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兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第267回 暴れることが兄のストレス解消】

 ライターのツガエマナミコさんが、57才で若年性認知症を発症した兄との2人暮らしを続けて8年以上の年月が過ぎました。どんどん症状が進行した兄のケアやサポートは、それはそれは大変なこと。施設に兄を任せていいか迷いに迷い、決意して申し込みをしても断れ…。紆余曲折がありました。そして、いま、兄が施設入所をするときが目前に迫ってきました。この入所を待ちかねていたマナミコさんでしたが、いざとなるとさまざまな思いが去来するようです。

 * * * 

「弱い犬ほどよく吠える…」と思ってみたり

 少しばかり朝晩の暑さが和らいできた今日このごろでございます。

 入所前の、最後のショートステイが終わり、兄が我が家に居られるのも残すところあと10日ほどになりました。

 ショートステイのご報告書を読むと、「強い抵抗あり」「手を上げる」「暴言あり」「怒鳴る」「蹴る」「職員の側頭部を思いっきり平手打ち」「入浴時は4人介助」などの文言が並び、かなり手こずらせた様子が伺えます。

 送り届けてくださったスタッフの方に「ちょっと先生に相談して新たなお薬を出していただいたほうがいいんじゃないでしょうか」と言われてしまいました。確かに兄の暴言や攻撃性はここのところ日を追うごとに増している気がいたします。

 とはいえ、抵抗はオムツ交換や入浴、ベッドと車イスの移乗の際に限ったことで、その他のときは穏やかでおとなしいのでございます。

 家では食事もベッド上なので穏やかな時間が長いのですが、施設では、車イスへの移乗も多くなり、その度に抵抗に遭うという悲劇が起こってしまいます。スタッフの方々のご苦労を思うと申し訳なく、心が痛くなります。

 兄はもう筋力もありませんし、本気で人を殴った経験も多分人生の中でほとんどなかったと思うので、素手で殴られても大きな怪我をするようなことはございません。瞬発力もないので、避けたり、手で止めたりできる程度の暴れっぷりでございます。顔は般若のようになりますが、わたくしは恐怖を感じたことはございません。ただただため息が出るばかりでございます。

 思えば、兄にはもうベッドの上で暴れることぐらいしかストレスを発散する術がないのでございましょう。散歩したり、遊んだり、言いたいこともなんだかわからなくて伝えられないですからストレスがたまって当たり前でございます。すべては「仕方がない」のでございます。

 わたくしは兄の抵抗に遭うと「弱い犬ほどよく吠える」と小さくつぶやいております。

「病気のせいで仕方がない」とわかっていながら、家族であるわたくしも腹が立つのですから、お世話をしてくださる方の「やるせなさ」は如何ばかりかと考えずにはいられません。

 あと10日の我慢だと思う反面、この兄を他人さまに押し付ける罪悪感とも向き合っております。でももうあとは施設にお任せするしかございません。身体拘束や抵抗を和らげるお薬の処方も覚悟した上での施設入所でございます。これも兄の運命。すべては病気の結果でございます。

 翻ってわたくしは、これからは名実ともに一人暮らし。俗に言う「おひとりさま」になるわけでございます。今度は自分の終末期を考える番。

 世間では身元保証人がいない独居老人が急増しているそうで、わたくしもその仲間入りでございます。それに伴い、子がいて孫がいる家族が大半を占めていた時代には取りあげられなかった問題が噴出しております。入院や入所、死後の手続きなどを託す民間サービスが誕生し、消費生活センターには「信用できる事業者を紹介してほしい」という相談が相次いでいるとか。

 わたくしが兄のようにボケてしまったら、事業者のいいようにされても誰もわからない。契約時に高額のお金を払っても何もやってもらえないかもしれないのでございます。成年後見人制度なら安心なのでございましょうか? 人生100年時代を掲げる国はどう考えているのでしょうか。多くの方にご迷惑をかけずにスマートに昇天するには、まだまだ学習しなければならないようでございます。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性61才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現65才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。

  イラスト/なとみみわ

●成年後見制度の手続き|認知症になってからでは手遅れ!ボケる前にやるべきこと【役立ち記事再配信】

●「法律上では、身元保証人等がいないことを理由に入院や入所を拒否できないのです」弁護士が注意喚起!おひとりさま高齢者の不安をあおる終身サポート事業者には要注意を!

●「老人ホームは保証人がいないと入所できない?」おひとりさまが抱える悩みとその対処法

 

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この記事へのみんなのコメント

  • ふじこ

    お兄様の入所も迫り、これまで拝読してきたツガエさんの大変なご苦労を思い出しております。人間色々な感情をコントロールしながら生きているわけで、それが効かなくなってしまうと抵抗、暴言、暴力につながっていくのでしょうね…それが自分ならまだしも他所様に向けられるのが、病気だからと分かっていても、とても辛くて許せなかったです。高齢で歩くのもやっとだった父でも「これ以上きたら折れるな…」というくらいの力で腕をつかんできていました。看護師さんから「折れるかと思いました…一緒に住んでいるんですか?」と言われたこともありました。 それはいつもではなく、無理に…急に…分からないままに身体を拘束されることへの抵抗だと思います。介護する側もされる側も必死ですものね。父中心の生活の中で色々な事がありました。起きれないからデイに送り、ケアマネさん訪看訪リハさんと連絡をとり、体調管理して…でもいなくなる=介護の終わりでした。1ヶ月が経ちましたが、何となく燃え尽き症候群のような今日この頃です。まだまだしなきゃいけないことはたくさんあるのに!今日もお健やかに…

  • みい

    お兄様のケアは、長年大変だったこと思います。お任せする心配もあると思いますが、これからは、施設の面会で、おふたりが心穏やかな時間を過ごされるといいなと思っています。人生100年時代ですが、そこまで長く生きたい希望も安心も見えにくい時代ですよね。100年って言われても、なんだかね…って思う人は多いと思います。私は独身で、親と独身の叔父を看取りましたが、自分自身の介護や老後はどうなるか見えないです。当面は、コーヒーを淹れる、明るい色の服を着てみる、一杯程度のお酒を頂くぐらいの、今叶えられる幸せだけを頼りに生きてます。つがえ様とお兄様のお幸せを祈ってます。

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