【調査結果】仕事と介護を両立する「ビジネスケアラー」6人に1人が離職を検討、上司に相談は1割
2025年には国民の約3人に1人が65才以上、約5人に1人が75才以上という超高齢社会になる日本。働きながら家族の介護を担う中高年の「ビジネスケアラー」も増加傾向にあり、経済産業省の試算によると2030年までに約318万人にのぼるといわれている。ビジネスケアラーの実情をアンケート調査を元にレポートする。
働き盛りの中高年にのしかかる家族の介護
医療の発達や衛生環境の改善により日本人の平均寿命は伸び続け、「人生100年時代」といわれるようになった。高齢者の増加に伴い、介護問題の1つとして近年注目され始めたのが仕事と介護の両立に追われる“ビジネスケアラー”の存在だ。
介護や建設業など中腰で作業したり、重いものを持ち運んだりする現場で働く人の腰の負担を軽減するアシストスーツ『マッスルスーツEvery』を製造・販売するイノフィスの調査によると、ビジネスケアラーの約8割が「仕事と介護の両立について不十分である」、あるいは「会社や人事に対して環境を整えて欲しい」という要望を持っていることが明らかになった。
「介護休暇」や「介護休業」などの福利厚生を従業員側が知らない、制度が充実していたとしても「出世に影響が出るかもしれない」と不安を感じて取得しない場合もあり、社会全体としてビジネスケアラーの全体像がつかめておらず、手厚い支援ができてないのが現状のようだ。
会社の上司に介護問題を相談している人はたったの1割
介護は入浴、食事介助などの身体介護が中心となり体力的な負担だけでなく、慣れない作業はストレスの原因にもなる。そういったビジネスケアラーの悩みの相談先は、約50%が家族で、友人、ケアマネジャーには30%、会社の同僚へは16.5%、会社の上司は10.2%、人事・総務は4.2%にとどまるなど会社関係者に打ち明けるケースは少数だった。
ビジネスケアラーは、仕事と介護の両立ができる環境や制度の整った会社があれば転職を検討する人も多い。実際に、介護が原因で離職した人は2017年で9万人というデータもあり、2010年代以降増加傾向が続いている。
また、2023年3月14日に経済産業省が公表したデータによれば、ビジネスケアラーの離職や労働生産性の低下に伴う経済損失額の試算は、2030年に約9.2兆円にのぼる。
アンケートからも「仕事と介護の両立ができる環境や制度の整った会社があれば、転職をしたいと思いますか?」という質問に対して「すぐにでも転職したいと思う」と「転職を検討する」を合計すると55.5%にものぼった。
自分らしく働きながら介護を両立できる環境へ
ビジネスケアラーの職場に対する不満は大きいが、「環境や制度の整った会社であれば働き続けたい」と考えている人もいる。厚生労働省も「仕事と介護の両立支援」の実現に向けて取り組み方や実践マニュアルを提供したり、要介護者や要支援者の相談にのったり介護サービスのプランを作成する介護支援専門員(ケアマネジャー)の育成にも力を入れている。
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社会全体でビジネスケアラーへの理解が深まり、身近な人の介護に心穏やかに取り組める環境が早く整うことを願うばかりだ。
【調査データ】
■イノフィス調査「~ビジネスケアラー 仕事と介護の両立編~」
調査手法:インターネットリサーチ(無記名式)
調査実施日:2023年3月17日(金)~2023年3月22日(水)まで
調査対象者:ビジネスケアラーの30代~60代男女333名
※本調査における調査対象者の条件:
・公務員、経営者・役員、会社員、自営業者、自由業者(パート・アルバイト、学生などを除く)
・65才以上の高齢家族と同居しており、その介護をしている
・被介護者の要介護度が要介護2以上
調査元:イノフィス/東京理科大学発のベンチャー企業。マッスルスーツを代表とした機器を開発し、誰もが生きている限り自立した生活を送ることのできる世界の実現を目指している。
【参考】
厚生労働省:「仕事と介護の両立支援」~両立に向けての具体的ツール~
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/model.html
厚生労働省:「中小企業育児・介護休業等推進支援事業」
取材・文/松藤浩一
●介護離職しないために!専門家が教える仕事と介護を両立する3つのコツ