電子技術で介護を救え! 徘徊検知システム開発物語
2014年10月時点ですでに要介護認定者数は600万人を超えている(厚生労働省調べ)。介護施設の不足などが問題になる中、いわゆる介護難民者数は年々増加の一途をたどっている。これを打開すべく「介護のハイテク化」を目指し、研究を続けている人たちがいる。その最新研究と生み出された商品をご紹介しよう。
認知症の患者の徘徊を検知するシステムがほしい
「実は不足しているのは施設だけではないんです。介護ベッド数も介護を行う職員の数も、まったく足りていないのが現状。介護従事者不足の解消や介護職員の一助となればと、ハイテクを活用した機器開発を続けています」
そう話すのは、山口大学大学院創成科学研究科の田中幹也教授。
山口大学は、2004年には、大学ベンチャー企業である株式会社医療福祉工学研究所を設立し、地域を超えて医療のニーズに応える様々な事業を行っている。医療機器開発はそのひとつである。
医学部で医療ニーズを調査し、それを工学部で開発につなげるという医工連携によって医療製品を生み出しているのだ。
「医学部の提案の中から、実用化できそうな医療機器を開発するのが、私たちの役目でした。特に私は制御工学が専門なので、前線で役立つ医療ロボットを開発するのが、設立当初の目的だったのです」(田中教授、以下「」内同)
医学部からの最優先の要望は、「認知症患者の離床(ベッドを離れること)を検知して通報するシステムがほしい」というものだった。
医療・介護の現場で一番対応に困っているのが、徘徊行動だという。
「介護サービスに従事する看護師や介護士は慢性的な人手不足で、認知症患者が知らないうちにベッドから抜け出して外出しても気づけなかったり、追跡できなかったりという声が多く、その悩みは切実だと聞きました」
実際、2014年の認知症を持つ高齢者の行方不明者数は1万783人。そのうち同年の年末までに消息が判明しなかった人は、168人にのぼる(警視庁発表より)。
「実は、離床を知らせる機械は、以前にも存在していました。マット型の離床センサーで、多くの病院や施設で使われています。しかしマット型は、誤作動・誤検知の多発が、看護師さんや介護士さんを悩ませていたのです」
マット型の離床センサーとは、ベッドわきの足を降ろす場所にマットを敷いておき、患者がそれを踏んだ時、その圧力を感知して通報するものだ。しかし、患者がマットを踏まない限り作動しないため、マットを避けてベッドを降りたり、マットの隅っこを踏んだりした場合は、役に立たない。さらに、マットに内蔵されている感知センサーが何度も踏まれることによって、壊れたり断線したりする事例も多く、マットの段差によって転倒する患者も少なくないという。
超音波センサーで離床を感知するシステムが完成
「そこで、思いついたのは、超音波を用いて離床を検知するシステムでした。人の動きを超音波の反射を利用して検知する方法です。
この検知法は潜水艦のソナーなどで十分に実績がありました。超音波を利用すればマットに比べて感知範囲を広く取れますし、マット式のように、患者と部品が直接接触することもないため、誤作動や破損の可能性は低くなると考えたのです。
さらに、この超音波離床検知システムにはさまざまなメリットがあります。超音波を発する機器を設置する位置を工夫することで、例えば、ベッドの下なら『離床』、頭の上なら『起床』、部屋のドア付近ならば『外出』という具合に、利用者のニーズに応じた情報を即座に通知ができるのです」
早速、実用化に向けて、開発を始めた。医療用ロボットではないが、今まで培われた技術を生かし、確実に医療の現場で役に立つ製品になる自信があった。
「通信インフラは、すべての建物に設置されている既設の電灯線が利用できるようにすることで、大がかりな工事も必要なく使用できるシステムにしました」