兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第19回 兄、新居を覚える】
一緒に暮らす若年性認知症の兄が引越しすることをなかなか理解できず、すったもんだの末、ようやく新居に。しかし…。
ライターのツガエマナミコさんが兄との暮らしを綴る連載エッセイ。
「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。

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引越し後にできなくなったこと
引越してからの問題は通勤でした。朝は、駅に向かう人の流れがあるので大丈夫だったのですが、帰りは難問でございました。不動産表記でいう「駅から徒歩5分」から「徒歩7分」に引越しただけですのに、1か月経っても1人で帰ってこられず、途中で携帯から連絡が入るありさま。駅からはほぼまっすぐで、1か所曲がればいいだけなんです。でもそのたった1つをいつも間違ってしまうというもどかしさ。
当然はじめの1週間は駅まで迎えに行きました。次からは連絡が来るまで迎えに行かないようにして、一度は1人で帰ってきたこともあったのですが、翌日はまた迷子でした。確かに似たようなマンションがいくつも立ち並んでいるので、間違えやすいことは否めないのございますが、ある日は連絡もなく深夜まで帰ってこないことがあり、わたくしが捜索すると全然違うマンションの入り口でオートロックの鍵をかざしている兄を発見しました。2時