高木ブーのハワイアンが中学音楽教科書の副教材に「長生きするといろんなことが起きるね」
高木ブーさんのウクレレと歌声は、コロナ禍で気持ちが沈みがちな私たちに元気と癒しを与えてくれている。そんなブーさんパワーが、音楽の授業で使うDVDを通じて、全国の中学生にも届けられることになった。「まさかこんなことが起きるなんてね」と笑うブーさんが、自分の子ども時代を思い出しながら、次世代にエールを贈る。(聞き手・石原壮一郎)
若いうちに好きな音楽と出合ってほしいな
とっても光栄で嬉しいことがありました。中学校の音楽教科書の鑑賞DVDに、僕の演奏と歌が収録されることになったんです。教育芸術社の『中学生の音楽鑑賞』っていう教科書に合わせた14巻セットのDVDで、タイトルは『中学生の音楽鑑賞』。この4月から、その教科書を使っている全国の中学校に置かれはじめてるみたい。
僕が出ているのは、「世界のさまざまな楽器の音楽を味わおう」がテーマになってる第11巻で、ハワイアンのスタンダードである「マヒナ・ホク」を演奏して歌いました。十五夜の月明かりの下で恋人同士が愛を語り合うっていうロマンチックな歌です。ハワイアンの魅力が詰まった素敵な曲だから、これを聞いた中学生がハワイアンやウクレレに興味を持ってくれるといいな。
それにしても、勉強が苦手だった僕が、こういう形で教材になるなんてね。長く生きていると、いろんなことが起きて楽しいな。何度も行ったことがあるレコード会社のスタジオで収録したんだけど、いつもより気合いが入ったし、ちょっと緊張した。このDVDで初めてハワイアンに出合う子も多いだろうから、責任重大だもんね。
中学3年生のときにウクレレを始めた
僕が中学生になったのは、1945(昭和20)年の春。戦争がどんどん激しくなって、東京には毎日のようにB29が、焼夷弾を落としにやって来る。巣鴨に住んでたんだけど、ウチも空襲で焼けちゃって、おふくろの実家があった千葉県の柏市(当時は柏町)に引っ越したの。そのまま、中学1年の8月15日に柏で終戦を迎えました。
僕がウクレレを始めたきっかけは、前にもここで話したけど、中学3年生の15歳の誕生日に、3番目の兄の昇司兄ちゃんが唐突にプレゼントしてくれたから。昇司兄ちゃんはその頃、ハワイアンにかぶれてて、灰田勝彦さん・晴彦さん兄弟の追っかけみたいなことをしてた。くれた理由を聞いても、「オレもなんでだかわかんない」って笑ってたな。兄貴の気まぐれのおかげで、僕は一生のパートナーと出合うことができました。
音楽自体は巣鴨の家に住んでる頃から、けっこう身近だったんだよね。親父は金門商会っていう水道メーターやガスメーターを作る会社で働いてた。ちゃんと聞いたことはなかったけど、けっこう偉い立場だったみたい。物心ついたときには、当時はまだ珍しかったレコードプレーヤーが家に置いてあった。ジャズのレコードもあって、小学生の僕はわけもわからないまま、ちょくちょく聞いてたんだよね。
学校で習うのは唱歌ぐらいだし、ラジオから流れてくるのも軍歌や浪花節がほとんどだった。ジャズのメロディは、すごく新鮮で刺激的だったな。その頃は自分が楽器を演奏するなんて夢にも思ってなかった。だけど、身体が自然に動き出すようなウキウキした気持ちになったのは、今でも覚えてる。ウクレレとの偶然の出合いだけじゃなくて、その頃に家にあったジャズのレコードが、僕を音楽の道に導いてくれたのかもしれない。
僕をきっかけに、ドリフのコントにも出合って
ちなみに小学校の成績は、音楽だけはよかったんだよ。ほかは「アヒルの行進」だったけど。「アヒルの行進」って言っても、わかんないか。昔の通知表は「甲乙丙丁」で成績が付けられてた。下ふたつの「丙丁」は、よっぽどじゃないと先生も付けない。「よくできました」が「甲」で、「もっとがんばりましょう」が「乙」。通知表に「乙」がたくさん並んでる様子を「アヒルの行進」って言ったんだよね。なんて、自慢気に言うことじゃないけど。
このDVDにはクラッシックから何から、世界中のあらゆる音楽が入ってる。世界中の楽器も出てくる。ハワイアンやウクレレに限らず、子どもたちが「好きな音楽」と出合うきっかけになればいいな。今はYouTubeもあるから、気になるメロディがあれば、どんどん探してきて聴くことができるしね。好きな音楽やずっと続けられる楽器との出合いは、間違いなく人生を豊かにしてくれます。それは、どの時代も同じじゃないかな。
それと、あくまで欲を言えばなんだけど、ウクレレを持った「高木ブー」の歌と演奏をきっかけに、中学生がザ・ドリフターズのコントに出合ってくれたらすごく嬉しいよね。来年度版には「いい湯だな」も入れてもらえないかな。
ブーさんからのひと言
「好きな音楽や楽器との出合いは、必ず人生を豊かにしてくれますよ」
高木ブー(たかぎ・ぶー)
1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1964年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。CD『美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』『Life is Boo-tiful ~高木ブーベストコレクション』など多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)など。YouTube「【ダイジェスト】高木ブー88歳だョ!全員集合」( イザワオフィス公式チャンネル内)も大好評!
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。3月25日に最新刊「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」が発売。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。