電子技術で介護を救え! 徘徊検知システム開発物語
こうして、試作品は完成し、その情報を医療福祉工学研究所のホームページなどで開示、製品を実用化できる会社を探した。
「早速、マットセンサーやナースコールなどを製造している中小企業から問い合わせがありました。既存製品の問題点やその解決策の相談を受け、超音波センサーを利用した製品づくりのアドバイスを行いましたが、販売には至りませんでした。
その後、もう一社からアプローチがあり、共同研究のプロジェクトに関わりましたが、製品化直前で頓挫してしまったのです」
結局、このシステムはなかなか実用化されないまま5年以上が経過していった。
2011年、ついにこの超音波離床検知システムに着目する会社が現れた。タケモトデンキ株式会社(本社・大阪)の介護機器事業部だった。
同社は、電気計測機器等のシステム開発や製造、販売を行っている。
当時を振り返り、同社東京支社のメディカルケア機器事業部東日本営業課の佐藤巧験課長代理はこう話す。
「電灯線通信の技術を生かし、介護分野に乗り出そうとしていた頃です。当時の担当者が田中教授の論文などを拝見して、電灯線を利用できるこの技術を活かそう!と製品化の検討を始めました。
しかし、社会に役立つ機器を作ろうと考えたものの、弊社にとって介護は未知の分野であり、はたして需要があるのかわかりませんでした。
そこで300人以上の医師、看護師、介護士に聞き取り調査を行ってニーズを調査したのです。すると、介護の現場では、このシステムをぜひ使ってみたいという声が多かったのです」(佐藤さん)
製品化にあたっては、田中教授が試作したものをほぼ踏襲した。しかし、実際に商品として販売するためには、細かな工夫を施したという。
まず、本体のカラーだ。
「白は清潔ですが実はすごく目立ちやすいんです。ベッドの下に置いておくと『何か変なものがある』と、患者さんが警戒してしまいます。社内でどの色が悪目立ちせず、清潔感があるか何度も検討が行われました」(佐藤さん)
既設の電灯線をを利用する方法は、同社の技術が生かされた。設置においては、コンセントがあれば、どこの家庭や介護施設でも工事の必要はない。
また、対象者別に通知のメロディー音を12種類設定できるようにし、親機1台で、最大20箇所のセンサー情報を管理できるようにするなど、介護施設で多くの患者をみている現場の悩みに対応した。
こうして、2013年4月、ついに、田中教授らが開発した、超音波離床検知システムは『Care愛』という製品として世に出ることとなった。
「早速、地元の宇部市にある介護施設『むべの里』で2週間試してもらましたが、『誤検知が少なく、職員のストレスが減った』と、非常に好評でした。大阪の特養老人ホームでも『センサーに触れないので壊される心配がなく、つまずく危険もなくなった』と報告がありました。
現在では、全国の病院・施設に約3000台設置されていて、使用した、ほぼすべての施設から同様の評価をいただいています」(佐藤さん)
離床情報の通知を、より確実にするために、コンセント間通信と無線の両方の機能を兼ね備えたハイブリッドタイプも登場し、介護現場から届く、さらなる要望に応える進化を続ける予定だという。
『Care愛』は、一般家庭でも入手が可能だ。介護保険が適用できる、格安のレンタル制度を利用することもできる。まずはケアマネージャーに相談するといいだろう。
医工連携から生まれた、田中教授のアイデアは超音波離床検知システムとして製品化され、一つの成果を挙げた。だが、田中教授の挑戦はまだ終わらない。
【商品データ】
商品名:Care愛
価格:8万9640円~(標準プランの場合)
発売元:タケモトデンキ http://www.takemotodenki-kaigo.jp
取材・文/中江文一