倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.55「めまい、娘のこと」
倉田真由美さんは、他界した夫・叶井俊太郎さん(享年56)のことを、「最高のとうちゃんだった」と語る。このたび、体調を崩した倉田さんを心配する娘の様子を見て改めて思ったことを明かしてくれた。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
めまい
先日の朝、布団から出ようと体を傾けると世界がグラグラに。
「あ、あれだ」
人生で通算4回目のめまい。良性発作性頭位めまい症という、頭を動かすたびに世界がグワーッと揺れまくりとてつもなく気持ち悪くなる病気です。
耳の中にある耳石と呼ばれる小さな結晶が半規管に入り込んでしまうのが原因で、耳石さえ出てしまえば治るのですが、それまでは迂闊に動くとしばらくの間、視界の回転に耐えなくてはなりません。
その夜、なんとか早く治そうとリビングで体操をしていました。耳石を動かす体操で、同じめまいで苦しんでいた友人が「しんどいけど、これですぐ治ったよ」と教えてくれたので敢えてつらくなる体勢になり、数十秒。
しかし想像以上に激しいグルグル、めまいがきて、吐き気を我慢できずトイレで嘔吐してしまいました。
「もう、無理…」
体操を続ける気力を失いリビングに戻ってぼんやりしていると、娘が心配そうに近づいてきました。
「大丈夫…?」
よほど私の顔色が悪かったのか、娘は私に寄り添うように座りました。
「うん、大丈夫だよ。ちょっと具合が悪いだけ、心配しなくていいからね」
私が抱きしめると娘は「うん…」と小さな声で答え、そっと抱きついてきました。伏せた顔を覗きこむと涙ぐんでいます。
娘のために…
夫の死後も気丈に振る舞っていた娘ですが、やはり親が弱ることに敏感になっているようです。
あんなに存在感のあった父親、毎日熱心に世話をして一緒に遊んでいた父親がいなくなりもう会えないのですから、彼女の喪失感は私とはまた違う大きなもののはずです。
夫はできないこともたくさんある人でした。私にとって許容範囲だっただけで、人によっては到底受け入れ難いようなこともありました。誰だって完璧ではないからそんなところはあって当たり前だけど、夫の場合はかなり極端だったと思います。だから私には最高の夫だったけど、端から見たら必ずしもいい夫じゃないとは分かっています。
でも父親としては最高の人でした。誰から見ても断言できるくらいに、文句のつけようがないほど素晴らしい父ちゃんだったんです。夫と娘の姿を真横で眺めながら、こんないい父ちゃんに育てられる娘を羨ましく感じるくらいでした。
これ以上この子に喪失感を味わせたくないな。
娘のためにももうしばらくは健康でいたい、娘の肩を抱きしめながらそう思いました。
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倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。