介護施設訪問レポート|職員満足度を高めて入居者に質の高いサービスを提供し続ける住宅型有料老人ホーム<後編>
高齢者向けの住宅の中から、話題の施設をピックアップ。記者が訪問し、施設で働く人の思い、設備、サービスなどをレポートする。今回は、神奈川県横浜市にある住宅型有料老人ホーム(※)「輝の杜」だ。
※住宅型有料老人ホームとは?
・生活支援等のサービスが付いた高齢者向けの居住施設。
・介護が必要となった場合、入居者自身の選択により、地域の訪問介護等の介護サービスを利用しながら、ホームでの生活を継続することが可能。
(厚生労働省「有料老人ホームの概要」より抜粋)
輝の杜
テレビドラマで使われたこともある街並みが特徴的な「マークスプリングス」。ここの「生涯住み続けられる街」というコンセプトを支えているのが、社会福祉法人合掌苑が運営する「輝の杜」だ。
種類豊富な全体向けとリクエストに応える個別のアクティビティ
輝の杜のアクティビティには「グッドタイムクラブ」と「for you」の2種類がある。グッドタイムクラブでは、風鈴作りや夕涼み会といった季節に合わせたイベントや、スタッフによるフラワーアレンジメントなどの各種サークル、外部講師によるクラブ活動を行っている。フォーユーは介護度が高い入居者向けで、個別にリクエストを受けているという。
「for youでは外出をされたいという希望が多く、外食や1泊旅行に出かけることもあります。介護度5のお客様のご家族様からの要望でホテルに1泊したこともあります。日中はご家族様とお過ごしになり、必要に応じて夜間含め介護対応をさせていただきました」(社会福祉法人合掌苑のお客様相談室マネージャーの神尾昌志さん)
この日に行われていたアクティビティは生け花。講師役の職員は生け花の経験があるという。花器を選ぶところから始まり、一人ひとりの様子に目を配りながら明るく盛り上げる。入居者同士の会話も弾み、笑顔がこぼれる。
職員満足度を高めて入居者の満足度をアップ
生け花の時間に多くの職員が明るく、積極的に入居者に声がけをしている様子が印象的だったが、それには秘密があるようだ。
合掌苑が成果を出しているのが職員満足度(Employee Satisfaction=ES)の向上。ビジネスの世界では職員満足度を高めると利用者満足度(Customer Satisfaction=CS)も上がることが半ば常識になりつつあるが、介護業界で取り組んでいるところはまだまだ少ないという。人手不足が深刻な介護業界では、職員を採用することで精一杯。入居する高齢者に質の高いサービスを提供するために職員満足度を高めることが必要だと頭では分かってはいても、なかなか手が回らないのが現状のようだ。
平成29年度「介護労働実態調査」によると、訪問介護員と介護職員の2職種合計、1年間(平成28年10月1日から平成29年9月30日まで)の離職率は16.2%。前年の16.7%よりも減っているが、依然として高い水準にある。しかし、合掌苑では離職率を低くすることに成功しているという。
「合掌苑全体のコンセプトはスタッフ力です。スタッフ教育に力を入れています。ハード面や様々なサービスも大切ですが、お客様にとって1番重要なのはそこで働いている職員の質だと考えています。スタッフが輝ければお客様へのサービスも上がってくるという考えのもと、スタッフが輝ける場所作りに力を入れています。働く環境、制度、待遇を向上させて、職員の離職率を下げる取り組みもしています。長く働く職員がたくさんいれば、ムードもよくなりますし、サービスのクオリティも上がり、結果的にお客様の満足度も上がっていきます」(神尾さん)
輝の杜には2003年のオープン時から働いている職員や10年以上働いている職員も多くいる。10年ほど前から働きやすさの体制作りを始めたが、当初は退職率が20%ほどあったという。1週間以上の連続休暇を年2回取れるようにしたり、夜勤専従職員を入れることで夜勤のない環境を作った。
「小さなお子さんを抱えているお母さんも働きやすいように、子育て支援にも力を入れています。6時間の短時間勤務の制度、無料で使える託児室も作りました。金森事業部保育園にシッターさんが迎えに行って、託児室で食事をして、お風呂に入って、お母さんの仕事が終わるのを待ちます。高校3年生まで1人あたり月々1万5000円の手当も支給しています。シングルマザーの方には1人につき3万円。子どもの看護休暇が法定では5日間・小学校入学までですが、それを10日・小学校卒業までにしています」(神尾さん)
ここまで手厚い待遇の職場は、介護業界以外でもなかなかないのではないだろうか。もちろんただ闇雲に職員の待遇を上げているのではなく、アメーバ経営(※)