認知症や肥満などリスク高める 睡眠不足の弊害を識者が警鐘
日本人の1日の平均睡眠時間は、平日7時間15分、土曜日7時間42分、日曜日8時間3分(2015年、NHK放送文化研究所調べ)。最適な睡眠時間は人それぞれといわれているが、働き盛りの世代は睡眠時間を短めに申告することがある。
久留米大学医学部神経精神医学講座の内村直尚教授は、1981年に日本初の睡眠障害専門外来を開設した睡眠障害のエキスパート。その内村さんが説明する。
「戦後の日本の文化を引きずっている人は少なからずいます。学生は勉強をがんばって、働き盛りの世代が仕事に励み、そうした上に今日の経済成長があった。日本人の平均睡眠時間は、戦後1時間短くなったんです。今も日本の睡眠時間は少なく、世界の中でも、受験戦争が熾烈な韓国とワーストを争っている状況です」
これは決して胸を張れることではない。実際、睡眠を剥奪すれば必ず死に至るし、わずかな睡眠不足でも学習・認知機能が低下する。
そのメカニズムについて、『脳には妙なクセがある』(扶桑社新書)などの著書がある、東京大学薬学部教授の池谷裕二さんが解説する。
「脳は寝ている間に、記憶の『整理』と『定着』を交互に行っています。おおざっぱに言えば、浅い眠りの時には、『海馬』がシータ波という脳波を出し、情報の脳内再生を行っています。逆に深い眠りの時には、大脳皮質がデルタ波という脳波を出し、記憶として保存する作業を行っています」
東京大学の学生は、意外にも睡眠時間が長いということが知られている。東大卒女優の菊川怜(39才)の睡眠時間は深夜0時から朝7時までのたっぷり7時間。頭の良し悪しも睡眠時間が握っているといって過言ではないのだ。
いつも輝いている人は、たっぷりの睡眠が特徴
人間は寝ている間に細胞が生み出した老廃物を排出し、メンテナンスを行う。しかし睡眠時間が短くてはそれがうまくできす、老化現象を引き起こすことは、誰しもの体にも、脳にも、刻み込まれているはずだ。
ドラマ『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)で芸能界のベテラン陣に交じっての好演が話題の常盤貴子(45才)の最低睡眠時間は8時間。長い時は11時間眠るという。
長い独身生活にピリオドを打った作家の阿川佐和子さん(63才)も、子供の頃からとにかくよく寝る子供だったことを自認している。嫌なことがあっても、まず眠れないことはないそうだ。
このようにいつも輝いている女性に共通していることは、たっぷりの睡眠時間だ。前出・内村さんが言う。
「寝ることで抗老化作用や抗酸化作用が働き、新陳代謝を促すので、しっかり寝る人はきれいで元気な人が多く、寝ていない人は肌荒れしたり、くすんだりして、張りを失い若さを保てません」
当然ながら、脳細胞が生み出した老廃物を洗い流す機能も睡眠中に作用する。
「脳の細胞と細胞の間には昼間は隙間がほとんどありません。ゆっくりと地下水が流れているようなイメージなのですが、昼間は地下水の流れが淀んでいて、脳細胞が出した老廃物がそこに滞留しています。寝ると、細胞が小さくなって、隙間が広がります。地下水の流れがよくなり、老廃物も早く出ていってくれるわけです。最終的には尿として体外に出ます。でも睡眠時間が短いと、老廃物の排出がうまくできず、どんどんたまっていってしまうんです」(前出・池谷さん)
そうなると例えば脳がダメージを受けたときなどに、リカバリーができず、脳細胞が死にやすくなってしまうのだ。
睡眠不足によるアミロイドβの排出不足がアルツハイマー型認知症の原因に
「例えば睡眠不足になるとアミロイドβという老廃物が脳にたまる可能性が高まるかもしれません。これは認知症の中でもアルツハイマー型の原因といわれています。認知症予防に睡眠は重要ですので、年を取ると、どうしても睡眠時間が短くなってきてしまいますが、そこはがんばって寝ましょうねということなんですよ」(池谷さん)
睡眠不足が引き起こす弊害は他にもある。血圧が上昇するのでコレステロール値が上がり、動脈硬化が進む。すると心筋梗塞や脳血管障害にもなりやすい。免疫力が低下するので、インフルエンザやがんなど、あらゆる病気に罹りやすくなるといわれている。それだけじゃない。睡眠時間5時間を切ってくると、日本人は明らかに肥満しやすくなる、と指摘するのは前出・内村さんだ。
「物を食べたくなる『グレリン』というホルモンが増え、『レプチン』という満腹を感じるホルモンが低下してくるためです。いくら食事をコントロールして運動しても、睡眠時間が少ないと肥満になりやすいことがわかっています」
※女性セブン2017年6月29日・7月6日号