兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第104回 兄の変化】
セラピードッグいることが決め手となって、家から徒歩数分のところにあるデイケアに通い始めた兄。週1回、6時間とはいえ、1日中、家でテレビを見てばかりだった兄の生活には、大きな変化となっているはずと信じつつ兄を見守る妹のツガエマナミコさん。ツガエさんにとっても兄がデイケアに行っている間は、ひと息つける貴重な時間。このまま順調にデイ生活を送って欲しいと願うのですが…。
それでも「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。
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兄、デイケアに慣れてきました。が…
男子アイドルグループ文化が、ここにきてジャニーズ以外にも広がりを見せております。最近、同い年の友人が、とある新生グループの若い男の子にドはまりしてファンクラブに入ったと聞き、ただただほほえましく拍手をお送りいたしました。
世の中のオバサンはもれなく若い男の子が好きだと、わたくし自身がオバサンになって実感できるようになりました。長い間ヤングなギャルに鼻の下を伸ばすオジサンを小バカにしてきましたけれど、根本は同じでございました。きっと遺伝子に組み込まれた本能、抗えない衝動なのでございましょう。時代が昭和なら「いい歳をして」と、一笑されたものですが、令和も3年となるとオバサンもトキメキを隠さないのが「ナウい」ようでございます。
兄がデイに通い始めて、そろそろ2か月が経とうとしています。先日の朝「今日はワンちゃんのところに行く日だからね」と言ったら「ああ、ワンちゃんのとこね」と一発で理解してくれたので、「オオッ?」と逆にビックリいたしました。先週まで「え?そうなの?」「へぇワンちゃんか」などと言っていたことを思うと、これは明らかな進歩と言えるでしょう。改めてセラピードッグさまに感謝でございます。
デイには幼稚園のような「連絡帳」がございまして、行くと毎回体温、血圧、脈拍、お食事の食べっぷりを記録してくださるので健康管理をする上でとても参考になります。それを見ると、初日の血圧は148 /92mmHgで、4~5回はそんな高めの数値でした。
気になって、60代男性の正常値をネットで調べてみたところ、130/85mmHgだったので「塩分の摂りすぎかな」とも考えましたが、先日は128/89mmHgと下がっていました。だんだん場所に慣れて、緊張しなくなってきたということなのでしょう。
お食事代はおやつも含め1回900円と、この辺りのランチ並みのお値段。いや、家にいれば1人約200円が我が家の昼食予算なので、一気に4日分が飛んでいくことになります。その代わりに塩分やカロリーが計算されたヘルシー献立。今のところ残さず食べているようです。
また、この施設の優れたところは、隣の内科医院が経営に携わっていること。体調が気になる日は連絡帳の「診察希望」に〇をしておけばすぐ診ていただけるというのも、たぶん施設利用料が高めな理由です。ただ、「熱がある場合はお預かりできません」と言われているので、その辺りは幼稚園や保育園と同じで厳しいところでございます。
お薬の量が増えたり、デイケアに通い始めるなど、わたくしとしてはあれこれ頑張った2021年前半ですが、兄の日常は何も変わっていないように見えます。そもそも回復することのない記憶力でございます。「どんな脳トレをしても無駄なんだろう」とどこかで覚悟しております。ただ、「週1回行くところがある」というだけでも兄の気持ちの張りになると思いたい。少々お高い利用料金とはいうものの、1日3000円ぐらいの健康ランドに週1で通っているご高齢者はたくさんいらっしゃるはず。お酒もたばこも遊びにも行かない兄上なので、今のところは十分許容範囲でございます。
変化がないと申し上げましたが、気付けば「コップにオシッコ」を久しく見ていません。デイのお蔭でしょうか。その代わり「ベランダで小便小僧」の頻度が増しました。洗っても洗っても上書きするようにチョロッとひっかけるのです。
「時間を見計らってトイレに誘導すれば」というご意見もあるかと思いますが、トイレはトイレで頻繁に行くので、そういうことではないと思います。どうしてベランダでオシッコすることに執着するのかと長く考えてきましたが、兄の頭の中はわかりません。「どうしてするの?」と訊けば、「ごめんね、もうしないから」と話しを終わらせてしまいます。でも、またすぐやるのです。犬がマーキングするように……。
頻繁に水を流して箒でこすり洗いをするものの、ベランダの排水溝周辺は金属もコンクリートも変色し、うっすらと白っぽい何かがこびりついてまいりました。ハエもたかる季節です。ああ、これを笑って許せる人間になりとうございます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性58才。両親と独身の兄妹が、7年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現62才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ