“雑草栽培セット”なぜ人気?「アスファルトから小さな芽、明日への小さな楽しみに」
外は気持ちのいい陽気なのに依然として続く自粛生活。娯楽がなくてもうウンザリ…。そんな暗い気持ちを癒してくれると、大ヒットしているのが、なんと「雑草」を育てる栽培セット。アスファルトから芽吹く雑草は、どんなパワーを秘めているのか。なぜ今「雑草」が注目なのか。育てることによる効果を専門家に聞いた。
大人気“雑草栽培セット”とはどんなもの?
いい加減、この巣ごもり生活に飽き飽きしている人が多いはずだ。1年以上の長きにわたる自粛生活の終わりは、いまだ目処が立たない。そんな中、急激に売り上げを伸ばしている商品がある。
それは、「雑草栽培セット」。
その名の通り、アスファルトに生えているような、タンポポやクローバーなどの雑草を育てるキットだ。
アスファルト風の黒いブロックには亀裂が入っていて、その隙間には「雑草の種」がセットされている。水を掛ければ、その亀裂から数種類の雑草がニョキニョキと生えてくる。
「ちっちゃな芽、かわいい。愛着がわく」「思ったより場所取らないからどこにでも置けるわ」「いつもサボテンすら枯らしてしまうけど、雑草なら育てられそう!」
こんなふうに、SNSを中心に話題を集めている。価格は税込1650円。雑草にしては少々お高い気もするが、この人気に、当の販売元も驚いている。聖新陶芸の担当者は、
「正直、こんなに売れるなんて、まったく予想していなかった」と、うれしいやら困惑するやら。
「発売を開始した2月末から2か月半ほどで、3700個以上売れています。一時は生産が追いつかず、欠品状態が続いたこともありました」(担当者)
「雑草栽培セット」ヒットの理由を専門家が分析
なぜこれほど人気を集めているのだろうか。
千葉大学大学院園芸学研究院准教授の岩崎寛さんは、コロナ禍による大きなストレスが要因ではないかと推測する。
「これまでのように、音楽を聴いたり、好きな映像を見たりするだけでは解消できないほどのストレスを感じている人が多い。家の中にいながら植物の持つ癒し効果が得られるものを、本能的に求めるようになっているのではないでしょうか」(岩崎さん・以下同)
確かに、コロナ禍では室内を彩るインドアグリーン市場が大繁盛だといわれる。しかし、よりによって外に出ればどこにでも生えている雑草を、わざわざ買って家の中で育てるとは。
“雑草”である必要性はなんなのだろうか?
家庭菜園や観葉植物の世話をしていると気持ちが落ち着くという人は多いだろう。事実、園芸をする前後では、脈拍が正常値になるほか、緊張や不安、疲労感、抑うつ傾向などが改善することがわかっている。
「森林浴などで緑に触れると、免疫の要である『NK細胞』が活性化するほか、ストレスを感じたときに分泌される『コルチゾール』というホルモンの値が下がります。緑に触れることは、本当に心身を癒す効果があるのです。
また、植物のある場所に5分間座っているだけで、血圧が正常化することもわかりました。これは、単純に血圧を下げるわけではなく、血圧が高すぎる人は下げ、低すぎる人は上げる。すなわち、いずれも適切な状態にまで戻してくれるのです。きれいな花畑でも、公園などの芝地でも効果は変わりません」
つまり、植物はその種類に限らず、人間の持つ自然治癒力を高め、その人にとって最も健康な状態に、心身を整える作用があるのだ。とはいえ、ご時世柄、わざわざ森林浴に出かけるのはおろか、近所の公園にすら、気軽に行くのは難しい。だからこそ、自宅で手軽にできて、かつ失敗しにくい雑草の栽培がぴったりなのだ。
雑草に触れ、香りに癒し効果も
岩崎さんによると、森林や草花の写真、映像などに癒し効果がないわけではないそうだ。しかし、本物の植物を生で見て、触れて、育てることによる心身への効果は得難いとも。
「植物の種類に関係なく、本物の花や葉を見て、触れて、香りを感じることで、その効果を最大限に得ることができます。雑草のほか、スーパーで売っている豆苗やかいわれ大根などを育てることでも充分。植物と暮らす環境こそが、いわば“万能薬”なのです」
バラなどの花木は高価なうえ、育てるのが難しく、品種によっては、気安く触れられないような繊細な花もある。
一方、雑草なら、水を掛けるだけでグングン育ち、少し引っ張られるくらいではビクともしない。植物の癒し効果を手っ取り早く得ることができるのだ。
とはいえ、雑草からは、バラのようなかぐわしい香りなどというものは期待できない。ところが、人間の嗅覚では感じ取れないような弱い香りにも、癒し効果は充分にあるという。
「たとえば、森林や公園にいるとき、あまり植物の香りが感じられなくても、実際にはその成分は体に吸収されています。それにより、緑のある場所にいるとさまざまな効果が得られ、心地よさを感じられるのです」
なるほど、かぐわしい香りのするバラなどに限らず、雑草を見たり触ったりしているだけでも、人間の心と体は充分に癒されるというわけか。
どんな雑草が生えるか…明日への小さな楽しみ
植物を育てる園芸療法は、医療や福祉の現場でも注目されており、現在コロナうつなどで大きなストレスを抱えている人にもおすすめだという。
「園芸療法の本質は、自分の手で植物を育てることにあります。“いつ芽が出るかな”“どんなふうに成長するのかな”と、その存在自体が、明日への楽しみになる。植物を育てることは、コロナで先行きの見えないいまの時代にマッチする趣味だといえます」
雑草栽培セットは、成長するまで、どんな雑草が生えてくるかわからないという。タンポポが咲くか、見たこともない形の葉っぱがつくか―まさに、明日への小さな楽しみになってくれる。
「もともと、“アスファルトを割って力強く生えてくる雑草の姿を見て元気になってもらいたい”という思いから販売を開始しました」(前出・聖新陶芸の担当者)
いくら踏まれても、放っておかれても強く上を向き続ける雑草に、いまこそ力をもらいたい。
※女性セブン2021年6月3日号
https://josei7.com/
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