兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第263回 学校では教えてくれないこと】
ライターのツガエマナミコさんが一緒に暮らす認知症の兄は、特別養護老人ホームの入所が決まりました。入所の日は未定ですが、健康診断の準備など、まだまだしなければいけないことがいろいろとあります。とはいえ、所かまわず排泄してしまう兄のお世話に追われていた日々を思うと、少し落ち着いた暮らしになったマナミコさん。今回は、最近の心境を綴ります。
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AIやYouTubeに触れ思うこと
先日、都内のカフェに予約の電話をしたら「ご用件をお伺いいたします、AIのハルカです」と言われてドギマギしたツガエでございます。
単なる録音音声の対応ではなく、人の声にかなり近く、AIを真似た人間にからかわれているのではないかと思ったほど。でも、人ならば察してくれる少々あいまいな答えをすると「すみません。もう一度お願いします」と理解されませんでした。AIがわかるように簡潔に伝えなければ、と頭を使った結果、途中で面倒になって半ば強引に電話を切ってしまいました。慣れないAIとの会話で改めてやっぱり「人」がいいなと感じた次第でございます。時代に置いて行かれるとはこういうことかと溜息が出ました。ツガエはもうそんなお年頃。長く生きるにつれ、この類の経験をたくさんすることになるのでしょう。
さて、特別養護老人ホーム入居に必要不可欠な兄の「健康診断」ですが、おかげ様で訪問看護師さま系列の病院でやっていただけることになりました。あとは日程を決めて予約を取るだけ。もう入居はすぐそこでございます!
兄の特養入居を心から願っていたにも関わらず、いざ現実にカウントダウンが始まるとなぜか気持ちがザワザワしてまいります。兄がこの家からいなくなる…それはやはり寂しいのであり、嘘っぽいのでございます。この家で過ごす兄との時間が残り少ないと思うと、不安になると申しましょうか。罪悪感もございます。兄はどう思うだろうか、とか、家にいたほうが幸せなんだろうかと、今更考えても仕方のないことをグルグル考えてしまいます。
そんな折「介護職員不足 57万人」(※1という見出しが目に飛び込んでまいりました。2040年度の推計とのことですが、2040年は65歳以上の高齢者数がピークになるらしく、本来必要と思われる介護職員より57万人不足すると見込まれているようでございます。
※1:厚生労働省発表 参照URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02977.html
2040年には、ツガエは77歳。生きていればちょうど介護されそうな節目の喜寿。介護のお世話にならぬよう、できる限り自活し、最後はポックリと逝きたいものでございます。
話は少し飛びますが、厚生労働省の「介護サービス情報公開システム」(※2)を見ると、いろいろなことが書いてあります。その中の一つに、入所者の平均入所日数というのがありました。わたくしの見た3軒の特養では、1000日以下、約1200日、約1400日でございました。3年~4年といったところ。平均なのでもっと長い人も短い人もいらっしゃるのでしょうが、兄は特養という場所では群を抜いて若いので、倍は居座りそうな気がいたします。
※2:「介護サービス情報公開システム」https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/
つくづく兄と「世帯分離」をして正解でございました。課税世帯のままでは、お安いと評判の特養でさえ支払い続けることはできないでしょう。
学校では教えてくれないことが世の中にはたくさんあって、国民が得しそうなことは、まるで知らせたくないかのように地味に隠れております。わたくしが世帯分離という言葉を知ったのは偶然オススメ動画にあがってきたYouTubeでございました。「この先、両親がいなくなったら私は一生病気の姉の面倒をみるために働かなければならないのでしょうか」という女子高校生のお悩み相談でした。サイトの主は「世帯分離すればあなたがお金を支払う必要はなく、お姉さんは生活保護になるので国が対応することになります」という超クールな答えでしたが、わたくしの胸にガツンと突き刺さり、そこから世帯分離のことを調べ始めたのでございます。
あのYouTubeに出会えなかったら未だ「世帯分離」を知らなかったかもしれません。世の中、何が幸いするかわからないものでございます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性61才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現65才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ
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