「最期まで暮らせる家」のチェックポイント10|ドア、床、2階の寝室の状態は?【役立ち記事再配信】
長年暮らすほど愛着の湧くわが家だが、その分、危険リスクも高くなっていることにお気づきだろうか。昔は気がつかなかった敷居の段差や玄関のドアの重さが、命にかかわる大事故につながるかもしれない。
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家の中の事故で要介護状態に。リフォームは体が弱る前に
厚労省によると、高齢者が要介護になる原因は「認知症」「脳血管疾患」「高齢による衰弱」に次いで「骨折、転倒」が第4位だ。その多くは、家の中での事故が原因である。
「医療機関ネットワーク」の報告事例を見ると、「風呂場で転倒し、プラスチックのいすで頭部を強打した」「階段から転倒し、急性硬膜下血腫になり入院」「玄関でつまずき、大腿骨を骨折」など、ごく日常的な動作から大事故につながっていることがわかる。長年住んでいれば家の老朽化も進むし、家族の生活スタイルも変化する。子供が巣立てば、使わない部屋も増えるだろう。
自宅で安全に暮らすためには、住む人の身体能力に合わせて住まいを整える必要がある。では、その準備を始めるのは、いつ頃が適切だろうか。高齢者住環境研究所代表の溝口恵二郎さんは、「リフォームは体が弱ってからでは遅い」と話す。
「室内での転倒、階段からの転落、浴室での溺水などで、毎年1万人以上の高齢者が家庭内事故で亡くなっています。必要に迫られてからやればいいと思っている人もいますが、体が弱ってからでは、リフォームのために片づけなどの準備をするのも大変です。さらに、介護が必要な状態になっていたら、リフォーム期間中に仮住まいで生活することもできないかもしれない。元気で判断力のある、定年前の50代後半~60代前半に行っておくべきです」
だからといって、必要ない部分までむやみに改装するのは逆効果になりかねない。すぐに改善すべきポイントの見抜き方を溝口さんに聞いた。
□チェック1 「段差」は最小限までなくす
年を取り、足が上がりにくくなると、たった1cmの段差さえも命取りになる。
「玄関や風呂など段差が大きい場所には踏み台を置いて段差を軽減してください。敷居はフラットにして、室内の移動で引っかかる場所を極限までなくしましょう」(溝口さん・以下同)
□チェック2 ドアは「引き戸」、ドアノブは「レバー式」に
片開きのドアは、足元がふらつく人には開けるのが難しく転倒しやすい。
「特に玄関のドアは重いため、高齢者には開けづらい。引き戸なら力の弱い人でも簡単に開けられます。車いすの利用を検討している場合は、最低でもドア幅80cm以上は確保してください」
引き戸に変更できない室内のドアは、ノブをレバー式にするだけでも充分だ。
「握り玉式のノブは握力が弱くなると回せなくなりますが、レバー式なら押すだけなので、リウマチで関節が曲がらなくても、こぶしでドアを開けられます」
同様に、蛇口もレバー式につけ替えるといい。
□チェック3 2階は物置にして日常的に使わない
「階段の昇降は運動になる」といって、あえて2階を寝室にしている人はいないだろうか。元気なうちに1階に移すべきだと溝口さんは言う。
「高齢になるほど、階段は危険度が増します。2階は物置にして、居住空間は1階で完結させるのが現実的です。空き室にするのはもったいないからと吹き抜けに改築したがる人もいますが、改装費が数百万円はかかるうえ、エアコンの効きも悪くなります」
□チェック4 廊下に「手すり」は不要
元気なうちに済ませたいリフォームだが、手すりの取りつけだけは例外だ。
「元気なうちから手すりをつけてしまうと、いざ使うときには腰が曲がって高さが合わないというトラブルがよくあります。さらに、廊下に手すりをつけると、通路の幅が狭くなって体をぶつけたり、車いすが通りにくくなるというデメリットもあります」
改装時には、壁の裏側に「手すり取りつけ用の壁下地」を仕込んでおくのもポイント。
「下地があれば、必要なときにホームセンターで買ってきた手すりを自分で取りつけることも可能です。無理に手すりをつけなくても、つかまりやすい場所に家具を配置すれば、手すり代わりになります。その際、家具はしっかり固定することを忘れないように」
ただし、滑りやすく、つかまるところが少ない風呂とトイレだけは、真っ先に手すりをつけておくことで事故予防になる。
□チェック5 「家電」はコードレスを選ぶ
床に伸びた電化製品のコードは、足を引っかける危険大。
「リフォームの際は、家電の配置を考えながらコンセントの取りつけ位置を決めましょう。可能な範囲でコードレスの家電に買い替えるのが理想です。ただし、自動で動くロボット掃除機は足を引っかける恐れがあるので避けたい商品です」
□チェック6 床は畳よりフローリング
畳やカーペットは、足を引きずるようになると引っかかりやすくなり、転倒につながる恐れがある。
「車いす移動の摩擦をなくすためにも、フローリングに改装するのがおすすめです。ただし、フローリングは滑りやすいという欠点もあるので、危険な場所には薄いラグやマットを敷くなど工夫してください」
□チェック7 寝室からトイレは最短ルートに
夜間のトイレへの移動は、距離が長いほど転倒するリスクが高い。
「少しでも危険をなくすように、寝室とトイレは最短ルートにしておきたい。介護が必要になったら、ベッドの横にポータブルトイレを置きましょう」
□チェック8 風呂、トイレ、脱衣所こそ広々させる
リビングや寝室以上に、水回りのスペースを広めに確保しておくと、介護が始まったときに介助者が動きやすくて便利だ。
「浴室は1坪、洗面脱衣所が1坪、トイレは0.5坪が目安です。水回りは横一列に並べて、なるべくスムーズに移動できるようにしてください」
冬場の風呂やトイレは、急な温度変化によって血圧の急上昇が起こるヒートショックの危険性が高いため、温度管理には細心の注意を払いたい。
「温度差ができないよう、水回りには暖房機器を置くこと。瞬間的に暖まる赤外線セラミックヒーターが最適です」
□チェック9 エアコンは24時間つけっぱなしでOK
昨年、熱中症で救急搬送された高齢者は3万7000人にも上る。その原因の1つに、「電気代がもったいない」とエアコンをつけず、脱水症状を起こすケースがある。
「熱帯夜は、エアコンをつけない方が体に毒。猛暑日は、24時間つけっぱなしにした方がいい。最新のエアコンに取り替えたり、リフォーム時に断熱工事をすれば、温度を下げすぎなくてもエアコンの効きがよくなります」
□チェック10 柔らかすぎるソファはNG
座椅子や、体が沈み込むような柔らかいソファは、若いときはリラックスできていいが、足腰が弱ってくるとけがのもととなる。
「座った状態から立ち上がるときは腰を痛めやすい。いままで座卓だったならテーブルといすに替え、ふかふかのソファは高さのある硬めのものにするといいでしょう」
お気に入りの家具やインテリアも、健康を害するようでは台無しだ。新型コロナの感染拡大によって、家庭内でのソーシャルディスタンスも問題になっている。溝口さんは、「家の中で神経質になる必要はない」と語る。
「飛沫感染を防ぐために間仕切りなどを設置すると、逆に転倒の危険を高めます。また、夏のマスクは熱中症リスクがある。満員電車や人混みに行くならまだしも、家の中でマスクをつけるのはやめましょう。新型コロナももちろん危険ですが、それ以上に転倒などの事故や熱中症を起こす方がよほど心配です」
手洗いやアルコール消毒は充分にして、家の中では快適に過ごすことを優先したい。
教えてくれた人
溝口恵二郎さん/高齢者住環境研究所代表。http://www.kojuken.com/
※女性セブン2020年7月2日号
https://josei7.com/