「胃を元気にすればメンタルは整う」医師が実践してわかった最強の胃の作り方と最新研究レポート
「胃の腑に落ちる→納得する」「胃に穴があく→心が消耗する」というように、心を胃にたとえた慣用句は多い。実際、緊張やストレスで胃が痛くなったり、食欲がなくなったりするのはなぜだろう? 2万人の胃を診察する中で「心と胃」の関連性を解き明かした医師の一石英一郎さんに、医学的、遺伝子学的観点から「胃とメンタル」のつながりを解説してもらった。
教えてくれた人
一石英一郎さん/消化器内科医、医学博士、国際医療福祉大学病院内科学教授。予防医学の観点から日本人の遺伝子を解析する「遺伝子栄養学」を提唱。著書『「胃」を整えると自然と「不安」が消えていく』(アチーブメント出版)が好評。
繊細なメンタルは胃の弱さが原因?
スポーツ競技などで、「日本人はメンタルが弱い」という言葉をよく聞くが…。
「はい、多くの日本人が繊細な遺伝子を持っています」
と言うのは、医学博士の一石英一郎さんだ。
「“幸せホルモン”と呼ばれ、メンタルの調整を行うセロトニンは、『セロトニントランスポーター』という遺伝子によって再生されていきます。実は、このセロトニントランスポーター遺伝子が長いとメンタルは強くなり、短いと心配性で神経質になることが遺伝子レベルで解明されていて、約8割の日本人は短いタイプ。この遺伝子が短いとセロトニンがリサイクルできず、減少するのです。欧米で短いタイプは5割ほど、アフリカは3割以下で、日本はトップクラスに遺伝子が短い、繊細タイプ。そして、メンタルの繊細さは胃の弱さとも関連しています」(一石さん・以下同)
具体的にはどういうこと?
「慢性的な胃もたれ・胃痛の症状を総称した『機能性ディスペプシア』という病気の患者の脳を調べたところ、セロトニントランスポーター遺伝子が短く、かつ抑うつの傾向がみられました。機能性ディスペプシアの罹患者は、全国に1000万~2000万人と推定されます。胃弱とメンタルの不調に悩む日本人は、とても多いのです」
一石さん自身、子供の頃は胃もメンタルも虚弱だった。
「あるとき『まず胃を元気にすれば、おのずとメンタルも丈夫になるのではないか?』と思い立ち、食事や運動の習慣を変えていくと、やがてラグビーに打ち込むまでの健康体になり、メンタルも安定していきました。その経験から、胃をケアすることの重要さを実感しています」
かつて「胃がん」は日本人のがん死亡率1位だったが、いまは大腸がんが上回る。それもあり、つい胃より腸に注意が向いてしまうのかも…。
「しかし、日本の胃がん発症率は世界3位。依然として“胃がん大国”です。多くの日本人が繊細な胃を持っているからこそ、もっと“胃活”に取り組むべきだと思います」
胃が“第2の脳”といわれる理由
“腸は第2の脳”といわれるが、胃こそが“第2の脳だ”という解剖学者もいる。その理由はこうだ。
「胃の裏には『太陽神経叢(そう)』と呼ばれる、脳の次に大きな神経の塊があります。文字通り、神経の塊から放射状に、太陽光のように神経が広がっていることから、古代ギリシャの解剖学者が命名したもので、私も解剖実習で初めて見たときに命名センスの妙に感心したものです」(一石さん・以下同)
この太陽神経叢が、胃腸や腹腔(ふくくう)(下腹部の内側)の内臓の働きをコントロールしていると考えられており、これが“第2の脳”といわれるゆえんだ。
「胃と脳は、細くて複雑に絡み合った迷走神経でつながっています。どちらかが不調になると連動するのは、医学的にも当然のことでしょう」