50代から注意すべき「子宮と卵巣」の病気 早期発見や病院選びのポイントを医師が解説
国立がん研究センターは、子宮体がんと卵巣がんの罹患率は50代にピークを迎えると発表している。「恥ずかしい」「たいしたことない」と誰にも相談できない結果、手遅れになることも…。子宮と卵巣について専門医が解説してくれたのでぜひ読んでほしい。
子宮体がんと卵巣がんの罹患率は50代がピーク
「約40年という期間限定で分泌される女性ホルモンのエストロゲン。卵巣から分泌されるエストロゲンの量は20~30代にピークを迎え、30代後半から徐々に減少。40代後半から更年期に入ると急激に減ってしまいます。さらに、閉経直前は分泌量の増減が激しく、閉経後には男性よりも低い分泌量に減少するため、さまざまな不調を経験します。また閉経後は、女性特有のがんのリスクも高まります」
こう話すのは、産婦人科専門医の高尾美穂さんだ。
2013年に承認されたHPVワクチンは子宮頸がんなどHPV感染による発がんを予防するが、この子宮頸がんは、40代が罹患率のピークで、50代(閉経後)になると、徐々に患者数は減っていく。一方で、子宮体がんと卵巣がんの罹患率は、50代にピークを迎えると、国立がん研究センターが報告している。
50代からかかりやすい子宮・卵巣の病気
がん化のリスクがある「チョコレート嚢胞」にも注意が必要。子宮内膜症の一種で、卵巣に経血がたまり、それが古くなって溶けたチョコレートのように変化している状態を指す。月経痛や排便痛、性交痛、骨盤痛、腰痛などがひどい場合は、必ず超音波検査を。卵巣がんの早期発見は困難だが、対策としてできることは超音波検査だと考えてほしい。
・子宮体がん
・チョコレート嚢胞(のうほう)
・子宮腺筋症(子宮筋層に起こる子宮内膜組織)
・子宮頸がん
・卵巣がん
・子宮内膜症(子宮内膜以外に起こる子宮内膜組織)
・子宮内膜
子宮・卵巣の病気チェックリスト「1つでも当てはまったら要注意!」
自分に当てはまるものがあるかチェックしてみよう。
□ この1年、婦人科を受診していない
□ 以前、検診や健診で子宮や卵巣に問題があると言われた
□ 生理ではないタイミングで出血がある。閉経後に出血がある(子宮体がん)
□ 最近お腹が張る。お腹が出てきた感じがする。スカートやパンツのサイズが上がった(卵巣がん)
□ 家族に子宮がん、乳がん、大腸がんにかかった人がいる(子宮体がん)
□ 家族に卵巣がん、乳がんにかかった人がいる(卵巣がん)
□ お酒を飲む習慣がある
□ たばこを吸っている。吸っていたことがある
□ BMI(体重kg÷(身長m)2)が25前後、またはそれ以上ある
子宮がん検診では見つからない!?
女性は若年でも子宮頸がん、乳がんを発症することから、自治体でもそれらのがん検診に力を入れている。ところがこの検診こそ、50代にとっては迷う理由になり得るという。子宮体がんになったという57才の会社員・Hさんはこう話す。
「40代半ばから年に1回、必ず自治体の『子宮がん検診』を受けていて、異常がありませんでした。ところが、51才で閉経してから1年後に出血があり、不安になって婦人科を受診したところ、子宮体がんと言われました。幸い子宮を摘出することで完治しましたが、定期的に検診を受けていただけに、なぜもっと早く見つけられなかったのか、ショックでした」
自治体が行う子宮がん検診というのは、子宮頸部の細胞をとって調べる子宮頸がんが対象で、子宮体がんについては検診対象ではないのだ。
「子宮がんには、子宮頸がんと子宮体がんの2種類がありますが、50代で特に注意したいのが、前述の通り、子宮体がんです。閉経前後の50~60代で急増し、約80%が閉経後にかかります。
女性ホルモンのバランスが乱れる閉経前後に子宮内膜の異常増殖が起こるため、子宮体がんのリスクが高まるのです。ところが、自治体の検診で行っているのは子宮の入り口・子宮頸部の検査であり、その奥にある子宮内膜の細胞は調べません。ですから、子宮体がんを見つけられないのです。閉経前後に不正出血があれば、子宮体がん検査を受けることが賢明です」(高尾さん・以下同)
50代は自治体の子宮頸がん検診もさることながら、不正出血を認めたら、婦人科を受診し、子宮体がんの検査を受けることが望ましい。症状がある場合は保険適用で、自己負担額は2000円前後だ。
閉経以降に不生出血があれば婦人科へ
子宮体がんを早期発見するには不正出血の有無がポイントになるという。
「閉経後、問題なければ性器から出血することはありません。ところが、子宮体がんの初期症状には不正出血が見られます。このサインを見逃さないことが大切です。“生理がまた始まったのかも”などと自己判断はせず、婦人科を受診し、超音波検査や子宮内膜の細胞診を行いましょう。子宮体がんが進行すると、排尿困難、排尿痛、性交痛といった症状も出てきます。閉経していない人でも、生理以外で出血がある、おりものに血液が混ざっているときは婦人科を受診しましょう」
子宮体がんは女性ホルモンがひとつの要因になるため、若い頃から生理不順だった人や50代後半まで生理が続いた人、妊娠や出産経験がない人は特に注意が必要だという。
「ほかにも、家族に子宮がんをはじめ、乳がんや大腸がんにかかった人がいる場合はぜひ、定期的に婦人科の検査を受けてください。がん全般に言えることですが、肥満、喫煙、過剰な飲酒も、がんのリスクを高めます。特に気をつけたいのが肥満。更年期以降は、適正体重を維持するよう心がけましょう」
■手遅れにならないよう要チェック! 卵巣がんの症状と進行
進行度/症状
■Ⅰ期
自覚症状がない。がんが卵巣だけにとどまっている状態。高い確率で完治する。
■Ⅱ期
がんが卵巣だけでなく、子宮や直腸・膀胱の腹膜などの骨盤内にまで広がった状態。無症状のケースが多い。
■Ⅲ期
お腹が膨らんだり、下腹部のしこりが気になるようになる。骨盤の痛み、貧血、体重の増減も生じる。がんが卵巣や骨盤内の臓器だけでなく、腹腔内播種(上腹部の腹膜や小腸など)や後腹膜リンパ節に転移した状態。
■Ⅳ期
がんが大きくなり膀胱が圧迫されて頻尿となり、下腹部に圧迫感が生じる。血液やリンパ液をつたってがん細胞が全身を巡り、肺などの離れた臓器にも転移する。転移した臓器に症状が出る場合も。
卵巣は沈黙の臓器。気づいたら手遅れに
子宮体がん同様、閉経後に罹患率が増えるのが卵巣がんで、患者数は年間1万3000人ほどになる。出血するなど症状がわかりやすい子宮体がんと違い、卵巣がんはかなり悪化するまで症状が出ないという。
「卵巣は親指の先ほどの大きさですが、50代になると小指の先ほどの大きさに萎縮します。体の内側に存在するため、異常が起きても気づきにくい。初期段階ではほとんど自覚症状がなく、見つかったときにはステージⅢ期以上ということも少なくありません。卵巣がんの原因の多くは遺伝子の問題ですが、毎月の排卵によって卵巣が傷つくこともリスクになります。そのため、妊娠・出産経験者よりも、排卵回数の多い未経験者のリスクが高いです。長年激しい生理痛に悩まされた人や、生理周期の異常などの不調を抱えてきた人も注意が必要です」
卵巣がんの約10%は遺伝の可能性もあり、家族に卵巣がんや乳がんにかかった人がいる場合は特に注意を要する。
■まだある! 知っておきたい卵巣の病気
病名/特徴
●卵巣腫瘍
通常2~3cmの大きさの卵巣に、腫瘍が発生し腫れた状態。大きくなると30cmを超えるものも。腫瘍の形状が袋状のものを「卵巣嚢腫」といい、約8割が良性。一方塊状のものは「充実性腫瘍」といい、悪性腫瘍や境界性悪性腫瘍のリスクが高い。
●卵巣嚢胞・黄体嚢胞
「卵巣嚢胞」はホルモンの増減による卵巣の腫れで自然治癒する。一方、「黄体嚢胞」は排卵の際に形成される黄体の中に液体がたまって腫れてしまう状態。
●卵巣炎・卵管炎
卵管や卵巣の炎症。急性の場合は、高熱、下腹部の痛みなどがある。
●多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
排卵できない卵胞が卵巣にとどまって起こる。生理不順や男性ホルモン分泌過多、糖尿病と関係があるとされている。
閉経後でも無症状でも半年に1回は検診を!
卵巣がんが進行すると、下腹部の痛み、張り、圧迫感、しこりなどの症状が現れる。
「卵巣は骨盤の奥深くにあるため、子宮のように腟口から細胞をとって検査することはできません。ある程度進行しなければ発見されないことが多いですが、超音波検査で見つかるケースもあります。ですから、閉経後こそ、年に1度の婦人科検診は必ず行いましょう。がんではないものの、卵巣が腫れていると言われたら、半年~1年に1度の定期検診が望ましいです。ただし、急にお腹が痛む、いつもはいているスカートがきつい、食後ではないのにお腹が出ている、下腹部が圧迫されている感じがある、尿意はあるがトイレに行っても出ないといった症状があれば、定期検診を待たずに受診しましょう」
特に婦人科検診で「要再検査」の結果を得た場合は必ず受診すべきとのこと。気になる症状がないし、日時を指定されないのでスルーしてしまう人が少なくないが、次の検査を受けることがとても重要で、精密検査などに進めば、早期診断にもつながりやすいという。
「子宮体がん同様、喫煙、飲酒、肥満は注意が必要なのですが、特に卵巣がんにおいて太らないことは早期発見につながります。やせていればお腹の膨らみやしこりにも気づきやすくなるからです」
女性ホルモンの減少とともに太りやすい体質になるが、肥満にならないよう節制することも予防と言えるのだ。
よりよい病院の選び方
女性のおしものトラブルはどこに相談すればいいのか。
「GSM(膣まわりの不調、閉経関連泌尿生殖器症候群)の症状がみられる場合はまず、更年期障害や月経トラブルに精通した婦人科に相談しましょう。女性のヘルスケアを掲げた泌尿器科や皮膚科でも診察してもらえるケースがあります。尿トラブルは、婦人科と泌尿器科の要素があるためどちらを受診しても大丈夫。最近では、女性泌尿器科外来や婦人科と泌尿器科が一緒になった“ウロギネ外来”も増えてきました」(日本産科婦人科学会専門医・八田真理子さん)
近くにそれらの専門科がない場合は、最近ではオンライン診療も活用できるという。また、一般的な婦人科の検査については、どこの病院やクリニックでもそれほど変わらないと高尾さんは言う。
「がんの検査だから大病院の方がいい、ということはありません。大きな病院で何か月も待たされるより、すぐ受診できて通院しやすいかかりつけのクリニックの方が早期発見にもつながりやすいです。ただし、内科や外科を看板に掲げた病院やクリニックに婦人科が含まれている場合は要注意。産婦人科専門医が対応しないケースもあり、対応にも違いが出てくるので、どんな医師が診療するかは確認しましょう」(高尾さん)
教えてくれた人
高尾美穂さん/「女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道」副院長
産婦人科専門医・医学博士。“すべての女性によりよい未来を”をモットーに、医療、ヨガ、スポーツの活動を通した啓発活動に取り組む。著書に『いちばん親切な更年期の教科書』(世界文化社)など多数。
八田真理子さん/「聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田」院長
日本産科婦人科学会専門医。女性の幸せをサポートすべく、思春期から更年期まで幅広い年代の診療に尽力。著書に『産婦人科医が教える オトナ女子に知っておいてほしい大切なからだの話』(アスコム)など多数。
取材・文/佐々木めぐみ
※女性セブン2023年2月16日号
https://josei7.com/
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