最新版!変形性ひざ関節症は「初期」で対処を 痛みのメカニズムや解消法を医師が解説
加齢とともに表れるひざの痛み。症状で最も多いのが「変形性ひざ関節症」で、誰もがなりうる病気です。「変形性ひざ関節症」について20年以上研究を続けている整形外科専門医・福井尚志さんが、勘違いの多い痛みの原因や解消法の最新情報を解説します。
最新版「変形性膝関節症」痛みのメカニズムを解説
ひざの痛み(変形性ひざ関節症)の原因は、軟骨がすり減ったせいだと思い込んでいる人が多いと、福井さんは言う。そもそも軟骨には神経が通っていないため、軟骨自体から痛みを感じることはない。
痛みのメカニズム
【1】軟骨がすり減る(この段階では痛みはない)
【2】摩耗物質が出る
【3】滑膜が炎症を起こす
【4】痛みが発生する
関節包の内側は、滑膜という薄い膜で覆われており、軟骨がすり減ると、その破片が関節包の中に広がる。この破片が原因で滑膜に炎症が起きるため、関節に水がたまったり痛みが生じたりする。
ひざの痛みの直接的な原因は、ひざの軟骨のすり減りではないが、影響していることは確かだという。
「私たちのひざは、年齢とともに変化しています。老化とともに肌がたるむように、変化そのものは病気ではありません。ただ、この日々の変化が影響し、ひざの病気が発症するのです」(福井さん・以下同)
関節の構造(ひざの断面)
40代頃を境に、クッションの役割を果たす軟骨の中で、それを作っているたんぱく質に変化が起こる。このため軟骨は水分を失って、硬くもろい組織となってしまう。こういう老化に伴う変化によって軟骨は壊れやすくなり、徐々にすり減っていく。
「潤いの保てない状態の軟骨のまま、歩いたり、体重をかけたり、曲げ伸ばしを繰り返せば、軟骨はすり減ります。軟骨には大腿骨と脛骨が直接ぶつからないようにするクッションの役割がありますから、これがすり減ると、骨が直接ぶつかり合い、骨に細かいヒビ割れを作ってしまいます」
つまり、軟骨がすり減ったことで骨折してしまうというわけだ。これが、ひざの痛みの原因のひとつだ。
「骨の中のヒビは、転んだり、バランスを崩して、ひざに強い力がかかった場合などにできることもありますが、普通に歩いているだけでもヒビが入ることがあります。疲労骨折と似たような状態ですね」
骨の中のヒビはX線での診断は難しいが、MRI検査では簡単に見つけられる。
「ヒビが小さければ自然に治り、痛みが残ることもほとんどありません。しかし、ヒビが大きい場合は骨の形が変わってしまい、ヒビが治っても何らかの痛みが残ることがあります」
すり減った軟骨の破片で滑膜に炎症が
ひざの痛みには、ほかにも次のような原因がある。
「ひざ関節は関節包と呼ばれる袋に包まれています。関節包の内側は、滑膜という薄い膜で覆われているのですが、軟骨がすり減ると、軟骨の破片が関節の中に広がります。この破片には老化して質が悪くなったたんぱく質が含まれており、それが原因で滑膜に炎症を起こしてしまうのです」
軟骨と違い、滑膜には神経が通っているので、炎症が起きると痛みを感じる。ひざに水がたまるのも、この滑膜の炎症が関係しているという。
「滑膜に炎症が起こると、滑膜にある血管の性質が変わり、血液中の水分が外に出やすくなります。これが関節の中にたまったのが“ひざに水がたまる”状態です」
ちなみに、たまった水は、ひざの状態がよくなれば自然に抜けるため、過度な心配はいらないという。
膝の痛みチェックリストと対処法「初期」が肝心!
こんな症状が出たら注意!
□ 朝起きてすぐトイレに行くとき、ひざに違和感がある
□ 階段の上り下りでひざが痛む
□ ひざをひねると痛む
□ 長い距離を歩いた後にひざが痛くなるが、休むと消える
□ 立ち上がりや歩き始めだけ、ひざが動かしにくい
□ しゃがむとひざが痛む
□ 正座するとひざが痛む。または痛くて正座できない
□ ひざを曲げ伸ばしするとき、油が切れたような感じがある
変形性ひざ関節症は「初期」で対処を!
【前段階】
軟骨や半月板に、変化が始まっている状態。しゃがんだときやねじったときなどに軽い痛みを感じるが、すぐに痛みは治まるため気のせいで済ませてしまいがち。
【初期】
関節軟骨がすり減って滑膜を刺激し、骨の縁に小さなトゲができた状態。立ち上がり、階段の上り下り、体重をかけたときなどに痛みを感じる。腫れやこわばりを感じることもある。
【中期】
滑膜や腱の炎症が進み、痛みが強くなる。水がたまり始める。ひざとひざの間に隙間が空いてO脚ぎみになる。強い痛みが出始めるので曲げ伸ばしがきつく、外出や運動が億劫になる。
【末期】
関節軟骨がなくなり歩くたびに痛みが出る。滑膜だけでなく、骨の痛みも増す。曲げ伸ばしがますます困難になり、行動が制限されることでストレスや不安も強くなる。
ひざをかばって腱を痛めることも
ひざの痛みの原因としては、ひざをかばって歩くことで、ひざの裏側にある腱に負担をかけ、炎症を起こしてしまうケースもある。
ひざを伸ばすことで痛みを感じたり、違和感があると、ひざを曲げたまま歩く癖がつく。すると、ひざの裏側の腱に負担がかかり、そこに炎症が起こる、というわけだ。
「こういった腱の痛みにはステロイド注射が有効です。1回の注射で痛みが消えることも多いので、裏側が痛いときはすぐに来院してください」
また、歩行時に痛みや違和感がある場合は、杖を使うことも有効だという。
「歩き方を矯正するためにも杖は利用した方がいいでしょう。痛いところをかばって歩くことでほかの部位まで痛みが広がるのを防げます。杖には、ステッキタイプのものや、先端が3~4つに分かれた安定感のあるものなど、さまざまな種類がありますが、どれでもかまいません。持つことで歩きやすくなるものを選んでください」
大切なのは適度に動かすこと
ひざの痛みの原因は、軟骨のすり減りが影響し、骨、滑膜、腱に異常が生じることにある。つまり、軟骨がすり減っても、骨、滑膜、腱が健全であれば、痛みもなく生活ができるというわけだ。
そのためには、適度にひざを動かして柔軟性を高めながら、筋肉を落とさないようにすることが大切だという。
「ウオーキングやストレッチなど、無理のない程度の運動がいちばんの治療法です。変形性ひざ関節症の炎症では、血流が増加したり熱を持ったりすることはほとんどありません。ですから、適度な運動や保温で代謝を活性化させた方が痛みも軽くなります」
肥満もひざに大きな負担をかける
もうひとつ重要なのが太らないことだ。
ひざ関節は、大腿骨と脛骨の2つの骨が垂直に接する部分。体重が重いほど関節に負担がかかる。しかも、まっすぐに立った状態よりも、歩いている方が関節にかかる負担はより大きくなる。
「平地歩行の際にひざ関節に加わる負担は、体重の3倍程度といわれています。階段の上り下りとなったらそれ以上の負担がかかります」
肥満による負担と、老化による軟骨の弱体化が加わると、ひざの病気にかかりやすくなるため、標準体重以上の場合はダイエットを検討した方がいい。
一般的に、身長(m)の2乗に22をかけた数字が、適正体重とされている。単純に食事量を減らすと、栄養不足によって筋力が低下したり、骨粗しょう症のリスクが上がってしまう。おすすめなのは、糖質や脂質を減らしてカロリーを抑えながら、たんぱく質やカルシウムなどのミネラル、ビタミンをしっかり摂る方法だ。
ひざ痛を予防するためにも、痛みの少ないうちから筋力を落とさないための運動を行い、体重管理をすることが大切だ。
教えてくれた人
福井尚志さん/東京大学大学院総合文化研究科教授。整形外科専門医、医学博士。日本整形外科学会、国際変形性関節症学会会員。ひざ関節の疾患を専門とし、特に変形性ひざ関節症については20年以上にわたって研究を続けている。監修本に『東大教授が本気で教える ひざの痛み解消法』(中央公論新社)
取材・文/土田由佳 イラスト/なとみみわ
※女性セブン2023年2月2日号
https://josei7.com/
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