自助具を手作りするNPO法人の思い 生活が便利に豊かになる福祉用具の世界
「自助具」をご存知だろうか? 身体が不自由な人たちが感じる生活の不便さを解消するために生まれた福祉用具のことで、生活便利用具ともいわれるものだ。1人ひとりの身体状況やニーズに合わせた自助具を手作りしているNPO法人「自助具の部屋」にその思いを聞いた。
自助具をオーダーメイドで製作する活動
自助具とは、病気や事故あるいは加齢による変化などから、身体に不自由をきたし、日常生活が困難になった人のための福祉用具のことだ。
市販のものもあるが、その人の状態に合わせたオーダーメイド、手作りの自助具というものがある。その製作を手がけるNPO法人「自助具の部屋」の活動をレポートする。
「『自助具の部屋』は1983年に設立されました。国内の自助具を製作するボランティアグループの先駆けになるかと思います」
こう語るのは、仲間と共に自助具を製作しているNPO法人「自助具の部屋」代表の岡田英志さんだ。
元々家電メーカーで工業デザイナーとして働いていた岡田さんが、自助具を作るようになったきっかけは、
「学生時代のゼミで、ある身体の不自由な人用の自助具をデザインする課題がありました。しかし良いものができなくて、ずっと心残りだったんです。
福祉関係の物作りをしたいという思いから、会社を退職した後、1993年から自助具を製作する『自助具の部屋』に参加しました」(岡田さん、以下同)
「自助具の部屋」には、医療・福祉系の元看護師や現役の作業療法士、物作りの好きな技術系の現役会社員、定年退職した人、主婦、デザイナーなど様々な職種や経歴を持つ人たちが参加しているという。
「物作りが好きで自分の特技や経験を活かし、『人の役に立つ物作りがしたい』という思いで、自助具作りに参加するようになったメンバーが大多数です。
依頼された自助具を製作し、完成品を渡したときの『ありがとう』のひと言が、自助具を作り続ける力になるんです。
製作した自助具を長く使っていただけるように、安全性と使い勝手はもちろんですが壊れにくく、また壊れても修理が可能な物作りにこだわっています」
4000点以上の自助具を製作
主な活動は依頼された自助具の製作や、国際福祉機器展(東京)やバリアフリー展(大阪)などの展示会に出展し、自助具の紹介や製作の相談にのることだという。
「利用者が求める性能にどうすればより近づけるか」
そんな思いから、会員みんなで知恵を出し合っているとのこと。
「誰もが入手できる身近な材料で、身近な道具や簡単な加工で製作できるものを基本とし、製作した自助具は、材料費と送料のみで提供しています」
これまでに製作した自助具は4000点にものぼり、自助具製作の講習会なども開いているそうだ。
「加齢により身体が不自由になった高齢者向けに特化した自助具は、国内外でもまだあまり製作されていないと思います。我々はそういった高齢者の方からの依頼も、スタッフと協議してお受けする場合もあります」
自助具を使ってみたい、オーダーメイドで頼んでみたい場合、「自助具の部屋」では、
「お会いして製作依頼を受けることを基本としていますが、お会いすることが困難な場合は Webサイト上からの製作依頼も受けています」
また、介護施設やリハビリをしている病院の作業療法士や理学療法士に相談すれば、自助具を紹介してくれたり、使い方の指導をしてもらえたりするという。
ほかにも、自治体の生活支援課などで福祉用具専門相談員を紹介してもらい、自助具について相談するという方法もある。
「自助具の部屋」が製作した注目の自助具3選
「自助具の部屋」が製作した自助具を紹介する。
1.「ペンホルダー」で手紙が書きやすくなった
「指先に力が入らないためペンをしっかり握ることができず、文字がうまく書けなくなった。これまでのようにペンを握って書き物をしたい」という依頼を受け、製作したのが「ペンホルダー」だ。
「コルク粘土を使い、ペンを握る形に成型しました。ペンをしっかり握らなくてもペン先を思うように動かせるので、これまでと変わらない状態で手紙が書けるようになったという言葉をいただきました」
2.「生中コップホルダー」で仲間と乾杯できた!
「手がうまく握れず、中ジョッキが持ちにくい。大好きなビールを中ジョッキで、自分の手に持って飲みたい」という依頼から、製作したのが「生中コップホルダー」だ。
「マジックテープでジョッキを固定し、取手に手のひらを差し込んで、ジョッキを持ち上げることのできるようにしています。
これまではジョッキが持ち上げられなかったので、テーブルに置いたジョッキを傾けてビールを飲んでいたそうなんですが、ジョッキ感覚でグラスを手に持ってビールを飲めるようになった、仲間と乾杯ができたと喜んでいらっしゃいました」
3.「布巾絞り器」で台所仕事が楽に
「手の力が弱く、布巾をしっかり絞れないとお悩みだった方に、製作したのが『布巾絞り器』です。
布巾の先を2本のローラーの隙き間に押し込み、レバーを上下させる毎にローラーが回転して布巾を絞り、反対側から絞り終わった布巾を取り出すことができるようにしました。手の力がなくても楽に布巾を絞れるようになったと喜ばれました」
製作した自助具が市販化されたものも
1人ひとりの悩みに寄り添いながら製作した自助具によって、それまで不自由だった生活が便利になる。オーダーメイド自助具が市販化されて一般の人に広まり、生活が便利に豊かになった商品もある。
「多くの方に使ってもらえる汎用性のある自助具は、量産して販売されたものもあるんですよ。足先に手が届かない人、手や腕の力が弱く靴下をしっかり引き上げることができない人のために製作した自助具は、『はくのらーく』という商品名で市販化されました」
こちらの商品は、身体の不自由な方や高齢者に限らず、お腹が大きくなった妊婦さんやお腹が邪魔になって靴下が履けないという太り気味の方にも好評なんですよ」
「自助具の部屋」が製作したものは、作り手たちの熱意と依頼者に寄り添う温かい気持を感じられるものばかり。「自助具を依頼してくださった方から喜びの声を聞けたときが一番嬉しいですね」
「手紙を書くのが楽になった」「仲間とビールジョッキで乾杯できた」「布巾を絞るのが楽になった」――利用者の喜びの声が、製作の原動力になると岡田さんは語る。高齢者をはじめ、生活に不便を感じている人たちに、オーダーメイド自助具が今後もっと広まっていくといい。
写真提供/「自助具の部屋」 取材・文/本上夕貴
教えてくれた人
ヒューマン代表 プロダクトデザイナー・岡田英志さん
家電メーカーで製品デザインを担当後、デザイン事務所「ヒューマン」を設立し、福祉用具・ユニバーサルデザインのデザイナーとして従事。大学・専門学校でプロダクトデザインの非常勤講師を務めている。市民活動では「NPO自助具の部屋」の代表(https://sites.google.com/jijyogunpo.com/npojijyogu/)。国際福祉機器展における『はじめての福祉機器 選び方・使い方セミナー』の講師を務める。
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