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まだ語りたい『星降る夜に』最終回 ベテラン大石静の脚本が光る秀作。恋愛ドラマだかホームドラマの側面も

 吉高由里子演じる産婦人科医・雪宮鈴と北村匠海演じる遺品整理士・柊一星のラブストーリー『星降る夜に』(テレビ朝日系 火曜よる9時〜)が3月14日に最終話を迎えました。脚本は来年のNHK大河ドラマ『光る君へ』(吉高由里子主演)を手掛けることでも話題のベテラン・大石静。『鎌倉殿の13人』の全話レビューを担当したライター・近藤正高さんがの全話考察も最後、ラブストーリーでありながら、すぐれたホームドラマでもあった側面にも迫りました。

すべて水に流す

『星降る夜に』では前回ラスト、鈴(吉高由里子)や佐々木深夜(ディーン・フジオカ)の制止を振り切って、海に飛び込もうとしていた伴宗一郎(ムロツヨシ)が、あとからやって来た幼い娘・静空(戸簾愛)の「お父さーん」の呼び声で思いとどまり、泣き崩れた。その場に居合わせた一星(北村匠海)は、そんな伴を見かねて抱きしめたのだが、最終話となる今回の冒頭では一星に続き鈴(吉高由里子)も一緒に伴を抱きしめるところも描かれた。それまで伴から恨まれ、誹謗中傷され続けてきた鈴が、ついに和解した瞬間であった。

 このあと、伴親子と鈴、深夜、一星とその職場の同僚・佐藤春(千葉雄大)はそろって銭湯に行く。男性陣がそろって湯につかりながら交わした会話は他愛なかったが、登場人物たちが一緒に風呂に入ることには、過去をすべて水に流すという意味合いもあったのではないか。

 銭湯といえば、本作で脚本を手がけた大石静は、脚本家として駆け出し時代、銭湯を営む一家を舞台にしたホームドラマ『時間ですよ たびたび』(1988年)に参加し、名ディレクターの久世光彦にしごかれた経験を持つ。そんな経歴からしても、大石の作品のベースにはやはりホームドラマがあるような気がする。『星降る夜に』も、一見すると恋愛ドラマだが、その実、産婦人科医院と遺品整理会社の人たちを疑似家族とするホームドラマという印象を持った。

 ことあるごとに食事のシーンが出てきたのも、ホームドラマゆえだろう。何気ない描写ではあるが、劇中、登場人物どうしの関係などを示すうえで、食事は結構重要な要素となっていた。とくにそれを感じさせたのは、深夜が妻の死後も食事を買って来るたび、2人分買ってきてしまうという設定だ。深夜と妻にとって、食事はそれだけ重要な意味を持っていたということだろう。

 その深夜も、最終話にいたってついに10年間引きずり続けてきた過去を断ち切る決意をする。亡くなった妻のアヤコ(安達祐実)と住んでいた東京の家をついに処分することにしたのだ。深夜夫婦と高校の同級生だった北斗千明(水野美紀)は依頼を受け、経営する遺品整理会社「ポラリス」の従業員総出で作業に取りかかった。鈴も来ていて、手伝いを申し出るが、一星がプロとしての矜持を見せ、「俺にまかせて」ときっぱりと断ったのが頼もしい。

 ここで改めて社員それぞれの役割を果たすさまが描かれる。一星と春だけでなく、2人の先輩・後輩である岩田(ドロンズ石本)や桃野(若林拓也)が家のなかを丁寧に片づけていき、装飾品類などは千明の片腕である服部(宮澤美保)が鑑定する。

 その様子を見守るうち深夜の心には、アヤコとのさまざまな思い出が去来する。これまでほとんど写真だけの出演だったアヤコ役の安達祐実も、回想シーンのなかでここぞとばかりセリフを発し、深夜との関係があきらかになった。星を見るのが好きな深夜だが、それももともとはアヤコの影響からであったという。

 家の整理中、彼女の遺品である天体望遠鏡を前に、千明が涙ぐむ。これに対し、深夜は妻が亡くなって以来、ずっと泣けなけないまま、この日まで来た。だが、そんな彼がついに涙を流すときが訪れる。すべてが片づき、一星がいつも持っている星柄の箱――故人の遺品のなかから遺族が今後も持っておくべきと彼が判断した物を納めるためのもの――のなかから、深夜にあるものを渡す。それは、アヤコが結婚記念日に深夜に贈るつもりで買っておいた3足のスニーカーだった。3足のうち1足は、生まれてくるはずだった子供のためのものだが、彼女はこれを渡せないまま、結婚記念日前日にお腹の子とともに亡くなってしまったのである。

 それをアヤコの書き残したメッセージとともに見せられた深夜の目からついに涙がこぼれた。このスニーカーで家族3人で歩んでいくはずが、それがかなわなかったことを悔やみ、いままで心の奥底に澱のようにたまったものを一気に流し出すかのごとく号泣するのだった。

 これと前後して深夜は、先に「自分が医者になったのは復讐のためかもしれない」と言っていたその真意を、鈴との会話のなかで打ち明けていた。アヤコを妊娠中に亡くした深夜もまた、伴と同じく恨みを抱いたというのだ。妻と子供が死んだのは、医者のミスではないか、病院は何かを隠しているのではないかと疑念がぬぐえなかった彼は、自分が医者になれば真実がわかるかもしれないと思い、それを糧に猛勉強して医者になったという。だが、結局、医者になって妻子が亡くなったのは誰のせいでもないと気づく。

 深夜はそれでもなお、担当した妊婦のお産のときはどうしても、よかったという気持ちと嫉妬が入り混じり、素直に祝福することができずに来たと明かし、そんな自分を最低だと責める。これを聞いて鈴は、深夜が以前、自分に憧れて医者になったと言ってくれたおかげで、私は自分を認めることができたと言って励ますのであった。

太陽と月と地球みたいな関係

 鈴と深夜はもはや単なる同僚という次元を超え、互いに影響を与え合いながら過去を乗り越えた親友というか、同志ともいうべき関係にある。深夜は一星ともいまでは心を通わせる仲だ。千明に言わせると、鈴と一星と深夜は「太陽と月と地球みたいな関係」だという。「ああいう関係は恋とか愛とか単純な名前はつけられないな」「一列に並んだり、陰になったり、欠けたり満ちたりしながら、3つは回り続けてる」と千明は部下の春を相手に話していたが、それはじつは高校以来の親友であるアヤコと深夜と彼女自身についても同じことが言えたのではないだろうか。

 自宅を処分してから数日後、深夜は鈴に対し突然、このまま鈴のそばにいたのでは一人前の医者にはなれないとの理由から、マロニエ産婦人科医院を離れると告げた。その夜、男どうし酒を酌み交わした深夜と一星は、兄弟のようでもあり、親子のようにも見えた。ひょっとすると深夜には、奇しくも自分の子供につけようとしていた名前を持つ一星を、我が子のように思うところもあるのかもしれない(子供にしてはちょっと年が大きいけれど)。

 深夜が新天地に向かうと決めたのを機に物語は大団円を迎える。仕事を終えて産院を出た鈴は、ふいに夜空を見上げると、一星と出会ってからのことを思い出し、彼にSNSでメッセージを送る。しばし2人でこれまでを振り返りながら、その夜も会うことに。踏切の向こうで鈴を待っていた一星は、改めて「雪宮鈴、愛してる」と手話で伝えると、鈴も「私も、一星を、愛してる」と返し、そのまま彼の胸へと飛び込んでいった。そしてしばらく口づけを交わしたかと思うと、時間は一気に1年後へと飛ぶ。

 そこでは後日談として登場人物のそれぞれのいまが描かれる。深夜は、青森の産院に移り、あいかわらずドジを踏みながらも、患者たちと真剣に向き合っていた。ポラリスは順調に業績を伸ばしているようで、新たに支店を出すことになり、千明は岩田と服部にこれを任せる。同時に春もチーフに昇格。さらに千明の娘の桜(吉柳咲良)はいつのまにか、看護師長・鶴子(猫背椿)の一人息子・チャーリー(駒木根葵汰)と付き合うようになっていた。母親の鶴子は最終話の前半で、元レディースの部下たちにグループの解散を告げ、ピンクの特攻服と決別していた。それと同じようにチャーリーもまた、いつの間にかトレードマークだったピンクの髪から黒い髪に和服姿へとガラリとイメージチェンジし、いまは落語家の見習いをしているらしい。

 そんなふうに、登場人物が変わっていくなか、鈴と一星がスーパーへ買い物に行くと、伴が店員として働いていた。いつかの桜のセリフではないが、本当に世の中は狭い。そこへ小学校に上がった娘の静空も、学校帰りなのかランドセルを背負って現れた。伴は鈴たちとの再会を喜んでか、何も言わず「半額」のシールを貼ってくれる。このころ、鈴と一星はすでに一つ屋根の下で暮らすようになっていた。海岸そばの家で、深夜が青森で釣って送ってくれたイカをいかに調理するか話し合ったあと、その日も互いに仕事に出かけていくのだった――。

親子2代で

 最終話では終盤、鈴と一星が一緒に映画(以前2人で観た映画の続編らしい)を観に行くシーンがあり、そこに高畑充希がサプライズで出演した。吉高由里子と高畑充希の共演は結構レアだったのではないか。高畑は、『星降る夜に』の後番組となる来月スタートのドラマ『unknown』で田中圭とW主演を務めるということで実現したのだろう。

 ちなみに『unknown』での高畑の役どころは吸血鬼。鈴と一星が観に行ったのがドラキュラ映画で、鈴が映画を観ながら「これ、恋人が吸血鬼なんだよ」と言っていたのは、この設定に合わせたものだ。あとから見返すと、じつはその直前のシーンでも、高畑がドラキュラのコスプレで映画館に来たにもかかわらず、受付のスタッフから、映画のモチーフの物を身につけていないと割引にならないと断られていた(芸が細かい!)。

『星降る夜に』は、ろう者の青年を主人公のひとりに据えながらも、彼が耳が聞こえないことをハンディキャップと捉えるのではなく、あくまで個性のひとつとして描いていたのが新鮮だった。脚本の大石静は今年6度目のウサギ年を迎えた年女ながら、まったく年齢を感じさせないのは、そんなふうに常に新しいことを採り入れる柔軟さにあるのだろう。

『星降る夜に』のプロデューサーのひとりである貴島彩理は、引き続き『unknown』も担当する。貴島はこれ以前、20代にして『おっさんずラブ』でヒットを飛ばした気鋭のドラマプロデューサーだ。その父親である貴島誠一郎もまた、TBSで数々のドラマをヒットさせた名プロデューサーとして知られる。大石静はこの父親ともかつてタッグを組み、『長男の嫁』というヒットドラマを生んでいる。親子2代で仕事をするケースが出てきたことに、この脚本家の息の長さを実感させる。大石は来年には吉高由里子と再び組んで、大河ドラマ『光る君へ』を控える。『星降る夜に』を堪能したあとだけに、こちらもますます期待が高まる。

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

 

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