夏バテだと思っていたら「鉄不足」だった?医師が教える隠れ貧血のサインと対処法
気温が上がるこの季節の不調の原因は「鉄不足」にあるかもしれない。健康診断では見落とされがちな「隠れ貧血」は、放っておくと重篤な病を招くことも。正しい鉄分の摂り方を知り、バテない体を作ろう。
教えてくれた人
袴田拓さん/新百合ヶ丘総合病院予防医学センター消化器内科部門部長
夏特有の「隠れ貧血」に要注意!不調の原因は鉄不足だった
近年、40℃を超えるような猛暑日が増え、不調を訴える人が増えている。「その背景には“夏特有の貧血”が隠れている」と新百合ヶ丘総合病院予防医学センター消化器内科部門部長の袴田拓さんは話す。
「貧血とは、赤血球に含まれる鉄入りのたんぱく質・ヘモグロビンが少なくなった状態。血液検査をすると、女性はヘモグロビン値12g/dL未満で貧血と診断されます。貧血をお金にたとえると、本来なら血液中(財布の中)にも体内(銀行)にも鉄が豊富にあるのに対し、財布の中にも銀行にもお金がなくなった状態が貧血です」(袴田さん・以下同)
しかし、貧血と診断されないのに鉄が欠乏している人がかなりいることが判ってきたという。
「鉄は血液中だけでなく、体内で貯蔵するためのたんぱく質・フェリチンとして、主に肝臓に存在しています。つまり、財布の中のお金でやりくりできていても、銀行に貯蓄は少なく、いつ破産してもおかしくない状態。これが『隠れ貧血』です。
特に夏は汗をかくことで体内の水分や塩分とともに、鉄分も失われます。また、冷たい飲み物を飲む回数が増えると胃酸が薄まり、消化酵素の働きが低下。鉄分の吸収効率が下がって体内の鉄貯蓄量が不足しやすいのです。鉄は夏の体調を支えてくれる重要な存在。貧血の有無よりも、鉄欠乏の有無こそ重要なのです」
鉄分が不足すると夏バテに陥りやすい
「鉄分は生命維持に不可欠なミネラルです。 鉄を含むヘモグロビンには、肺で酸素を受け取り、全身の細胞へ届ける役割があるため、不足すると全身が酸欠状態に。また、鉄は細胞内のエネルギー産生装置であるミトコンドリアの材料となり、免疫細胞の働きや体温調整にもかかわっています。また脳内物質(ドーパミン・セロトニン)合成にも関与し心の安定にも影響します。
つまり、鉄が不足するとあらゆる細胞のミトコンドリアのエネルギーが切れ、暑さや室内外の温度差に心身ともについていけず、風邪もひきやすいという症状になるのです」
鉄不足で現れる症状は、これだけではない。
「食欲も低下し、エネルギー源である糖や脂質をはじめ、鉄分やビタミンB群の摂取不足となり、さらにミトコンドリアのエネルギーが不足するという悪循環に陥る。その上、脳内物質ドーパミンの減少は“むずむず脚症候群”の原因となり夜間不眠にもつながります」
季節を問わず無性に氷をガリガリ食べたくなったら要注意。
「『氷食症』は鉄欠乏を示す重要なサインではありますが、原因は明らかにされていません。ただ想像では、製氷技術のない時代、鉄欠乏の女性は石や砂をかじって鉄分を摂っていたのではないか。現にケニアでは、鉄不足の妊婦さんは石を食べています。鉄が不足すると身近な硬いものを欲する仕組みがおそらく人体にあり、現代の都会人にしてみれば、石以外に手ごろで、かつ口にしても体裁の悪くない硬いもの(=氷)を食べがちだと考えられます」
鉄不足かどうかを知るためには、「主な症状のサイン」を確認。トータルで5つ以上にチェックがついたら「隠れ貧血」の可能性がある。
「ヘモグロビン値が正常でも、血液検査で体の鉄貯蓄=フェリチン値を調べれば、隠れ貧血を見破ることができます」
医療機関でフェリチン値を検査し、体内の鉄貯蓄量を調べよう。
鉄が不足すると現れる「主な症状のサイン」
【1】女性特有のサイン
●経血の量が多い
●PMS(月経前症候群)、不妊
【2】体のサイン
●めまい、立ちくらみ
●疲れやすい、だるい
●動悸、息切れ(坂道や階段)
●低血圧・顔色が悪い
●頭痛、頭重感、耳鳴り
●肩こり、腰痛、関節痛、冷え症
●風邪をひきやすい
【3】皮膚・爪・髪のサイン
●爪が割れやすい・抜け毛
●肌荒れ、シミ・しわ
●口角炎、口内炎、舌がヒリヒリ
●歯茎からの出血、知覚過敏
●むくみ、あざ
【4】神経・精神のサイン
●集中力が続かない、思考力の低下
●日中の強い眠気
●落ち込む、うつ気味、不安(パニック)症状
●イライラ、衝動的、神経過敏、情緒不安定
【5】食行動のサイン
●氷を無性に食べたくなる(氷食症)
●食欲不振(下痢や便秘)
●のどが詰まる感じがする
【6】睡眠のサイン
●脚がむずむずして眠れない
●寝つきや寝起きが悪い、不眠
鉄不足が進行するとどうなる?段階別で見る「隠れ貧血」の症状
<貧血の前段階>鉄不足(初期)
●食事からの鉄分の吸収が不足
●疲れやすい、冷え、集中力低下
<ヘモグロビンが正常値でも“深刻な鉄欠乏症”>隠れ貧血(フェリチン低下)
●体の鉄ストックが枯渇
●めまい、頭痛、気分の落ち込み
●むずむず脚症候群、氷食症
<日常生活に支障が出る>鉄欠乏性貧血(診断レベル)
●ヘモグロビン値が低下し酸素が運べない
●動悸、息切れ、立ちくらみ
●階段が上れない
<放置は危険。命にかかわる状態に>重症化(最終段階)
●全身が慢性的な酸欠状態
●失神・転倒のリスク
●心臓に負担がかかり、心不全の誘因に
●妊娠・出産にも影響
