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兄がボケました~認知症と介護と老後と「第10回 あの有名人の名前を思い出そう」

 若年性認知症の兄を在宅で8年にもわたってサポート・介護をしてきたライターのツガエマナミコさん。現在、兄は特別養護老人ホームに入所していますが、週一回の面会はかかしていません。認知症介護を経験したマナミコさんだからこそ感じる不安など、最近の心境を綴ります。

 * * *

俳優やタレントの名前が出てこない不安

 今週、いつものように夕方面会に行くと「お通じがなくて、今朝浣腸したんですよ」とスタッフさまに言われました。いつからお通じがなかったのかなど、詳しいことはわかりませんが、そういうご報告は初めてなので、なんとなく不安がよぎりました。高齢になれば自力での排泄はだんだん難しくなるものなのかもしれませんが、兄はまだ66歳。立って歩けない分、内臓機能が弱ってきているのかもしれないと思い、急に寂しい気持ちになりました。

 9年前、兄が若年性認知症と診断されたころ、インターネットで「若年性認知症の寿命」を調べたことがございました。すると10~15年と書いてあり、若年性認知症の人は寿命が短いとのことでした。それでも当時は自分が最後まで面倒をみなければならないと思っておりましたので「長いな~」と前途を悲観しておりました。それなのに施設に入所した今、兄にはもう少し長生きしてほしいと思うようになりました。手がかかったり、お金がかかったりするうちは兄を大事に思えなかったのに、まったく身勝手なことでございます。

 仮にインターネットの情報通りだとすれば、兄の寿命はあと1~6年。さすがにあと1年ということはないでしょうが、若年性アルツハイマー型認知症とわかってからの兄の変化を考えると症状は加速度的に悪化しているように思われて、短命があながち間違いではないような気がしてしまいます。そう思うとなおさら寂しくなるのです。

 もう、わたくしのこともわかならなくなっている兄ですが、わたくしにとっては唯一無二の兄。この世界に兄が「いる」のと「いない」のでは、わたくしの生きる張り合いが違ってまいります。近頃のわたくしは、兄の膝や手をさすりながら「今日も元気でいてくれてありがとうね」と言わずにはいられません。表情の変化が少なくなっていることを毎週感じつつ、爪を切ったり、肩をもんだりして帰ってまいります。すべてはわたくしの自己満足に過ぎませんが……。

 残り少ない。それはわたくしの寿命も同じことなんだなぁと思うこの頃でございます。

 新聞やネットニュースで「認知症」の文字を見ると、我がこととしてやはり気になってしまいます。俳優さまやタレントさまのお名前が出てこないことが最近不安でなりません。

 先日も、ある女優さまのお名前が出てこなくて焦りました。「ほら、あの、格闘家の妻で、大柄で、女優さんで、あの通信会社のCMに出ていて、前に大河ドラマにも出て、作家と番組でMCをやっている…」と周辺情報はたくさん集まるのに肝心のお名前が出てきません。さらにビックリしたのは、下のお名前を思い出せたのに苗字が何時間も思い出せなかったことでございます。以前ならお名前の一部が思い出せたら、それをきっかけに嫌でもフルネームが出てきたのに、このときはどこにもつながらない記憶の糸が闇をさまよう感覚を味わいました。

 認知症になると住み慣れた町を歩いていても、急にどこだかわからなくなることがあると聞いたことがあります。程度は全然違いますが、しっかり覚えているはずのフルネームを、ヒントが出ているにも関わらず思い出せなかったことは、それに通じるものがあると感じました。

 さて、わたくしが思い出したかった女優さまのお名前、読者の皆さまはわかったでしょうか?

 最後に最近知った雑学を一つ。

 地球が太陽の周りを1年かけて回っていることは、皆さん良く知っていることだと思いますが、その速度をご存じでしょうか?

 地球が太陽の周りを1周する距離は約9億4000万キロメートルだそうでございます。それを365日で割って1日の移動距離を出すと、約257万キロメートル。それを24時間で割って1時間の移動距離を出すと、約10万キロメートル。つまり、地球は時速10万キロメートルの速さで動いていることになります。

 一般的な飛行機で、時速800~900キロメートルだそうですから、地球はとんでもない速さで宇宙空間を飛んでいることになります。秒速を計算すると約30キロメートル毎秒。

 わたくしたちは1秒で30キロも移動する乗り物に乗っているわけでございます。にわかには信じられませんが本当のこと。61歳にして、また一つ賢くなったツガエでございます。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性61才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現66才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。

イラスト/なとみみわ

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