健康

うつ病のリスクを魚のオメガ3系脂肪酸が激減させるとの報告

 枯れ葉が舞い落ち、長雨が列島を包む、物憂げな秋の季節に朗報だ。9月26日、国立がん研究センターが、日本人に馴染み深い“ある食材”が、うつ病のリスクを激減させるという調査報告を発表した。

 その食材とは「魚」。同研究チームは、長野県南佐久郡に住む40~59才の男女1181人を対象に、1990年から25年間に及ぶ追跡調査を実施。19種類の魚介類の摂取量とうつ病の関係を調べた。

うつ病は脳内の「セロトニン等」が不足することで発症する

 1181人を魚介類の摂取量ごとに4グループに分別したところ、摂取量が最も低いグループ(1日平均57g)に比べ、2番目に高かったグループ(1日平均111g)は、うつ病の発症率が56%も低いことが判明した。ちなみに111gは、イワシ1尾分に相当する。調査結果を発表したがん研究センターの健康支援研究部長・松岡豊氏が語る。

「うつ病は、脳内の神経伝達物質『セロトニン等』が不足することで発症します。魚介の中でも特に青魚に多く含まれる『オメガ3系脂肪酸』は、神経伝達物質のバランスを整える作用を持っており、これがセロトニンの減少を防ぎ、結果、うつ病も予防すると考えられています」

EPAとDPAの摂取量が多いほど、うつ病の発症率が低下

 オメガ3系脂肪酸にはエイコサペンタエン酸(EPA)や、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ドコサペンタエン酸(DPA)などがあり、なかでもEPAとDPAの摂取量が多いほど、うつ病の発症率が低下していることもわかった。

 ただし、摂取量と予防効果はそのまま比例するわけではなく、今回の調査では、摂取量が最も多かったグループ(1日平均153g)のうつ病発症率は26%減に留まっていた。その理由について、前出の松岡氏が続ける。

「魚をたくさん食べる人は野菜の摂取量も多く、主に炒め物や揚げ物の形で野菜を摂取していました。オメガ3系脂肪酸は、野菜炒めなどで使用されるサラダ油に含まれる『オメガ6系脂肪酸』によって、その効果が弱まってしまうのです」

 長年、魚のうつ病予防効果に着目し、診療に取り入れてきた本郷赤門前クリニックの吉田たかよし院長が語る。

「過去にもオメガ3系脂肪酸とうつ病予防の関連を指摘した論文は存在しました。アメリカ国立衛生研究所のジョセフ・ヒベルン博士が1998年に発表した論文がその代表で、各国のうつ病発症率を比較したところ、魚の摂取量に関連があることを発見しています。そこでは、魚を食べる国の方がうつ病の発症率が低く、食べない国の方が高いというデータが示されました。特に魚の摂取量が低いニュージーランドのうつ病発症率は、日本の50倍近かった」

 当時、日本人1人あたりの魚介類の年間消費量はおよそ60kg前後。牧畜が盛んなニュージーランドは、その3割程度の消費量だったとされていた。

「医学研究には民族差がつきもので、今回の調査結果は、日本人にもオメガ3系脂肪酸の効果があると示したという点で、極めて意義のあるものだと思います」(吉田院長)

オメガ3系脂肪酸は、マグロ、イワシ、ブリなど青魚やカレイ、貝類にも含まれる

 オメガ3系脂肪酸はどのような魚に多く含まれるのだろうか? マグロ、イワシ、ブリ、サバ、サンマといった青魚の他、カレイ、スズキ、イトヨリにも多く含まれているという。

 また、貝類では、アワビ、トコブシ、ホッキ貝、ミル貝、バイ貝は豊富。一方、みそ汁で身近なシジミやアサリにはあまり含まれていない。こうした魚介を調理する上では注意すべきことがある。がん研究センターの健康支援研究部長・松岡豊氏はこう語る。

「天ぷらや竜田揚げなど“揚げ物”と摂取するのは避けましょう。オメガ6系脂肪酸と一緒に摂取すると、オメガ3系脂肪酸の持つ効果が打ち消されてしまう。

生で週に3~4日、夕食に食べるの理想

 いちばんオススメなのは生です。お刺身やお寿司で摂取するのが最も効果的です。生でなければ、煮るか焼く、または蒸すことをおすすめします。ただ、煮物の場合は、オメガ3系脂肪酸が煮汁に流れ出てしまうので、それも飲んだ方が効果は高まる。サケなどをムニエルにする場合も、サラダ油ではなくバターを使うといいでしょう」

 手軽なところでは、ちくわやかまぼこといったすり身を使った食材にもオメガ3系脂肪酸は微量に含まれている。その効果はうつ病の予防に留まらない。本郷赤門前クリニックの吉田たかよし院長が語る。

「オメガ3系脂肪酸は心筋梗塞の予防に効果的であることもわかっています。もともとはイヌイット(カナダ北部の氷雪地帯に住む原住民)の研究からスタートしたのですが、彼らは肉中心の食生活にもかかわらず、心筋梗塞の発症率が極めて低かった。研究の結果、魚を主食とするアザラシの肉を食べており、間接的にオメガ3系脂肪酸を多く摂取していることが要因だと判明したのです」

 文字通り“心身”を守る貴重な食材といえるが、どのくらいの頻度で食べればいいか。

「週に3~4日、夕食で食べるのがいいでしょう。脂肪酸を分解する消化吸収能力は、朝より夜の方が高まりますので。1980年代の日本人の平均的な食生活が理想的だといわれているんです。当時と比べると、今は日本でも魚の消費量が減っています。今回の調査結果を受けて、今一度魚食文化が注目されたらうれしいです」(吉田院長)

 今日の夕食から、食卓にはぜひ1尾の青魚を。

※女性セブン2017年10月26日号

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