「借金をしてまでネイルや化粧品を購入、派手な暮らしをしたがる母が心配」悩む娘に毒蝮三太夫が提案するなるほど!という秘策|「マムちゃんの毒入り相談室」第54回
人はいくつになっても、物欲や見栄を張りたい気持ちをなかなか捨てられない。80歳近くになる母親の浪費癖に悩んでいる53歳の娘。いつの間にか借金もしていたという。年金の範囲内で生活するようにと言い聞かせているが、また借金をしないかと心配は尽きない。母親の心を入れ替えさせるために、マムシさんが授けた“秘策”は?(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「浪費癖のある母親がさらに借金を重ねないか不安だ」
やあやあやあ、明けましておめでとう! 年寄りにとって、また新しい年を迎えられたのは何よりめでたいことだ。今年も明るく楽しく笑顔で過ごそうじゃないか。
若い人たちも、自分の身内や近所の年寄りにやさしくして、たくさん話を聞いてやってくれ。それは自分自身のためでもある。ジジイやババアは、人それぞれ知恵を持ってるし、その人だけの経験をしてきた。生きてるうちにたくさん吸収してやるのが年寄り孝行だ。
今回は、80歳近くになるお母さんの浪費癖をどうにかしたいと悩んでいる53歳の会社員の女性からの相談だ。
「母は現在一人暮らしです。以前、借金した挙句、税金も長いあいだ滞納していました。昨年、私がそのことに気付き、税金もまとめて支払いましたが、借金はまだ返済中です。
そのときに、年金の範囲内で生活するよう何度も言い聞かせました。もともと世間体や見た目を気にする人で、借金してでも自分のやりたいことにお金を注ぎ込みます。ネイルや高額な化粧品を購入したり、毎月数万円するような習い事に行ったり、年間生活者とは思えない派手な生活ぶりです。
今のところは年金で賄える範囲のようですが、このままではさらに借金を重ねるのではないかと不安になります。母の浪費癖を治すには、どうしたらいいのでしょうか?」
回答:お母さんが自覚することが大事だ。「浪費はよくないね」と気づくように一芝居打ってみたらどうだろう
娘さんにしてみれば、頭が痛いよな。お母さんだって、無駄遣いはよくないとわかってはいても、自分を抑えられないんだと思う。
80歳近くってことは、高度経済成長の真っただ中を生き抜いてきたわけだ。当時は競争社会で「人よりいいものを身につけたい」「あっちの人より自分のほうがいいものを食べたい」なんて思って、誰もが自分を鼓舞していた。それが張り合いでもあったわけだけど、今もある種の強迫観念があるのかもしれない。
税金の滞納や借金も、娘さんが手を差し伸べてあげられる範囲ならいいけど、気がついたらとんでもない額の借金を抱えていたなんてことになったら目も当てられない。幸い、お母さんはまだまだ元気で頭もしっかりしてるみたいだ。まわりが強制的に縛り付けるんじゃなくて、まずは本人の自覚を促したほうがいいだろうな。
こんな手はどうだ。娘のあなたから「お母さん、ちょっと相談があるんだけど」と切り出す。「私の親友が母親の浪費に悩んでいて、どうすればやめさせられるかしらって相談されたんだけど、お母さんどう思う?」って聞いてみる。
お母さんは、人のことだから客観的な視点で「それは良くないわよ。この先、自分の介護のことなんかもあるからお金は大事にしなきゃいけないのに」なんて言い出すかもしれない。「娘であるあなたのお友だちもつらいわね」と心配したり、「こんなふうに言ってみたらどうかしら?」とアドバイスをくれたりね。
そしたら「ああ、たしかにそうね。あれ、なんか誰かと似てない?」と言ってみる。話している途中で、「あ、私と似てる」と気づくかもしれない。娘にいきなり浪費はやめてと注意されても、反発を覚えるばかりで素直に聞いてはくれないだろう。「私の生き方に口を出さないで!」てなもんだ。
でも、自分で考えたことなら「たしかに浪費はよくないわね」という反省につながる。あなたの「親友の母親」の相談に答えてもらいながら、結果として自分を見つめ直させるわけだ。ここまでうまくいくかどうかはわからないけど、相談を持ちかけてみる価値はある。少なくとも、世の娘にとって親の浪費は悩みの種なんだということは伝わるからね。
年代はさておき、身の丈以上の浪費に走る人っていうのは、ストレスとか寂しさとかの問題を抱えていることも多い。「お母さん、何やってるのよ!」と叱りつけるんじゃなくて、落ち着いた調子でお母さんが何を考えているのか、何をしてほしいのか、この先どういうお金の使い方をしていくかを話し合ってみよう。
悩みごとや困りごとっていうのは、マイナスな面ばっかりじゃない。一歩踏み込んだコミュニケーションを取るいいきっかけにもなってくれる。あなたのような親思いの娘がいて、お母さんは幸せだよ。こういう心配ができるのも、お母さんが元気だからこそだ。
いろいろあるだろうけど、お母さんはこの世にひとりしかいない。しっかり付き合ってあげてくれ。それは自分が悔いを残さないためでもあるし、お母さんからたくさんの大切なものを授かるためでもある。まずは、うまいものでも食って一緒に笑い合おう。
毒蝮さんに、あなたの悩みや困ったこと、相談したいことをお寄せください。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時から放送中。87歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊『失礼な一言』(新潮新書)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。