ヒントで思い出せたら認知症の可能性は低いと識者が解説
先日実家の片づけを手伝いに行ったという神奈川県の主婦・松原遥さん(仮名・44才)は眉間にしわを寄せてこう漏らす。
「押し入れの奥から出てきた琉球人形を見て、72才になる母親が『こんなもの知らないわ』と言い出したんです。5年前に一家で沖縄旅行したときに買った思い出の品なのに…。『ホテル近くの民芸品店で、お父さんが気に入って買ったじゃない』と当時の話をすると、さんざん首をひねった挙句、ようやく『ああ、そうだ。三線を弾いてくれたあのお店で買ったんだったわ』と思い出したのですが、もしかして…と不安になりました」
2025年には5人に1人が認知症に
松原さんが心配するのも無理はない。厚労省の調べでは、すでに認知症を持つ高齢者の数は462万人で65才以上の7人に1人。2025年には5人に1人にまで増加するとも推計されている。
そう聞くと「もしかして親や自分が認知症かも」と不安になる人は多いのではないか。だが、加齢の影響による「もの忘れ」も当然ある。単なる「もの忘れ」と「認知症」の違いを知ることは認知症予防にもつながるのだ。
ヒントで思い出せるなら認知症の可能性は低い
その前に、「記憶」の仕組みを理解しておく必要がある。そもそも記憶とはどういうメカニズムで脳に保持されているのだろうか。くどうちあき脳神経外科クリニックの工藤千秋院長が解説する。
「わかりやすくいえば、“記憶する”という過程は【1】記銘【2】貯蔵【3】検索という3つのステップに分けられます。
外部から入ってきた情報は、まず脳の中心部にある海馬に一時的に保存されます【1】。すぐに忘れてもかまわない情報は『短期記憶』としてそのまま海馬にとどまりますが、長期保存が必要だと判断された情報は海馬から脳の前頭葉に送られ『長期記憶』となります【2】。このように貯蔵された情報は必要なときに選択し、取り出します【3】。この一連の流れがスムーズに働くことで、タレントの名前を思い出したり、実家の電話番号をそらで言えたりするのです」
冒頭の松原さんの母親のような、高齢者のもの忘れのほとんどは「認知症の可能性は低い」と工藤院長は続ける。
「加齢によって海馬の活動が低下し【3】の検索に支障が出ただけのケースは、単なるもの忘れと判断します。松原さんは時間がかかったにせよ、ヒントを手がかりに思い出せているのでもの忘れです。ただ、沖縄に旅行に行ったこと自体が思い出せないようであれば認知症が疑われます。認知症の場合、記憶の3つのステップのすべてに支障が出るためです」
※女性セブン2018年5月31日号
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