痔を自分で治す13か条を名医が指南!「患者の9割が生活習慣の改善で良くなった」
日本でもっとも患者数が多いのは、歯周病に次いで「痔」だとされている。寒さがいっそう厳しくなったこの時期は、独特の痛みにいつも以上に悩まされている人も少なくないのではないだろうか。「患者の9割が、生活習慣の改善で痔を治すことができています」と語る平田肛門科医院院長の平田雅彦さんに、その方法を聞いた。
冬はお尻に厳しい季節「寒さと渇きが痔を悪化させる」
ただでさえ女性は痔になりやすく、悪化もしやすいのに加えて、冬はお尻に厳しい季節でもある。その背景にあるのは、寒さと血流の関係だ。体が冷えれば当然、肛門付近の血流も悪化する。それによって、炎症が起きやすくなるのだ。
『マンガでわかる痔の治し方』(小学館集英社プロダクション)などの著書がある、平田肛門科医院院長の平田雅彦さんが解説する。
「寒さで動くのがおっくうになり、運動不足になりやすいのも一因です。体を動かさなければ腸の動きも鈍くなります。また、冬はのどが渇きにくくなり、水分摂取量が少なくなりがち。便秘がひどくなって便が硬くなりやすく、それによって肛門を傷つけやすくなるのです」
たかが痔だと侮ってはいけない。悪化した痔を放っておくと、まれに命にかかわることもある。
「痔ろうに限っては、放置するとがん化するリスクが高い。筋肉質で体格ががっちりした20~40代の男性に多く、女性は3%と少ないですが、もし痔ろうになったら、100%手術が必要です」
痔の予防や改善にもっとも重要なのは朝起き抜けの行動
痔の原因はすべて、便秘や冷え、ストレスといった生活習慣にある。裏を返せば、生活習慣を正せば、痔は自分で予防・改善できるということだ。事実、痔ろう以外のいぼ痔や切れ痔などは、手術をせずに治すのが常識だという。
「患者の9割が、生活習慣の改善で痔を治すことができています。本人の強い希望があれば手術することもありますが、たとえ手術をしても、根本的な生活習慣を見直さなければ再発してしまう」
女性が最優先すべきなのは、便秘の予防と改善。もっとも重要なのは、朝、起き抜けの行動だ。
「朝起きたらすぐに、ストレッチなどで体を動かすこと。これによって腸のぜん動運動を促すことができます。寝たまま伸びをしたり、手首や足首を軽く回すだけでもかまいません。起床後と食前には、コップ1、2杯の水か白湯をゆっくり飲んでください。便に水分を与えると同時に、からっぽの胃にものが入ることで『胃・結腸反射』が起きて、便意が起きやすくなります」
腸にいい食生活「1日3食しっかり摂る」
腸内環境を整えるためには、やはりヨーグルトや納豆、みそ、塩こうじといった発酵食品のほか、食物繊維も欠かせない。食物繊維の摂取量の目標は1日21gだ。
「海藻類やきのこ類、豆類、いも類、バナナなどのフルーツのほか、アスパラガスやごぼう、セロリなどを積極的に食べることで、便のかさを増やす不溶性食物繊維と、便をやわらかくする水溶性食物繊維をバランスよく摂ることができます。また、不足しがちな水溶性食物繊維と水分をたっぷり摂れるこんにゃくもおすすめです」
生野菜のサラダは食物繊維が豊富に思えるが、実は、ボウル1杯食べても、摂れる食物繊維の量はわずか3gほど。それよりも、麦ご飯や雑穀米、全粒粉のパンなど、主食を変える方が手っ取り早く食物繊維の摂取量を増やせる。1日21gの目標を達成するためにも、食事は1日3食、しっかり摂るべきだ。
「忙しい朝は、ヨーグルトにフルーツやナッツをのせたり、グラノーラに牛乳をかけるなど、簡単なものでいい。おやつには干しいもをおすすめします。睡眠の質を落とさないよう、夕食は寝る3時間前に済ませてください。水分は1日1Lを目標に。特定の食材にこだわらず、いろいろなものをまんべんなく食べてください。少し食事に気を配るだけで、変化が出てくるはずです」
デスクワークで1時間座ったら10m歩く
避けるべきなのは、お酒や辛い食べ物だ。血管を拡張する作用のあるものは、摂りすぎると炎症の原因になる。体を冷やさず、適度な運動をすることで、血行不良を防ぐことも重要だ。
「痔ろうは温めると悪化しますが、そうでなければ、お風呂はシャワーで済ませず、湯船につかること。浅くためたお湯にお尻だけをつける座浴や足湯もおすすめです。
長時間屋外にいなければならないときは、足先と腰を使い捨てカイロなどで温めることで、効率的に冷えから体を守ることができます。一方、デスクワークなどが多い人は、お尻回りの血行が悪くなりがち。“1時間座ったら10m歩く”など、ごく軽くてもいいので、体を動かす習慣をつけましょう」
シャワートイレの水圧は「最弱」に
平田さんによれば、こうした生活習慣の改善を続けることで、多くの患者が3か月で症状が改善しているという。便秘で苦しいときは、浣腸や、便を穏やかにやわらかくする酸化マグネシウム剤などを使うのもいい。皮膚を弱くする恐れがあるため、ステロイド系の薬は避け、2週間使っても便秘が改善しなければ、病院に行った方が安心だ。
「いくら便秘だからといって、毎日長時間トイレでいきむのはおすすめしません。便はそもそも“いきんで出すもの”ではなく、トイレに座れば自然と“落ちるもの”です。人間は座るだけでお尻回りの血圧が150mmHg近くまで上昇します。いきむとさらに200mmHgを超えて、心疾患のリスクが上がります。自然な排便の習慣をつけるため、便意があればがまんせず、すぐにトイレに行くようにしてください。3分座って出なければいさぎよくあきらめて、またの便意を待ってください」
肛門を清潔に保つことも重要だが、シャワートイレの水圧は「最弱」に。排便後はゴシゴシ拭かず、重ねたトイレットペーパーで優しく拭うようにしてほしい。
平田さんは「ストレスや睡眠不足はお尻の大敵」と話す。
「早寝早起きをしてよく笑って、免疫力を上げることも大切です。痔を治すための生活習慣は、ほかの病気も遠ざける。実際に、痔を治したくて生活に気をつけていたら、ほかの不調もなくなったという人はとても多いのです」
痔は生活習慣病。健康を守るには、まずお尻から。