから使うようになったもの
夫の遺品の中でも、夫が病気になってから使うようになったものに関しては、複雑な思いがあります。元気な時の夫を思い出すのものとは明らかに違います。
夫がバッグにつけていたヘルプマークは、その代表です。あれは、夫に頼まれて私が購入しました。
電車に乗っている時、夫は立っているのが辛くなることがありました。がんが発覚した頃にも貧血のような状態になることがたまにありましたが、一年が過ぎて体重が減ってくると体力の衰えが顕著になってきました。
とはいえ末期がんになってからも、夫は初めて会った人が「この人、病気かな」とすぐ気がつくほど弱々しくは見えませんでした。昔から夫を知っている人なら激痩せしたことが分かりますが、そうじゃなければ一見して病人と判断されることはなかったと思います。
実際にその頃、疲れて優先席に座っている時、「ここはあんたが座る席じゃないよ」と高齢女性に咎められたことがありました。「末期がんです」と言い返す気力もなく、黙って席を立ったといいます。これを機に、夫はヘルプマークをつけることに決めました。
でも、ヘルプマークは期待したほど認知されていないようでした。そしてそもそも、他人はあまり他人を気にしないものです。目立つところに付けてはいたけど、気づかれないということも多かったのではないかと思います。
「今日、初めて席譲ってもらった。学生かな。若い男だったよ。きつかったから、助かったよ」
ある日、帰宅した夫が私に報告してきました。そして電車に乗らなくなってからその時のことを振り返り、「あの一回だけだったな」と夫は言いました。
たった一度だけ、役に立ったヘルプマーク。目にするたびに、いろんな思いが去来します。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
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