「老後豊かな国」ランキング1位<アイスランド>に学ぶ高齢者の幸せな暮らし方・介護のヒント
「老後の豊かさ」調査※で1位に君臨するアイスランド。国連が毎年発表している世界の幸福度ランキングでも、フィンランド、デンマークに次いで、アイスランドが3位と、北欧の国々がランクインしている。アイスランドには、老後を豊かに幸せに暮らすヒントがあるのかも? アイスランド大使館の担当者にその秘密を直撃した。
※ナティクシス・インベストメント・マネージャーズ「2021年グローバル・リタイアメント・インデックス調査」、国連「World Happiness Report 2024年版」
教えてくれた人
駐日アイスランド共和国大使館 副代表 ラグナル・ソルバルダルソンさん
2016年アイスランド外交部入省。入省前は貿易・投資促進に携わる。外務省で北極問題や公共外交を担当したほか、ニューヨーク国際連合アイスランド政府代表部、パリのユネスコ代表部次席代表を務める。ロンドン大学SOASで修士号、コペンハーゲン・ビジネススクールで理学士号取得。2023年7月より駐日アイスランド大使館の副代表として就任。過去に日本への留学の経験をもつ。
アイスランドってどんな国?
アイスランドは北欧に位置する島国。北海道と四国を合わせたぐらいの広さで、火山や氷河など多くの自然を有している。
人口は39万人ほどで、首都レイキャビクに約14万人が暮らす。世界で初めて女性大統領を選出した国としても有名で、「男女平等ランキング」でも15年連続1位に輝いている。
ちなみに日本は、幸福度ランキングでは51位、男女平等ランキングでは118位と、いずれもG7諸国の中で最下位となっている。そこで、老後を豊かに幸せに過ごすヒントをアイスランドに学ぶべく、大使館を訪ねた。
※2024年版「ジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)」(世界経済フォーラム)。
アイスランドはなぜ「老後幸せな国」なのか考察
東京・港区にあるアイスランド大使館で出迎えてくれたのは、大使館・副代表のラグナル・ソルバルダンソンさんだ。
――なぜアイスランドでは、老後の幸せを実感している人たちが多いのか。
ラグナルさんは、「あくまで個人的な見解で、科学的根拠があるわけではないのですが、母国の家族の暮らしを紹介しながら、お答えしていきますね」と笑顔で語ってくれた。
「まず1番の理由としては、ほかの北欧諸国と同じように高福祉国家であるという点ではないでしょうか。
もちろん税金は高いのですが、その分、福祉や介護における自己負担は少なく、高いレベルの医療・介護が受けられているからだと考えます。
アイスランドの手厚い年金制度を解説
2つ目の理由には、老後に備えるための経済的な指針を政府が打ち出している点も挙げられると思います。
たとえば、アイスランドの公的年金は、他の北欧諸国と同様の社会保険方式です。年金制度は大きく分けて3つで、所得に基づく年金制度が採用されています。
まず【1】所得税は、まず所得によって税率が変わります。たとえば、月給の額面が約44.6万アイスランドクローナ※の場合は31.48%、約44.6万~125万アイスランドクローナだと37.98%、それ以上の収入の場合、所得税は46.28%となります。
この所得税から公的年金への拠出が就業者には義務付けられています。所得税は、そのほか医療保険やほかの公的サービスに充てられています。
公的年金は何らかの理由で所得を得られなかった人、もしくは年金基金の積み立てが少なく、老後の生活が困難な人にも支払われます。
所得税から充てられる公的年金のほか、会社員の場合は、各個人が所得から【2】年金基金の積み立て拠出する義務があり、定年後はそれを受け取れます。年金基金が公的年金受給額より多かった場合は公的年金を受け取れません。
さらに、個人が希望すれば雇用主と従業員が支払う【3】補足的年金貯蓄もあり、これらの積み立ては、非課税で受け取りの際に課税されます。補足的年金貯蓄は、双方が数パーセント支払い、積み立てしていきます。
個人によって多少違いはありますが、【1】所得税、【2】個人の積み立ての年金基金、【3】補足的年金貯蓄もいれると、給与の45~50%は税や年金積立で支払うことになります。
私の場合は、所得税に加えて年金基金には15%、補足的年金貯蓄は雇用者(この場合は省庁)が2%を負担していただき、私個人の所得から2%支払います」
※アイスランドクローナ=日本円約1.1円(2024/7/25現在)。
定年後の資金計画がしっかりできている
アイスランドでは、公的年金の受給は67才から始まり、企業年金は65才から支給されるという。
「老後の資金計画を長期的に立てられるよう政府や各企業が熱心に指導をしています。公的年金の受給が開始されるまでの間もそれ以降も、老後の資金計画をしっかりできている人が多い印象ですね。
定年以降も働く人も多く、その間、公的年金は受給できない仕組みです。公的年金が受け取れるのは何らかの理由で収入がなかった、もしくは収入はあったが一定以上の収入はなく、私的年金のみでは老後の生活ができない人が公的年金を受け取れます。
また、私的年金が公的年金より上回る場合、公的年金は受け取れないという制度も。
さらに、現役時代に何らかの理由で働けなかった人たちのためには、公的な保証年金という制度も用意されています」
消費税は24%で、さらに物価高ともいわれるアイスランドだが、国際機関OECD(経済協力開発機構)の38か国の調査対象国のうち、平均年間賃金は1位となっており、年金など将来の備えをしっかりできている人が多いのかもしれない。
※2022年度OECD平均年間賃金。
https://www.oecd.org/en/data/indicators/average-annual-wages.html
豊かな自然、老後の憩いの場も多い
「3つめの理由として、自然豊かな環境がとても身近にあることも考えられると思います。
アイスランドには7つの地域があり、首都レイキャビックから10分ほど車を走らせると、平原・滝・氷河、火山など豊かな自然が広がっています。
もちろん寒いですし、白夜など薄暗い日々もあるのですが、各所に地熱を利用した温泉があり、老若男女、あらゆる世代でコミュニケーションをとれる場になっています。いろいろなアクティビティもあるので、みなさん楽しく過ごしていますよ」
アイスランドには地元の地熱を利用した温泉水プールが各地域にあり、湯船に浸かる・泳ぐなどのほか、サウナ・スチームサウナなども利用でき、国民の憩いの場となっている。
・福祉制度が手厚い
・長期的に老後への備えができている
・自然豊かな環境で老後の楽しみや憩いの場が多い
・家族の距離感が近く家族同士でサポートがしやすい
これらの要因が高齢者の豊かさと幸福度を高めている理由と推察されるとのこと。