「食べこぼしが増えた、ニオイが気になる…」介護の困ったお悩み9例に介護福祉士・認知症ケア専門士が回答
親の介護が始まると、買い物、食事や入浴など 、生活の中で困ったことが増えてくる。90代の母を通いで介護中の記者(61才)の周りの介護世代の悩みを聞いてみると、日常の中で小さな問題をたくさん抱えている。長年介護現場で働く介護福祉士・認知症ケア専門士の井口千賀子さんに、これまでの経験から学んだ対処法を伝授してもらった。
介護で直面する悩みにプロがアンサー!
介護経験者は多くの悩みを抱えている。初めて直面する介護については誰もが素人。学校でもあまり教わらなかった分野に、いきなり取り組まなければならない。91才になる母を介護する記者も悩みが尽きない日々だ。
「介護のお悩みは十人十色です。介護される方の介護度、性格やご家族の状況も様々なパターンがありますよね」
こう話すのは、大阪府高槻市にあるデイサービスの管理者を務める井口千賀子さん。介護福祉士や生活相談員として、日々、利用者やその家族と向き合っている。認知症ケア専門士でもある井口さんに、介護の困った問題とその対処法について聞いてみた。
※お悩み実例は取材をもとにしたものです。
「認知症の母が他人のスカーフを引っ張ってしまった!」
80代の母親を5年間在宅介護・60代女性
母が80才を過ぎた頃から、認知症が始まり年々ひどくなっていきました。デイサービスでレクリエーションのとき、隣に座った女性が首に巻いていたスカーフを自分のだと言って、奪おうとしたんです。私が同席していたので、力ずくで止めました。他人の物を自分の物だと思い込んだりしたとき、どのようにわからせたらいいか難しいです。
・アドバイス
「認知症の人だけではなく、似た様なバックや洋服を見ると私達でも、『ひょっとしたら私のかな?』と思ってしまう場面がありますよね?デイサービスに通われている方の中にも、他の方のバックを自分のものだと思って持っていってしまうというケースがありました。
そういうときは、きつい言い方ではなく、『似ているけど違うよね』などと、優しく声をかけるようにしています。勘違いだということを分かっていただくことが、どのような方に対しても大切だと思っております。
また、ご自分の持ち物には、名前がわかるようにネームプレートなどを付けておくのもいいですよ。私たちの施設では、洗濯ばさみを利用して持ち物に名札を付けるようにしています」(井口さん、以下同)
「デイサービスで洗濯物が間違われてしまう」
80代の母親を5年間在宅介護・60代女性
在宅介護で疲れてきたとき施設へ短期入所させたのですが、母の洗濯物じゃないのが混ざって返ってきたり、逆に母の服が行方不明になったりすることが度々あるのですが、どうしたらいいでしょうか。
・アドバイス
「短期入所先のシステムもあると思いますが、持参される物すべてに名前の記入と持参リストを作成して持って行かれると、施設の方も他の方と同じ様な洋服やタオルなどの把握がしやすく、間違いが少なくなると思います。さらに、そのリストには洋服の色柄など詳しく明記される方がより間違いがなくなると思います」
「施設への入居を拒否されて困っています」
90代の母親を3年間通いで介護・60代女性
母親が90才を越えてから転倒するようになり心配なので同居や施設入居をすすめていますが、嫌だと言われています。
介護保険を利用してヘルパーさんに掃除や買い物をしてもらっていますが、料理や洗濯などは自分でできるので自宅で過ごすことを本人は希望しています。
今さら知らない人たちとの共同生活や、親子であっても気を使って同居したくないようで…。施設入居やデイサービスなどに通ってもらうためのいい説得の方法はありますか?
・アドバイス
「私の母も『チィチィパッパなんかする所は行きたくない!』と頑固な言葉を言っていました。しかし、老人会の役員を引き受けるなど人との交流は好きな母でしたので、デイサービスの特徴を見極めて、母に合ったデイサービスを探しました。
そして『お母さんとこれからもいろんな所に行きたいの。でも足腰が弱っては行きたい所にも行けなくなるよ。だから運動も出来る所を見つけたの』と何度となく話をしました。
これからも母と一緒に楽しみたいという気持ちをぶつけたところ、母も将来に希望を感じたようで、週4回も行くようになりました」
親の性格や趣味などに合ったデイサービスを探すなどの工夫が必要とのこと。
「離れて暮らす高齢の親の冷蔵庫の中が大変なことに!」
90代の母親を4年間通いで介護・60代女性
足腰はしっかりしていた80代の母は、近くのスーパーまで買い物に行けていました。久しぶりに実家に行き冷蔵庫を開けたらびっくり! 好物の同じ総菜が10個ほど冷蔵庫に入っていて一部は古くなってしまっていたんです。気が付かないうちに母は認知症になっていました。
・アドバイス
「同じ物をいくつも買ってしまう、重複買いをとめる方法は、なかなか難しいですね。
私も認知症だった母を通いで介護をしてきましたが、冷蔵庫のチェックはよくしていました。1週間に1度実家に行って母が買って来ている物の賞味期限の切れた物やそれに近い物は、『お母さん、これもらってもいい?』と言って持って帰っていました。母には同じ物がたくさんあることを話し、母の意見も聞きながら、『買い物に行く前に、冷蔵庫と収納庫を見ること』と書いて張り紙をしていました。
父も以前から母の物忘れは気になっていたため、冷蔵庫によく貼り紙をしていたので、『張り紙を見る』という習慣があったので助かりました。
離れて暮らす親の変化に気づくには、こまめに連絡をしたり訪ねたりすることが大切ですが、気が付かないうちに認知症は進行していることもありますね。
私の場合は母の何気ないひと言が気になり、もしかしたら認知症かもと思い、病院に行きました。何気ないひと言とは、『この前、パーマ屋さんに行こうとしたら、迷子になって行けなかったの、帰りもわからなくなっちゃってね』と笑いながら話したこと。その場では一緒に笑って聞いていましたが、ハッとしましたね。
普段接する中で、何気ない言葉や部屋、服装などの変化に早めに気づけるといいですよね」
「在宅生活で高齢の両親の気力と体力の低下が気になります」
70代の両親を同居介護・50代男性
同居の両親がコロナ禍生活で足腰の筋力が一層弱くなり、元気がなくなっています。自宅で特に椅子に座ったままできる体操や、リフレッシュできるレクリエーションがあれば知りたいです。なるべく本人たちだけでやれそうなものがあれば助かります。
・アドバイス
「まず体力の低下については、軽い運動を毎日の習慣にできるといいですよね。テレビで放送しているテレビ体操がおすすめです。椅子に座ってできる体操もあるので、無理なく始められるものを試してみてください。決まった時間に放映されるので規則正しい生活にもつながります。
体を動かすレクリエーションで、デイサービスの利用者さんに人気なのが、風船バレー。ゴム風船のボールを床に落とさないように手で弾くことで、腕の運動にもなります。
頭を使うレクリエーションでは、脳トレも根強い人気。計算問題や難しい漢字の読み書き、塗り絵も楽しんでいます。計算が得意な方、漢字が得意な方など、その方の趣向に合ったものを選ぶと、皆さん積極的にやってくださいます。また、古い記憶を思い出す回想法もおすすめですね。古いアルバムを見ながら昔の話をするのも脳にいい刺激になるようです」
「入浴介助が大変です。なんとかならないでしょうか」
母親の在宅介護を5年経験・60代女性
母をお風呂に入れるのが大変です。これまでひとりで頑張ってきたのですが、入浴だけでも助けてもらえる方法があったら知りたいです。
・アドバイス
「おひとりで5年も頑張っておられたのですね、なかなかできないことです。頭が下がります。介護認定を受けているのでしたら、ヘルパーさんに入浴サービスを依頼できます。
介護認定を受けていない場合でも、実費で入浴サービスが受けられる訪問介護事業所もあります。まずは、市役所など親御さんが住んでいる自治体の福祉課や地域包括支援センターに相談してみてはいかがでしょうか?」
「母が食事のときに食べこぼしが酷くなってきました」
90代の母親を3年通い介護・60代女性
80代後半になってから母の食べこぼしが増えました。口にスプーンや箸を自分で持っていけるのですが、ぽろぽろとこぼれてしまいます。母はプライドがあるので、指摘しにくいため、さりげなく防ぐ方法があれば教えてください。
・アドバイス
「口腔の筋力低下によって口が上手に動かせなくなり、食べこぼしが増えることも考えられます。食べる前に、口を大きく動かす運動をするリハビリをしてみる方法もありますが、もしかすると、食べこぼしが他の病気からきている場合も考えられますので、一度主治医に相談してみることをおすすめします。
まだまだ自分でちゃんとできる!
「トイレの失敗が増えてきて、ニオイが気になっています」
80代後半の父親を介護・50代女性
排泄の失敗が増えてきました。なんだか部屋中、ニオイがこもっているようで気になって仕方がありません。
・アドバイス
「先ずはどこからどんなニオイが発生しているのか、原因を確認することが大切ですね。私たちの施設では、使用済のオムツは新聞紙にくるんで捨てるようにしています。窓をこまめに開けて空気の入れ替えはするようにしています。
汚れた衣類や下着は、まず汚物を取り除いた後、衣類用漂白剤を入れた水に1時間ほど浸け置きしてから、洗濯をしています。部屋干しより天日干しのほうがニオイがすっきりすると思いますよ。
排泄のケアは、お子さんには頼りたくないと思う方も多いので、ヘルパーさんなどなるべく外部の方の手を借りられるといいですよね」
→日用品を再利用法して介護生活に役立てる デイサービスが実践するSDGs事例をレポート!
「介護に疲れていました。リフレッシュ方法はある?」
80代両親を通いで2年経験・60代女性
埼玉から 神奈川まで通いで80代の両親を2年、通いで介護しています。元々体力に自信があるほうではないため、このまま続けられるか自信がありません。
・アドバイス
「介護者には“レスパイト”が必要です。レスパイトとは、在宅で高齢者の介護や乳児の育児をしている家族に代わり、一時的に支援者が代行し、介護者・育児者がリフレッシュすること。ケアマネジャーに相談して、泊まりで預かってもらえる施設を探し、ショートステイを利用することを考えてみてください。
私も親の介護で感じましたが、なるべくひとりで抱え込まず、頼れる人を見つけて欲しいですね。親のためにも、まず自分が疲れ切らないように気をつけることが大切ですね」
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「アドバイスは私の今までの経験から話させていただいたものなので、ひとつの参考にしてください。違う目線でのアドバイスもあると思いますので、介護される方やご家族に合うより良い方法を模索しつつ、少しでも穏やかな介護生活をお過ごしいただけたらと思います」
教えてくれた人
介護福祉士、認知症ケア専門士・井口千賀子さん
ギフトリレーションズが運営する「安岡寺けやきの家」(大阪府)の管理者であり、生活相談員でもある。介護福祉士、認知症ケア専門士の資格をもち、通所する利用者が「第二の家」と思えるような心地よい空間創りに努めている。介護生活での「もったいない」を減らす工夫を実践中。
https://gift-relations.co.jp/
取材・文/本上夕貴
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