浴室の溺死は75才以上の後期高齢者に集中!湯船とシャワーが危険な理由【医師解説】
「七病を除き、七福を得る」として、仏教とともに日本に入ってきた入浴。現代ではさまざまな研究で、風呂に入ることが心身に与える健康効果が明らかになっている。だが、方法を間違えると、むしろ命を脅かしかねないことを知っておいてほしい。
11、12月から入浴時の死亡事故が急増
朝晩の冷え込みが厳しくなってきた。夏の間はシャワーですませていたという人も、熱い湯船が恋しくなる時期だ。だが、やり方を間違えれば命にかかわる。
東京都の調査によれば、入浴時の死亡事故の件数は、毎年11月から激増する傾向にある。過去10年間の月別の平均件数を見ると、10月は75.5件なのに対し、11月に入ると一気に125.7件に増える。さらに12月は202件と、寒さが厳しくなるほど増えている。ちょうどいまの時期からが危ないのだ。
湯船で起こる“冬の熱中症”
浴室での死亡事故で最も多いのは「溺死」。その原因は大きく2つあり、1つが、温度変化による血圧の乱高下で体がダメージを受ける「ヒートショック」だ。国際医療福祉大学大学院教授で、温熱医学などを専門にしている前田眞治(まさはる)さんが言う。
「暖房の効いたリビングから寒い脱衣所や浴室に入ると、血管が収縮して血圧が上がり、脳出血や脳梗塞、くも膜下出血、心筋梗塞などのリスクが上がります。一方で、血圧が下がるのも危険です。体が冷えた状態で温かい湯船に浸かると血管が広がって急激に血圧が下がり、脳の血流が不足することによって、意識障害などを引き起こします」
東京都市大学人間科学部学部長・教授で温泉療法専門医の早坂信哉さんによれば、冬の乾燥した空気も、血圧に影響を与えるという。
「寒いと、水分の摂取量が少なくなりやすい。すると、知らず知らずのうちに血中の水分量が少なくなって、血液がドロドロになります。湯船に浸かると約500mlの汗をかくので、さらに血液がドロドロになり、血圧が上がりやすくなるのです」(早坂さん)
溺死のもう1つの原因は「熱中症」。夏の熱中症とは異なり、緩やかに心地いいまま、意識が薄れていくという。「湯船が気持ちよくて、ついウトウトしてしまった」というのは、熱中症による意識障害の可能性がある。
「人間は、体温が38~39℃を超えた段階で強烈なだるさを感じ、動けなくなります。だるさを感じてもそのまま湯船に浸かっていると、意識障害を起こしてお湯の中に沈んでしまい、そのまま亡くなるケースがあります。この場合の遺体には、湯の中でもがいた形跡がない。つまり、溺れる前から意識を失っているのです」(前田さん・以下同)
シャワーの温度を間違えて脳挫傷に
浴室での死亡事故は、75才以上の後期高齢者に多い。厚労省の人口動態統計でも、実際に湯船で溺れて亡くなった人の年齢を見ると、75~85才が圧倒的に多い。前田さんは、年齢を重ねて動脈硬化が進み、血圧が乱高下しやすくなるためだと言う。
「年を取るほど血管は細くなり、弾力が失われます。すると、少し驚いて心臓がドキドキするだけでも、増えた血流を血管が受け止めきれず、血圧が上がる。血流が減るときも、拡張した状態の血管がすぐに戻らず、血圧が下がりやすいのです。
25才を過ぎれば、誰でも少しずつ動脈硬化が進みます。いまは医学の進歩によって平均寿命が80才を超えていますが、生物学的には35才を過ぎれば“高齢”。特に、糖尿病などの生活習慣病がある人や肥満ぎみの人、喫煙の習慣がある人は、動脈硬化が悪化している恐れがあります」
実際に、高血圧と診断された34才の男性がヒートショックで緊急搬送された例もある。入浴中に頭痛と嘔吐があり、その後は寝たきりの生活を余儀なくされているという。湯船に浸からずとも、シャワーだけで死の淵をさまようケースもある。
「シャワーそのものは湯船ほど血圧に影響しません。しかし、湯船で温まって血圧が下がっていると、シャワーを浴びるために立ち上がった際に立ちくらみを起こしやすい。そのまま転倒して、脳挫傷で亡くなってしまった例があります。シャワーの水が温まりきっておらず、冷たい水が出てきて驚いた経験は誰しもあるでしょう。朝風呂のときに誤ってその冷水を浴びると、心筋梗塞を引き起こす危険もあります」(早坂さん)
冷たすぎる水を浴びると血管が収縮して急激に血圧が上がる。朝は一日の中で最も血圧が低いので、より影響を受けやすいのだ。
「シャワーは湯船と違って、冷たすぎる水や熱すぎるお湯が急に出てくることがある。若い人でも重篤な不整脈が起きて、意識障害につながる可能性もあります」(前田さん)
※女性セブン2021年11月25日号
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