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『鎌倉殿の13人』46話 「尼将軍」誕生の理由と再び通い合った姉・政子と妹・実衣の心

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』46話。北条政子(小池栄子)が「尼将軍」になったのは、妹の実衣(宮澤エマ)を救うためだった! 放送も残すところあと2話、政治の主導権を握った政子の決意は「承久の乱」の名演説へと繋がっていきそうです。「将軍になった女」(副題)の回を歴史とドラマに詳しいライター、近藤正高さんが、歴史書を紐解きながら考察します。

時元のナレ死

 登場人物の死が、直接には描かれずナレーションのみで処理されてしまうことを「ナレ死」と呼んだりする。この語はおそらく、三谷幸喜が6年前に手がけた大河ドラマ『真田丸』で、織田信長をはじめ結構多くの人物の死がそうやって描かれたをきっかけにSNSを中心に広まったものと記憶する。『鎌倉殿の13人』でもたびたび出てきたナレ死だが、第46回ではまた極端な形で表れた。ターゲット(?)となったのは阿野時元(森優作)である。

 前回、源実朝が公暁に殺されたのを受け、時元は母親の実衣(宮澤エマ)から必ず次の鎌倉殿にしてみせると言われていた。今回の冒頭では、実衣が三善康信(小林隆)に鎌倉殿になるための手続きについて聞き出し、上皇からの宣旨が必要だと知ると今度は三浦義村(山本耕史)に相談して、朝廷への工作を任せる。このとき彼女は、時元が鎌倉殿になった暁には義村を執権にすると約束し、「小四郎(義時)はどうする?」と訊かれると「小四郎……誰?」ととぼけてみせた。

 しかし、これは義村が義時(小栗旬)とともに仕組んだ罠だった。義村は実衣の企みを義時に報告すると、あとは時元を挙兵に追い込み、謀反人として討ち取るつもりであった。何も知らない時元は、亡き父・阿野全成の所領だった駿河国阿野荘に戻っていたところ、宣旨が下る算段がついたので届きしだい挙兵せよという実衣からの文を受け取り、配下の者たちと気勢を上げる。だが、そこへ「実朝暗殺からひと月も経たない2月22日、阿野時元は挙兵を目前に、義時の差し向けた兵に囲まれ、自害」とのナレーションがかぶせられ、そのままフェイドアウトする。同じく実朝に恨みを抱きながらも公暁とは違ってあっけない退場であった。

 実衣は息子の死を悲しむ間もなく、謀反への関与を厳しく追及される。当初は罪をかぶって処刑も甘んじて受けるつもりだった彼女だが、姉の政子(小池栄子)に止められ、何を言われても罪を認めてはいけないと言い含められていた。そのため、大江広元(栗原英雄)ら宿老からの事情聴取にもシラを切り通したが、証拠として時元宛ての書状が提出されると、観念して罪を認める。

 広元や義時は、御家人たちに示しをつけるため、身内だからこそ厳罰に処すべきだと実衣についてあくまで厳しい態度をとった。女子が首をはねられる前例はなかったが、それでも義時は実衣に対し、耳と鼻を削いで流罪という極刑も辞さない構えだ。これに息子の泰時(坂口健太郎)が「血を分けた妹にそんなことをすれば人心が離れます!」と強く反対するが、義時は「だからといって許せば政は成り立たん!」と聞く耳を持とうとしない。

 このあと、後鳥羽上皇(尾上松也)との交渉をめぐる議論でも、義時と泰時は対立する。義時は実朝暗殺直後には、京より親王を鎌倉殿に迎えるという実朝の生前の決定を反故にすべく、上皇のほうから断らせようと、あえて親王の早々の鎌倉下向を催促する書状を送っていた。実朝が殺された鎌倉へ朝廷が親王を送るわけがないと見越してのことだが、上皇もまた義時の意図はお見通しであった。断れば思うつぼとあって上皇は、「約束どおり親王を下向させたいが、それはいまではない」と返信してきた。これを受け、上皇に勝たんとする気持ちが先走る義時に、泰時は「上皇様と争って何になるのです!」とまたもや反発して、政所から追い出されてしまう。

政子とのえ

 実朝暗殺をきっかけとして、義時の暴走にますます拍車がかかる。泰時はそんな父を喧嘩してでも食い止めるのが自分の役割だと思うようになっていた。だが、どうも空回りしてばかり。忘れ物を届けに来た妻の初(福地桃子)にそう漏らすと、初は彼のあいかわらずの真面目さにあきれつつも、ちょっと見直したような素振りを見せる。そこへ政子が現れ、泰時にちょっと付き合ってほしいと言ってきた。

 政子が泰時を呼んだのは、施餓鬼の法要のあとで野菜などの供え物を貧しい人々に振る舞うためであった。施餓鬼とは、餓鬼道に堕ちて飢えに苦しむ無縁の亡者を供養する仏事である。いまではお盆の行事となっているが、もともとは戦争や天災、飢饉などで不慮の死者が出たときに随時行われていたという。

 政子は供え物を求めて集まった民に優しく声をかける。最初は恐縮していた人々も、言葉を交わすうちにしだいに打ち解け、実朝を亡くしたばかりの政子に慰めの言葉を口々にかけてきた。政子はさらに、ひとり離れて立っていた娘(石川萌香)に声をかける。娘はおずおずと尼御台に言いたいことがあると切り出すと、「憧れなんです。私の友達もみんな言ってます」と打ち明けた。かつて頼朝の愛人・亀から言われたように、政子は常に関東の女性たちの憧れの的であったようだ。政子は思わずその娘を抱き寄せると「ありがとう」と笑みを浮かべる。

 そもそも政子がこのような場を設けたのは、自分の政治がしたいと広元に相談したところ、そう勧められたからだった。民と直接交流したことで、彼女には何かつかむものがあったのだろう。このあと、積極的に政治の表舞台に出ていくことになる。

 他方、義時の妻・のえ(菊地凛子)は、義時と泰時の仲の悪さにつけ込み、自分の子供である政村(新原泰佑)を跡継ぎにするよう、食事中の義時にまくし立てた。彼女は前回、義時から先妻たちと比べられる屈辱を味わい、さぞ落ち込んでいるものと思いきや、そのメンタルの強さに驚かされる。もっとも、そこには祖父である二階堂行政(野仲イサオ)の強い働きかけがあった。行政は、のえから強く言っても義時が一向に耳を貸さないと知り、あの方に相談してみろと彼女に勧める。「あの方」とは、政村の烏帽子親である三浦義村だ。ここで北条の跡継ぎ問題に義村が絡んでくるとなると、いやな予感しかしないが……。

山寺宏一の流暢な語り

 このあと、京から実朝弔問の使者が到着し、上皇からさらなる返信として、摂津国の長江と倉橋の荘園について地頭の解任を要求してきた。2つの荘園は、遊女の亀菊という上皇の寵姫の所領であり、地頭はほかならぬ義時だった。これを飲めば親王を下向させてやるというかのごとき上皇の挑発に、義時は激怒し「断固突っぱねる」と態度をますます硬化させる。しかし、これ以上、鎌倉殿の不在が長引けば御家人たちの信を失いかねない。広元がそう忠言すれば、トキューサこと時房(瀬戸康史)も珍しく「兄上、意地の張り合いもここまでにしておきませんか」と義時を諫めた。

 それでも義時はあくまで強気だった。時房に1000人もの軍勢を率いて上洛させ、いますぐ返事をさせるよう脅しをかけることで、上皇には親王に代わって摂関家のなかから新たな鎌倉殿を選んでもらうと決めたのだ。これを聞いた政子から不安げな表情で「ほかの宿老たちも同じ考えなのですね?」と確認されたときも、「私の考えが、鎌倉の考えです」としれっと言ってのけた。

 もちろん、時房は上皇と一戦を交える気はさらさらなかった。できれば蹴鞠で決着をつけたいものだと言っていたら、上皇からまさにそれで蹴りをつけようと提案される。ただし、いざ勝負を始めると、時房が勝っていたにもかかわらず、藤原兼子(シルビア・グラブ)が途中で止め、無理やり引き分けということにされてしまった。上皇様を負かしたとなればただでは済まないというのがその理由だ。そう聞かされたとたん時房は恐懼し、自分の負けだと言ってひれ伏す。上皇はご満悦で、ようやく「本音を言う」と切り出すと、「親王を鎌倉へやる気はない」「代わりの者を出す。これで手を打て」と告げた。時房としてみれば、平和裏に満願回答を引き出したわけで、大手柄であった。

 最終的に朝廷が鎌倉に下向させると決めたのは、代々摂政・関白を出してきた九条家出身の三寅(のちの九条〈藤原〉頼経)だった。それを伝えるため極秘に鎌倉を訪れた慈円(山寺宏一)は、義時と政子に面会すると、三寅について「源頼朝卿の妹君が一条能保卿に嫁がれ、その長女は月輪関白(九条)兼実公の子・後京極摂政(九条)良経公に、そのまた次女は大宮大納言(西園寺)公経卿に嫁ぎ、その姫君が後京極摂政の子である(九条)道家公に嫁がれ、そのあいだに生まれたのが三寅様にござる」と早口で説明した。山寺宏一はさすがベテラン声優とあって流暢な語りに思わず聞き入ってしまうが、内容があまりに複雑すぎて1回聞いただけでは理解できない。そこで義時がもう1度と頼むのだが、繰り返してもらってもやっぱりよくわからなかった。

 ようするに三寅は頼朝の妹(姉ともいわれる)のひ孫であり、その両親はいずれも頼朝の孫を母親に持つ、いとこだった。したがって三寅は父方も母方も頼朝の血筋ということになる。さらにいえば、九条家の祖はほかでもない慈円の兄・兼実であり、慈円は兼実の孫で三寅の父である道家の後見人だった。彼がわざわざ鎌倉まで伝えに来たのは(あくまでフィクションだが)、そのためだろう。

 三寅自身はその前年の建保6年(1218)の1月生まれで、数え年で2歳、満年齢ではまだ1歳にすぎなかったとはいえ、慈円としてみれば自分の身内をまんまと鎌倉殿に据えたことになる。上皇が「慈円僧正の得意気な顔が目に浮かぶ」と苦々し気に言うのも当然だ。そんな上皇に、慈円はいささか図に乗っているようだと進言する者がいた。院御所の警固にあたっていた武士・藤原秀康(星智也)である。秀康は「これ以上、僧正の好きにさせてよいものか」と言うと、矢を見事に的に命中させてみた。そして「この藤原秀康にお任せいただければ、ひと月で鎌倉を攻め落としてご覧に入れます」と上皇に自信たっぷりに申し出る。

 三寅が鎌倉入りしたのはその直後、承久元年(1219)7月19日のことだった。交通機関の発達した現代でも乳幼児を連れての旅は苦労がつきまとうのに、鎌倉時代ならなおさらだろうと思いきや、慈円の『愚管抄』によれば、三寅は京を出てから鎌倉に着くまで、少しも泣き声を上げることがなかったという。とはいえ、彼が征夷大将軍となるには元服するまで待たねばならない。ここで政子が動く。三寅が成長するあいだも、自分が執権として政を執り行うので不都合はないと言い張る義時を「あなたは自分を過信している」と牽制したかと思うと、まだ赤ん坊の三寅に御家人たちがおとなしく従うはずがないと言って、唐突に自分を指さす。そして「私が鎌倉殿の代わりになりましょう」と宣言すると、鎌倉殿と同等の力を与えるよう義時に認めさせ、「尼将軍」と自身の呼び方まで決めてしまった。

正しくは「オンタラクソワカ」

 そんな政子に「姉上にしては珍しい」と義時は言い、自分への戒めかと訝しがるが、彼女は「すべてが自分を軸に回ってると思うのはおよしなさい」と釘を刺す。続けて、どうしてもやりたいことがあると言って、ある場所へと向かった。それは実衣が囚われた監禁部屋だった。

 半年近く監禁され、髪に白いものが混じった実衣に、政子は無罪放免を告げ、自分は尼将軍になったと伝える。そして最後に残った姉妹2人で支え合っていこうと涙ながらに誓うのだった。このときふいに政子の口から「ウンタラクーソワカー」と、いまは亡き娘の大姫が生前に唱えた呪文が衝いて出る。それを聞いて実衣が「違う。ボンタラクーソワカー」と正す。もっとも2人とも間違っていて、正しくは「オンタラクソワカ」だとナレーションが入るのだが、そんなことはもはやどうでもいい。姉妹がこうして再び心を通わせたのだから。

 政子が尼将軍になると自ら言い出したのは、時元が死んだとき「姉上のせいよ。姉上が頼朝と一緒になるから!」と言われ、改めて責任を感じたからでもあるのだろう。それと同時に、暴走する義時を見かねて、それを抑えるためには自分が主導権を握るしかないと思いいたったからに違いない。

 白い頭巾をかぶった政子は、漆黒の衣装をまとった義時といかにもコントラストをなしている……と思ったら、次回は政子が紫の頭巾で登場するらしい。ドラマは残りあと2話というところでいよいよ承久の乱が始まろうとしている。次回のサブタイトルも「ある朝敵、ある演説」と、ついに政子のあの一世一代の名演説が描かれる!

→『鎌倉殿の13人』他の回のレビューを読む

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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