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『鎌倉殿の13人』後の北条氏を描く大河ドラマ『北条時宗』の大胆な史実改変

「過去の名作ドラマ」は世代を超えたコミュニケーションツール。懐かしさに駆られて観直すと、意外な発見することがあります。今月は、2001年に放送されたNHK大河ドラマ『北条時宗』を取り上げます。大好評放送中の『鎌倉殿の13人』の後の時代、鎌倉時代中~後期を描いたドラマを歴史とドラマに詳しいライター、近藤正高さんが『鎌倉殿の13人』との関連にも触れながら考察します。

義時の息子を伊東四朗が

 NHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』は12月の最終回に向け、いよいよ佳境に入っている。10月16日放送の第39回の冒頭では、鎌倉での権力を掌握した北条義時(小栗旬)が出勤する際、妻ののえ(菊地凛子)が幼い子供を抱きかかえて見送るシーンがあった。のえは義時が出ていったところで、すぐに子供を侍女に渡してしまい、夫の前ではあくまで良妻を装っているだけだとうかがわせた。

 義時と伊賀朝光の娘(「のえ」は『鎌倉殿』のなかだけの名前)のあいだに生まれたその子供は、いまのところ劇中には名前は出ていないが、義時の4人目の息子・北条政村である。鎌倉幕府が編纂した史書『吾妻鏡』では、政村は1205年、畠山重忠が北条氏に滅ぼされたその日に生まれたとされる。その後、1224年に父・義時が亡くなった直後には、ある陰謀に巻き込まれる。政村の母とその兄・伊賀光宗(政村にとっては伯父)が、義時の死に乗じて、光宗の娘婿である藤原実雅を将軍に、そして政村を義時のあとの執権に据えようとしたのだ。

 結局、この企ては事前に発覚して北条政子につぶされ、政村の母は幽閉される。政村もこの企てに連座するところであったが、新たに執権となった異母兄・北条泰時の配慮で許された。その後、幕府で要職を歴任した政村は、父・義時の死から40年後、1264年には60歳にして執権となる。

 いまから21年前、2001年に放送された大河ドラマ『北条時宗』(現在、NHKオンデマンドなどで総集編・全2回が配信中)では、鎌倉時代中~後期を舞台に、北条一門の長老となっていた政村を伊東四朗が演じている。小栗旬と菊地凛子の息子が時を経て伊東四朗になるのかと想像すると、つい笑ってしまうが。『北条時宗』の劇中では、伊東自身の持ち味も活かし、飄々としながらもひそかに野心を秘めた人物として描かれた。本作では、長らく補佐役に甘んじてきた政村がようやく執権となり、部屋でひとりほくそ笑んだかと思うと、文字どおり小躍りする場面が印象に残る。

 もっとも、政村が執権になったのは、主人公の北条時宗(和泉元彌)が父・時頼(渡辺謙)の死後、家督を継いだものの当時まだ13歳で執権になるには若かったため、中継ぎとして抜擢されたにすぎない。4年後の1268年に時宗が規定どおり執権になると、政村は連署という立場で彼を補佐することになる。このドラマの最大の見せ場である蒙古襲来、その最初となる文永の役が起こったのは、政村の亡くなった翌年、1274年のことであった。

三浦氏滅亡から

『鎌倉殿』とのつながりでいえば、初期の鎌倉幕府において北条氏の最大の協力者にしてライバルだった三浦氏は、『北条時宗』の物語が始まってまもなく、三浦義村の子・泰村と光村の代に、北条泰時の孫である5代執権・時頼により攻め滅ぼされた。世にいう宝治合戦(1247年)である。時頼は、このとき三浦方について自刃した毛利季光(大江広元の子/高橋英樹)との生前の約束を守り、合戦後、その娘の涼子(あきらこ/浅野温子)を正室に迎えた。彼女は父の仇である時頼に敵意をむき出しにするが、その4年後には男児を儲ける。正寿丸と名づけられたこの子こそ、のちの時宗である(ただし、史実では時宗の母親は、北条義時の3男・重時の娘である)。

 時頼は時宗の生まれる前、宝治合戦の翌年に側室の讃岐局(篠原涼子)とのあいだに宝寿丸というやはり男児を儲けていた。のちの北条時輔(渡部篤郎)である。だが、時頼は自分の跡継ぎを、兄の時輔ではなく、正室の子である弟の時宗と定めた。病気のため執権の座を北条長時(前出の重時の子/川崎真世)に譲るに際しても、あくまで幼い時宗が成長するまでのあいだだと念を押す。

 時頼は執権を辞して出家するが、奇跡的に病気から快復し、元服した時宗と諸国を旅しながらさまざまな教えを与える。一方、時輔に対しては、時宗やその同母弟の宗政(比留間由哲)とはっきりと差をつけて接するようになる。そんななか、なおも時輔に家督を継がせることを望んでいた讃岐局が、身を寄せていた安達氏の館に火を放って死んだ。時輔は母上が死んだのは父上のせいだと時頼を責め、さらに時宗を果し合いに駆り出す。このときその後の運命を予感させるように、兄弟が由比ガ浜で初めて刀を交えた。

 時頼はやがて再び重い病にかかる。自分の死期を悟った彼は、息子たちを呼ぶと、毒を盛られたらしいと明かすが、下手人が誰か探ってはならないと釘を刺す。さらに兄弟それぞれの役割をまっとうせよと言って、時宗には北条得宗家の家督たる者として幕府を率いることに生涯をかけよと説き、時輔には弟たちの家臣として力になれと命じた。時頼に言わせればこれは兄弟が天から授かった宿命であり、それがまっとうできなければ戦が起こるという。これに時宗がたまらず「それがしは戦など起こしません!」と叫ぶ。それに対し、時輔は「きれいごとはよせ、時宗」と言って、「人は争う者、人は憎む者、人は醜き者じゃ」と突き放した。時宗は「人は美しきものでござる!」と反論するが、兄との思いはすれ違うばかりだった。

 時頼はその後、毒が全身に回るにともない衰弱していき、いよいよ臨終が近づく。今度は時宗一人を呼び出すと、父として最後の言葉を伝える。顔に金粉を塗りたくり、目に光を失った時頼の姿はまるで生き仏のようであった。

 時頼の時宗への遺言は、長時と時輔を殺せというものだった。時頼の死後、時宗はそれを誰にも打ち明けられないまま悩み、そこへさらに長時が怪死したため、ますます心をさいなむ。前出の政村が執権に就いたのは、長時の後釜としてであった。政村のもとで時宗は連署として政治の中枢に入ることになる。

 時輔もまた屈折に屈折を重ね、政村や将軍の宗尊親王(吹越満)のいる席で、時頼は毒殺されたと言いふらした。これをきっかけに周囲からは時輔を京都の六波羅へ追放しろとの声が高まる。時宗は悩んだ末に時輔と2人きりで話し合うも、追放するなら殺せと挑発されてしまう。刀を渡された時宗はそれを手にすることができず、逆に時輔から額に刃先を押しつけられるが、彼もまた弟を殺せなかった。結局、兄弟の気持ちはずっとすれ違ったまま、時輔は鎌倉を追放される。

大胆な史実の改変

 そのころ、モンゴル帝国の皇帝クビライ・カアン(バーサンジャブ)による国書が、その支配下に置かれた朝鮮半島の高麗の使者によって日本に届けられた。クビライはその書面で蒙古が日本より上の立場であることを匂わせ、最後には兵など用いたくはないものだとまるで脅しのような一言を付け加えていた。これをきっかけに時宗は国を率いる覚悟を決め、ついに執権となる。

 蒙古に対し朝廷も時宗率いる幕府も返書しなかったため、緊張は高まるばかりだった。蒙古からはクビライの側近である趙良弼(修宗迪)が博多に赴き、最後の通告に応じなければ軍勢を差し向ける構えであった。時輔は鎌倉を離れ、こうした情勢を見つめるうち、それまで時宗と同じく蒙古に対し強硬論者だったのが、国を開くべきだという考えに転じていた。久々に時宗と面会したときもそう訴えるが、時宗は甘いと退ける。時宗もまた政権の中枢で揉まれるうち、人の醜さを目の当たりにし、考え方を改めていたのだ。時宗が国難を乗り越えるため幕府によって国をまとめようとするのに対し、時輔は幕府などなくなってもいいではないかと訴えるが、かえって時宗に疑念を抱かせるだけであった。

 それでも時輔は何としても戦争を回避しようと、朝廷の使いとして趙良弼と面会、時宗と引き合わせるべく画策する。しかし、時宗は、時輔の行動を朝廷と結んで謀反を企てているものと見なした。そして謀反の芽を摘むとともに、蒙古に毅然とした態度を示すべく、とうとう兄を討ち取ることを決断する。こうして時輔は、京で時宗の命を受けた軍勢に取り囲まれ、北条義宗(6代執権・長時の子/宮迫博之)の放った矢によって絶命した。1272年のことである。歴史上、時輔の討伐は、時輔に加担したと見られた同じ北条一門の名越時章・教時兄弟が鎌倉で討たれた事件とあわせて「二月騒動」と呼ばれる。

 だが、ドラマの時輔は死んだかと思わせておいて、ひそかに生き延びる。そしてなおも戦争を回避すべく、今度は蒙古側につき、文永の役の翌年(1275年)に時宗が蒙古の使者たちと面会したときには通訳まで務めた。もはや「ひそかに」どころではない。時輔が生き延びたのはドラマ独自の設定ではなく、原作である高橋克彦の小説『時宗』をもとにしている(脚本は井上由美子)。しかし、こうした劇中での改変について研究者からは「好き勝手に史実を造り替えた歴史ファンタジー」(村井章介『北条時宗と安達泰盛』講談社学術文庫)と批判されるなど、評判は芳しくなかったようだ。

 筆者も正直にいえば、大河ドラマでこれほどまでに大胆な史実の改変を、手放しで受け入れるのは躊躇してしまう。その一方で、物語が兄弟の対立を軸に進んできた以上、時輔が途中退場してしまうのはやはりできなかったような気もする。少なくとも、蒙古の使者たちと面会した時宗が全員の処刑を命じる場面は、時輔がいることで、時宗の為政者としての冷徹さばかりでなく苦しい立場を読み取ることができた。

 このシーンにかぎらず、和泉元彌演じる時宗には全編を通して重圧に耐え忍ぶ雰囲気があり、狂言の和泉流宗家を若くして継いだ元彌自身と重なるところがあった。ただ、現実の時宗はもっと冷徹で、好戦的ともいえるところがあり、先述の使者処刑後および1281年の2度目の蒙古襲来(弘安の役)直後には、反撃のための「異国征伐」を計画していたという。

同時多発テロの年

 このように『北条時宗』には史実との違いが多々あるとはいえ、蒙古襲来を大河ドラマでとりあげたこと自体は果敢な挑戦であり、素直に評価したい。蒙古軍から「てつはう」や毒矢が次々と放たれる戦場シーンは迫力があり、恐怖が伝わってきた。博多湾に蒙古軍が押し寄せるシーンは、実際に現地でロケが行われたという。ロケは国内ばかりでなく、中国の内モンゴル自治区など海外でも行われ、博多商人・謝国明(北大路欣也)や水軍・松浦党の佐志房(藤竜也)が大陸の人々と交流するさまなどを通し、モンゴル帝国を中心に世界がダイナミックに動くこの時代の空気が再現されていた。

 思えば本作が放送された2001年は、80年代末の冷戦終結以来、世界中に広がったグローバリゼーションの波に抗うかのように、アメリカでイスラム原理主義組織による同時多発テロが起こった年でもある。これを受けて「対テロ戦争」に突き進むアメリカに対し、同盟国である日本も対応を迫られた。放送中にテロ事件が起こったのは偶然とはいえ、この時期にこうした作品が生まれるのはある意味必然であったのかもしれない。

 その後も大河ドラマではたびたび海外ロケが行われた。昨年の『青天を衝け』でも、コロナ禍で俳優陣がなかなか出国できないなか、江戸幕府の使節団がフランスなどヨーロッパ各国を歴訪するシーンが、日仏双方で撮影した映像を最新の技術によって合成することで違和感なく作成されていた。こうした成果を見ると、いずれNHKが海外のテレビ局あるいは動画配信会社と組むなどして、世界的なスケールで歴史ドラマをつくるのも可能ではないかと思わせる。

 ところで、現在、NHKオンデマンドなどで配信されている『北条時宗』は総集編のみである。それも1年間放送されたものを前後編合わせても3時間20分足らずの尺でまとめたため、かなりの部分がカットされている。言い方は悪いが、これでは長い予告編のようで、どうも食い足りなさが残る。では、全話がDVDやBDになっていて、それで観られるのかと思いきや、残念ながら現在まで一度もソフト化されたことがないらしい。70年代の『草燃える』のように映像を残すのが困難だった時代の作品ではないのに、不思議なことである。『鎌倉殿の13人』が好評なことだし、鎌倉幕府のその後を描いた作品として、これを機にソフト化なり配信なりされることを期待せずにはいられない。

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある

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