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連載

兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第155回 ツガエの「兄ガチャ」】

 ライターのツガエマナミコさんは、若年性認知症を患う兄と2人暮らしです。穏やかな性格な兄ですが、症状が進行する中でマナミコさんが困惑…いや、落胆すらしてしまう出来事が発生することも増えてきました。今回は、マナミコさんが、兄を介護することになった自分の人生について考えます。

 * * *

「持論を展開いたします」

 去年あたり「親ガチャ」という言葉が物議をかもしておりました。どんな親の下に生まれるかは選べないものだから、ガチャガチャ回して出てくるカプセルトイのようにアタリ・ハズレがあるという意味でございまして、「なかなか上手いこと言うなぁ」と思ったものです。でも、なぜか喉元につっかえてまっすぐ降りて行かないザラツキも同時に感じておりました。
 この違和感は何なのか?

 はい、今回は哲学者気どりのツガエがつらつらとうっすい持論をご披露する面倒くさい回でございます。
 
 正直、自分の場合は「兄ガチャハズレの人」だと思ったのです。「ハズレもハズレ、大ハズレだ!」と何度湯船に浸かりながらこぶしで水面を叩いてきたか知れません。
でも、ハズレになったのはここ数年の話で、発病前の兄は可もなく不可もない、わたくしにとって人畜無害で非の打ちどころのない兄でございました。わたくしもそうですが家族全員”日本の平均”が服を着て歩いているような人間で、良くも悪くも突出したところがなく、日本国民の端くれとして地味に懸命に生きている大多数の一員。

 その流れで申しますと、兄は「ハズレ」ではなく「ノーマル」なのではないかと思い始めたのです。おみくじなら「中吉」、サイズなら「М」、松竹梅の「竹」、ゴルフの「パー」。50代後半で若年性認知症を患ったというお話は、もはやみなさまが仰天するようなことではございません。もっと言えば、よくあること。たまたま兄が独身でいたから独身の妹と同居しておりますが、もし既婚ならばお嫁さまがご苦労を背負っていたわけで、わたくしは補佐程度の介護をするだけで兄を「ハズレガチャ」と思うこともなかったと思います。
 
「親ガチャ」のあと「教師ガチャ」や「上司ガチャ」「新人ガチャ」など、生きていると避けられない人との出会いを「ガチャ」に当てはめる風潮がございます。でもそもそも生きることは予測不可能でございましょう。人生はガチャなのでございます。どんなに計画的に、どんなに準備万端整えていても、思い通りにならないことがあって、どうしようもなく翻弄されることが起こります。でも転がらないように踏ん張るよりキャーキャー言いながら転がればいいのだと、60歳間近になって思えるようになりました。お子様がいるとこんな気楽な考え方ではいけないと思いますが、これぞ独り身の強みでございます。
 
 読者の方々に「自分を一番に考えてください」と励ましていただき、「そうだ、大事なのは自分だ」と思い、生きる力にしてまいりました。兄には早く施設に入っていただいて自由になりたいと望んでまいりました。でも、わたくしのほかに誰がこの兄のお世話をしたいと望むだろうかと考えますと、手放しで「お願いしま~す!ルンルン」とはいきません。

 プロにお任せした方がいいこともあるでしょう。でも介護職というお仕事だとしてもかかるストレスは同じだけあると思います。わたくしの自由は、つまりそういう方々の犠牲の上に成り立つのであり、とどのつまり、わたくしが兄の犠牲になるか、よそさまがわたくしの犠牲になるかの二択なのではないかと、ややこしいことを延々と考えてしまうのです。

 兄に暴言や暴力があれば、プロに助けを求めざるを得ないとなりますが、幸か不幸か 兄は穏やかで、排せつ問題さえなければ、少々手のかかるただのオジサン。男性であることに恐怖を感じることもありますけれど、用心すれば一緒に暮らせないこともない絶妙なラインなのです。

 そもそも自分の限界がどこなのか判然といたしません。胃が痛くなることもなく、食欲も落ちません。「もうだめだ、限界だ」と思い、失意のどん底で震える夜があっても2~3日すれば朝ベッドの上でやる気満々のストレッチをして一日を迎えます。これはまだまだ自宅介護できるという証拠なのでしょうか? でしょうね(笑)
 
 で、「親ガチャ」で抱いた違和感は何だったのか? 

 答えは、自分自身も誰かのガチャだということに気づいていなかったこと。上手くいかないことを他人のせいにしない生き方をしたいものでございます。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性59才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現63才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

●ハリー杉山さんが27才で直面した父親の介護「誰にも言えなかった孤独と葛藤」

#介護が始まるときに知っておきたいこと

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コメント

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この記事へのみんなのコメント

  • みかん

    今回の記事を拝見しまして、食欲も落ちていないし、落ち込むことがあっても2、3日で回復して朝元気にストレッチができるほどだと知りまして・・まだ大丈夫なご様子なのですね。 今までの記事の流れから、もっと深刻な状況なのかと捉えておりました。 毎日の生活にも波はあるでしょうし、お気持ちにも波があるのかもしれません(波はあって当然です。) お兄様は暴言や暴力はないとのことですが、排泄の失敗(処理)だけでも、もうそれは本当に大変なことではないかと感じておりました。 自分なら施設にお願いするレベルだと感じますが、それも人それぞれ、ツガエさんは懐の深いお方なのでしょうね 頭が下がります。。 ただ、ツガエさんが24時間、ほぼ毎日、側にいて共に暮らすのと、施設のスタッフさんの負担とは同じではないと思いますよ。施設では何人ものスタッフの方の協力体制があるでしょうし、勤務時間が終われば自宅に帰れますし・・。 ツガエさんの場合は自宅にいても気が抜けないわけですし、たったお一人でお兄様のお世話を引き受けておられるのですから。。 ただ、こればかりは他人がとやかく言えることではなく、いつ施設にお願いするのかはツガエさんのお気持ち(タイミング)次第ですよね。 ついつい心配になってコメントもしてしまいましたが、今後も無理のない範囲でやっていかれますように、、これからも応援しております。

  • みみこ

    私もほぼ同じ気持ちで親の介護しています。親への情が深いわけでもなく、私がこのみなかったら、結局だれかが面倒みるんだと思うと、じゃあ当面は私でいいかと思ってみています。 介護保険の利用もすすめられます。高齢化社会が進み、税収のうち社会保障の負担も年々大きくなっていることを思うと、うちはもう少しだけ先に利用しようかなと思っています。社会と自分どちらもwinwinの介護のありかたを探っています。 ツガエさん、気晴らしにカラオケ行ってらっしゃいますが、いいですねー。私はおいしいお菓子食べるぐらいです。 介護生活では、自分の機嫌は自分でとるの大事ですよね。 暑い日々ですのでツガエさん、お兄様おからだお大事にしてくださいね。

  • マキマキ

    介護当事者の方の置かれた状況は何一つ同じ物は無く、同じ事象に対する考え方も当然全て違う。 当事者の方の書かれた文章も、その状況の全てを現しきれているものでは無い。 今回のツガエさんの文章を読んでつくづくそう感じました。 そして前回、少し短絡的過ぎるコメントをしてしまったコトを恥ずかしく思います。 ツガエさんが明確にされたお兄様の介護に対する考えに心打たれました。 もうコレは、全面的に支持して応援するしかないです。 でもくれぐれもご無理なさいませんように。やっぱり自分も大事ですよ。

  • 要介護2母と同居中の独身の娘です。うまくいかないことを誰かのせいにしないこと、はっとさせられました。 認知症やらなんやらの母。好きでなったわけではない。毒親な性格は置いておいても(笑)生活をうまく回せるか否かは介護者次第ですね。 どうしてもイライラカリカリすることはありますけれど、出来るだけ母娘笑って生きていけるよう心掛けたいと思いました。

  • RI-ちゃん

    マナミコさん、好きです。 自分にも人にも「頑張って!」という言葉は気をつけなければいけない、と、 知っていますが、応援しています。

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