独自の特色を持つ「サ高住」【まとめ】まるでシェアハウスなど
オープン間近の話題の施設や評判の高いホームなど、カテゴリーを問わず高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップし、実際に訪問して詳細にレポートしている「注目施設ウォッチング」シリーズ。
高齢者向けの住宅の1つに「サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)」がある。サ高住は、「高齢者住まい法」の改正により誕生した、介護・医療と連携したバリアフリー構造の賃貸住宅だ。自立あるいは要介護度が軽度の高齢者が主な対象となっている。日中に介護支援専門員などケアの専門家が常駐し、入居者の安否確認や生活支援サービスを提供しており、介護が必要になっても、訪問介護などの介護サービスを利用することで住み続けることができる。
サ高住といっても介護付有料老人ホームに近い、手厚いサービスが提供される住宅から、一般の賃貸住宅寄りのものまで、その特色は幅広い。今回は「入居者が店番をする駄菓子屋さんが1階にある」など独自性の高いサ高住をピックアップしてご紹介していく。
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「住まい」にこだわり5つのコンセプトを持つ「レオーダ経堂」
「小田急グループ」では、「レオーダ」という名称で小田急沿線にサ高住を4箇所展開している。
「レオーダ」シリーズは、いずれも駅から徒歩圏内で利便性は高い。そして何よりも地域の状況をよく知る小田急が手がけていることで、沿線住民の期待も高いようだ。
「レオーダ」が掲げるコンセプトは5つ。「施設ではなく『住まい』の提供」「小田急グループの総合力を活用したサービスメニューの提案」「魅力あるイベント」「手作り料理へのこだわり」、そして「要介護状態になっても生活を継続できる住宅」だ。
「住まい」というコンセプトは、設備や運営方針にも反映されている。全室25平方メートル以上で、各部屋にトイレ、洗面、キッチン、お風呂、洗濯機置き場が完備。運営面では、門限や外出、外泊に制限はなく、もちろん家族の来訪や宿泊も自由。自宅で過ごしていた時と同じように、プライバシーの確保された生活をおくることができる。
「レオーダ経堂」の料理は、同じ建物内の厨房で手作りされ、季節や祭事に合わせて旬の食材を使ったイベント食なども提供している。要望に応じて刻み食やおかゆなどの調理も対応可能だ。
実際に介護が必要になれば、連携している介護事業者から必要なサービスを選択して受けられる。また、医療についても地域の在宅医療診療所や医療機関と連携しているので安心だ。コンシェルジュがつなぎ役になってくれるので、土地勘のない入居者が心身の状況に適した医療機関を探す際もスムーズに必要な医療を受けることができる。介護に初めて直面する場合でも、親身に相談にのってくれるのは心強い。
→小田急沿線で「住まい」にこだわるサービス付き高齢者向け住宅<前編>
→小田急沿線で「住まい」にこだわるサービス付き高齢者向け住宅<後編>
入居者が店番をする駄菓子屋がある「銀木犀」
「銀木犀(ぎんもくせい)」の事業主である「株式会社シルバーウッド」は、東京都と千葉県で9つのサ高住を運営している。バーチャルリアリティ(VR)の技術を活用し、認知症ではない人が認知症の中核症状を体験できる「VR認知症プロジェクト」など先進的な取り組みも行っている。
「銀木犀」を”高齢者向けのシェアハウス”だと考えるとイメージしやすいと教えてくれたのは、銀木犀・浦安所長の麓慎一郎さんだ。
「『銀木犀』を表す一番分かりやすい表現が、”高齢者のシェアハウス”です。入居者の方同士で助け合って、それでもダメな時にはじめて我々職員が手を出します」
「銀木犀」の最大の特徴は、入居者の7割以上が入居後に身体面または精神面での改善が見られることだ。90歳代で食事の量が増えた人もいれば、中には元気になりすぎて自宅に帰ってしまった入居者も。入居した際にはしかめっ面をして化粧っ気もなかった女性が、他の入居者と買い物に行くようになり、自然とメイクもするようになったこともある。外見や雰囲気的な変化だけではなく、要介護5から要介護3になるなど数字で表すことのできる改善も枚挙にいとまがない。
また、ここでは認知症で食事の時間が分からなくなってしまった入居者を、職員ではなく他の入居者が食堂に連れてくる。一緒に暮らす友達として『一緒に食べにいきましょう』と声をかけるのだという。椅子から立ち上がるのが苦手な人にも、入居者が手を貸す。これは麓さんたち職員がお願いしたことではなく、自然とそういう雰囲気が生まれたのだそう。
「自由とリスクは反比例します。ケガをなくそうとすれば、自由もなくなります。ご家族に『親を絶対に転倒させてもらっては困ります』ともし言われたら、うちでは無理ですとお答えしますよ」(麓さん)
「銀木犀」の入り口を開けると、何と眼の前には駄菓子屋コーナーが。そして、駄菓子を買いに来た近所の子供たちが買ったものを食堂に座って食べながら笑っている。その奥には入居者たちが談笑している姿。子供たちは入居者の孫ではなく、いわゆるご近所さんだ。一般的なサ高住ではもちろん、他の高齢者向けの施設でもめったにない光景がそこには広がっていた。
「銀木犀」は建物の中で近所の人がランチをしていたり、子供たちが駄菓子を買って遊んでいるなど一般的なイメージのサ高住とは毛色が全く異なる。しかし、訪れてみると、明るい雰囲気にあふれていて、むしろこちらが生活の場として自然なのではないかと感じた。このような運営方針が、入居者の心身にプラスの効果をもたらしているのは間違いない。
→入居後は元気になる「高齢者向けのシェアハウス」的サ高住<前編>
→入居後は元気になる「高齢者向けのシェアハウス」的サ高住<後編>
コンシェルジュサービスが充実している「グレイプス用賀」
「グレイプス用賀」は東京都世田谷区にある、120戸を有するサ高住だ。事業主は「東京建物株式会社」で貸主・管理運営は「東京建物シニアライフサポート株式会社」と、「東京建物グループ」が全面的に関わっている安心感がある。東急田園都市線の用賀駅から徒歩7分と利便性も高く、砧公園や馬事公苑が近くにあり緑も楽しめる。桜新町駅も近く、スーパーなど日常生活に役立つ店も多い。
「グレイプス用賀」では、コンシェルジュがサービス提供に重要な役割を果たしている。365日、日々の生活のちょっとした相談・要望に応えてくれるほか、近隣の医療機関やお勧めの飲食店、外出の際のタクシーを呼ぶなど様々なことに対応してくれる。取材に訪れた日はヤクルトが販売に来ており、買い物を楽しめるようになっていた。
また、ここには医療コンシェルジュもいて、入居者の健康をサポートしている。入居者の様子の変化をキャッチするコンシェルジュの役割は大きい。日常的なコミュニケーションのほかに、入居者とコンシェルジュは入居時と入居後に定期的に面談をしているのだという。
数あるサ高住の中で、それぞれの違いが出るものの1つにアクティビティがある。「グレイプス用賀」は充実したアクティビティを用意している。午前中は体操アクティビティを行い午後にはカラオケ大会、その他、季節のイベントやアロママッサージなど種類は豊富だ。
自分の興味があるものを選ぶことができ、もちろん自由参加。このような充実したアクティビティを計画・立案しているのもコンシェルジュだ。例えばシアタールームでの映画鑑賞会、ラウンジのグランドピアノを使ったクラシック演奏会、そして日比谷花壇の協力のもと行っている園芸活動などもある。
在宅の場合、24時間誰かがいる環境を作るのはなかなか難しい。しかしここには必ず誰かがいるので、離れて住む家族にとっても安心だ。支配人の中川さんやコンシェルジュが、最期の時まで自分らしく過ごせるように日々の生活をサポートしてくれる。
いかがだっただろうか。サ高住と一括りにできないほどの違いがあると感じた方も多いのではないだろうか。実際に取材で訪れてみると、入居者や職員、建物の立地、作りによって全く違う雰囲気を感じた。サ高住は元気なうちに移り住む住まいなので、いつ見学に行っても早すぎることはない。
→自立から要介護5まで自分らしく生活できるサ高住<前編>
→自立から要介護5まで自分らしく生活できるサ高住<後編>
撮影/津野貴生
※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。
※過去の記事を元に再構成しています。サービス内容等が変わっていることもありますので、詳細については各施設にお問合せください。