【新連載】毒蝮三太夫が指南「ジジイやババアとちゃんと話す技術」【第1回 ありがたい存在】
高齢者とちゃんと話すのは、こう言っては何だが、なかなか容易ではない。毎週、ラジオの生中継で「ジジイ、ババア」と愛ある毒舌を吐きながら、会場に集まった多種多様な高齢者たちを大笑いさせている毒蝮三太夫さん。「ジジババ・コミュニケーション」の達人に、高齢者と楽しくスムーズに話す技術や心得を伝授してもらおう。(聞き手・石原壮一郎)
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オレが「ジジイ、ババア」呼ばわりしても、年寄りが怒らないワケ
なになに、この連載のテーマは「高齢者との円滑なコミュニケーション術」だって。カタいねえ。そんなふうにあらたまって身構えたら、年寄りだって話しづらくてしょうがねえよ。ただでさえ肩が凝りやすい身体してんだから。要は「ちゃんと話す」ってことだな。
TBSラジオでやってる生中継の『毒蝮三太夫のミュージックプレゼント』(毎週金曜日14時~、『たまむすび』内)は、今月でちょうど丸50年だよ。オレも83歳になっちゃった。我ながらびっくりだね。知ってる人は知ってるし知らない人は知らないけど、オレの本業は俳優で、昔は「ウルトラマン」のアラシ隊員や「ウルトラセブン」のフルハシ隊員をやってたんだぜ。よく見ると、正義の味方が似合う顔してるだろ。ハハハ。
ラジオの中継では、毎回、飲食店や介護施設や銭湯やいろんなところに出かけていって、集まってくれた人たちにマイクを向けてワイワイやってるわけだ。今は週一回だけど、前は月曜から金曜までやってた。誰かが数えてくれたけど、今までに1万軒は余裕で訪ねてて、60万人だか70万人だかと会ってるらしいよ。
「きたねえジジイだな」とか「佃煮ババア」とか「このくたばり損ない」とか、毎回毎回、集まった年寄りにそんなことを遠慮なく言ってきた。オレはべつに毒舌を意識しているわけじゃない。下町に生まれてべらんめえな大工の親父と能天気なタヌキババアのお袋に育てられたもんだから、自然にそういう口の利き方になっちゃうんだよ。
「ジジイとかババアとか言って、どうして怒られないんですか」って不思議がられるけど、たぶん大きな理由は、オレが年寄りを「弱者」だと思ってないからじゃないかな。人間同士として、対等の関係で接してる。弱い存在だと決めつけて「いたわってあげよう」「相手してあげよう」と上から目線で近寄っていっても、年寄りのほうは離れていっちゃう。そりゃ、相手にしてみりゃ不愉快だよね。
オレは昔から、尊敬と愛情を込めて「ジジイ、ババア」と言ってきた。見下して弱いものイジメをしてるわけじゃない。対等に扱っていることがわかるから、怒らずに笑ってくれるんじゃないかな。ただ、だからといって、オレの真似してまわりの年寄りに「ジジイ、ババア」って言わないほうがいいと思うよ。ま、わざわざ言う必要もないか。
年寄りって、面白いんだよ。人生経験が長いからいろんなことを知ってるし、予定調和じゃない反応をしてくれる。ラジオの中継の現場ではありがたい存在なんだ。いや、ありがたい存在なのは、普段の生活でも同じなんだけどね。年寄りは誰だって、その人なりの知識や面白さや味がある。それを引き出せるかどうかは、こっちの出方次第なんだよ。
「年寄りと話しててもつまんない」「年寄りは話しづらい」なんて思ってる若いヤツは、まずは自分の力不足を反省したほうがいいね。自分の親だろうと近所の年寄りだろうと、掘れば掘るほど面白い話という金銀財宝がザックザック出てくる。掘り方がわからないからって、せっかくの宝の山を敬遠してたらもったいないよ。
最初だからなんか自己紹介みたいになっちゃったけど、次からは、オレが考える掘り方や役に立つ道具のことを話していこうと思う。年寄りとちゃんと話せるようになることは、何はさておき最大の親孝行だし、これから世の中にますます年寄りが増えていくんだから、人生の楽しみを広げることにもなる。騙されたと思って、付き合ってみてよ。
■今回の極意
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からTBSラジオの『毒蝮三太夫のミュージックプレゼント』でパーソナリティを務めている。83歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
撮影/政川慎治