倉田真由美さん「高級住宅街のご婦人の言葉選び」くらたまね~&らいふVol.31
漫画家の倉田真由美さんがここ数年ハマっているもののひとつに「甘カツ」がある。ケーキやパフェなど甘いものを求め、名店を訪れるのが楽しみだという。物価高騰の中、リーズナブルな価格で絶品のスイーツを提供するお気に入りの店に行ってみたら、ひとりの高齢女性がやってきて――。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。夫の叶井俊太郎さん(享年56)の闘病から看取りまでを綴った書籍『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』も話題に。
お気に入りの果物屋さん
妹が来た時によく行く、洋菓子をいただくお気に入りのお店があります。
電車に乗って行かなければならない距離ですが、二人ともあまりにも気に入って妹の滞在中一度は訪れます。
ともかく、美味しい。
実はこのお店は、カフェや洋菓子専門店というわけではなく、果物屋さんの一角にある小さなカウンターのイートインスペースです。ここの素敵なマダムが作るスイーツの数々が、どれもこれも大変美味しいのです。
果物屋さんなだけあって、どのスイーツも新鮮でよく熟れた果物がふんだんに使ってあります。一番人気らしい様々な果物が入ったフルーツゼリーは、甘さ控えめのとろけるようなジュレが、永遠に飲み続けられると思えるほど中毒性があります。
そして、値段が高くない。
昨今ワンカット1000円を超えるケーキも珍しくないのに、基本全て500円以下! 二人で一つずつ食べて千円でお釣りがきます。お水以外の飲み物はフレッシュミックスジュースのみで、コーヒー紅茶はありませんが、その分安くすむのは助かります。
普通のカフェでケーキセットを頼むと、大抵二人で2000円超えてしまうので、半額以下です。その分気が大きくなって、二人でスイーツ一つずつではなく、二人で3つ注文してしまうこともしばしばあります。
この季節、店頭に並ぶ「あれ」
「そろそろあれがあるんじゃない。行こうよ」
妹が言いました。そう、私も妹も大好きな「あれ」が店頭に並ぶ季節です。
「うん、行こう!」
昼食の量を少しだけ控えめにして、私と妹は駅に向かい電車に乗りました。向かうはあの店があるあの駅、高級住宅街で知られるあの街です。
件のお店は、駅からすぐの場所にあります。私たちはこのためにだけ、ここを訪れます。
早速店内に入り、小さなショーケースの前で中を確認しました。夕方になるとほとんど売り切れてしまうこともあるのですが、この日はまだすべての種類が残っていました。
「あ、あれがあるよ!」
妹が指差したのは「焼きりんご」です。これが私たちは大好物。まずは一つ、即座に決めました。
「あとはフルーツゼリーでいいかな」
妹が私の顔を見ました。
「うん、ゼリーも食べたい。でも、栗のシュークリームも食べたいなあ。季節ものだし」
私は悩みました。悩んだ挙句、どちらも捨てきれずどちらも頼むことにしました。
「悩んだらいつもそうなるね」と妹が笑いました。焼きりんご、フルーツゼリー、栗のシュークリームを妹とシェアしながらいただきます。
焼きりんごのりんごはお菓子に向いた紅玉で、実がぎゅっと詰まっていて甘酸っぱく、かかっている手作りのキャラメルソースが堪りません。食べる前にカットしてもらうので食べやすく、一切れずつ頬張って妹と笑顔で顔を見合わせて頷き合いました。
フルーツゼリーもやはりいつも通りの滑らかさと爽やかさ、そして栗のシュークリームのシューはしっとりバターの香り高く、塩味がいいアクセントになっていました。
店を訪れた高齢の女性の言葉
「シュークリームの中に入ってる渋川煮、柔らかくて甘くて絶品すぎない?」
私たちが感想を言い合っていると、果物コーナーにお客さんが来店しました。上品な雰囲気で、高級住宅街のイメージぴったりの高齢女性です。果物と一緒に売られている、これも手作りのフルーツポンチを買いに来られたようでした。
「こちらのフルーツポンチはお味が良くて、パーティーに持って行くと皆さん喜ばれるの」
聞くともなしに聞こえたご婦人の言葉選びに、私も妹も驚嘆しました。
「お味が良くて」この言い回し、実際に普段耳にすることはありません。少なくとも、私が日常暮らしている世界では。
「美味しくて」という一般的に流通している言い方ではなく、「お味が良くて」という言葉が自然に口から出てくる、そんなご婦人の住む世界ってどんな世界なんだろう。高級住宅街にある果物屋さんのフルーツポンチを手土産に持参する、そんなパーティーってどんな人たちが集うどんなパーティーなんだろう。
妹と帰宅の道すがら、興奮気味に語り合ったのは言うまでもありません。
