認知症グループホームで暮らす入居者の家族から「レクリエーションが幼稚だ」発言 困った職員が取った対策と悲しい結末
認知症グループホームで働く職員で作家の畑江ちか子さん。施設での生活に彩りを添えるのが「レクリエーション」とは思うものの、なかなかひとり一人のレベルにあわせたレクを実施するのは難しい…。入居者のご家族との温度差が生じ、困った事態に。【前・後編の後編】
執筆者/作家・畑江ちか子さん
1990年生まれ。大好きだった祖父が認知症を患いグループホームに入所、看取りまでお世話になった経験から介護業界に興味を抱き、転職。介護職員として働きながら書きためたエピソードが編集者の目にとまり、書籍『気がつけば認知症介護の沼にいた もしくは推し活ヲトメの極私的物語』(古書みつけ)を出版。趣味は乙女ゲーム。
※記事中の人物は仮名。実例を元に一部設定を変更しています。
80代男性の新たな「レクリエーション」開始
「田村さん、オセロをやりましょうか」
軽度認知症の田村トシオさん(86才)の息子さんから「もう少し頭を使うレクをやってほしい。せめてトランプやオセロとか…」という意見を頂戴してから1か月。
業務の合間を縫って、その日のレク担当の職員が田村さんに声をかけました。
以前にも複数の入居者さんに声をかけ、トランプ(ババ抜きなど)をやってみましたが、ルールを理解できない人が多く、あえなく断念した経緯があります。
→【前編】認知症グループホームの職員が日々苦悩する《レクリエーション》入居者の家族から指摘された問題発言
今度は管理者がオセロを買ってきました。やはりゲームのルールを理解できる利用者がいらっしゃらないため、職員が対戦相手となり、田村さんとオセロをすることになりました。
「いいね、やろうやろう!」
ゲーム開始。その間、私は他の入居者の排泄介助や来客対応をして、ぼちぼち夕飯の支度をはじめなければなりません。
ふと田村さんのほうを見ると、白黒の盤面にじっと集中されているご様子。私は集中力がなくオセロが弱いため、あそこまで熟考して次の一手を考えられるのは凄いなと感心していました。
別の入居者さんから「トイレ…」
田村さんと職員がオセロに興じる中、女性入居者から声がかかりました。
「お姉さーん、私、トイレ」
私は「次に行きますので、少々お待ちくださいね」と返事をし、ほかのかたの対応を続けていました。
しかしその女性は、私の手がふさがっているとわかると、田村さんとオセロをしている職員に声をかけました。
「お兄さん、ちょっとトイレに連れていってよ」
「畑江さんが順番に回っているから、あともう少しだけ待てますか?」
その女性は、車椅子を使用しているため、排泄には職員の介入が必須です。トイレへ行ったことを忘れてしまうことや、排泄への不安から、日中30回ほどお手洗いに行かれるのですが、毎回排尿があるわけではありません。
私はつい10分前にトイレへお連れし排尿を確認したため、他のかたの介助を優先していました。
「もう漏れそうなんだよ!自分で行くからいいよ!」
ついに女性は車椅子から立ち上がり、ご自身でトイレへ行こうとされました。
「わわっ、ちょっと待って!」
男性職員は田村さんとのオセロを中断し、慌ててその女性のもとへ駆け寄りました。その後も、別の入居者の介助や電話対応などに追われ、田村さんと男性職員のオセロの決着はつきませんでした。
このような形でゲームが終わってしまうのは、もう何度目か…。
勝ち負けのある事に対し、白黒ハッキリしないのは田村さんとしてもモヤモヤが募る日々だったと思います。
現場で考えた対処法と田村さん親子の反応
せめて週に1度だけでも、管理者が現場に入り、1時間だけは田村さんとのレクに集中する日を作ったらどうか?という案が出ました。
毎日は難しいけれど、週1作戦ならば、どうにかなるかもしれません。ひとまずこの件は、管理者から息子さんへご報告させていただくことになりました。
「先日のお話ですが、今は他の利用者様の対応にも追われている時期でして…。施設としても大変心苦しいのですが、何とぞご理解をいただけましたら…」
「そうですか、わかりました」
それから数日後、田村さんの息子さんより管理者宛にお電話がありました。
結論として、田村さんの息子さんが選んだ答えは「退所」でした。
理由は、周りの利用者と田村さんのレベルに差がありすぎるため、田村さんが退屈してしまう、周囲に合わせる日々が続き認知症が進行してしまうのが怖い、週1では刺激が足りない、というものでした。
息子さんが想像していたグループホームとうちの施設の内情には、かなり大きな乖離があったようです。
グループホームに求められるもの
「自立支援、集団生活、少人数の穏やかな生活で認知症の進行を遅らせる」
グループホームというものを説明するとき、しばしばこんな言葉が使われます。
私が思うに、どの言葉も間違ってはいません。しかし、施設を選ぶご家族様は、時にちょっと違うものを想像されてしまうのではないか、とも思うのです。
集団生活の中で利用者がどんな生活を送れるかは、そのとき入居中の他の利用者の状態にも左右されます。
また、もともとは自立度が高い利用者であっても、ご家族様が看取りを希望されていれば、最期のときをここで迎えていただくことになります(※看取り対応可の施設のみ)。
それはすなわち「認知症の進行や身体機能の低下により、できることがだんだん少なくなってゆく日々」を施設で過ごしていただくということでもあります。極端なことをいえば、その施設で暮らすほとんどの利用者が「全介助・寝たきりに近い状態になっている」タイミングもあるかもしれない、ということです。
そして「自立支援」という言葉には、たとえ施設での生活が全介助になったとしても「手すりに掴まり職員に支えられながら立位を取っていただく」「オムツ替えの際に腰を浮かせていただく」など、どんなに小さなことでも、ご自身でできることは行っていただく、という意味も含まれているのです。
施設見学で見ておきたいこと
施設の状況が「思っていたのと違う」。こうしたすれ違いを防ぐためにも、入居前に見学をして、どんな利用者が生活しているかを職員に聞き、ご自身の目で確かめていただきたいと思います。
「施設選びに時間をかけられない」ご家族の事情もあるとは思いますが、そうして探してゆく中で、ご自身に合った施設が見つかる可能性もあります。一方で、施設側では人員不足もあって、ひとりひとりのレベルに合わせたレクリエーションができないのも実情。
自立支援、生活の彩り、脳トレ、好きだったものを思い出す時間――さまざまな意味を持ったレクリエーションですが、それぞれの好き嫌い、得意・不得意も加味すると、すべての入居者に満足いただけるレクは、存在しないのかもしれません。
ここで暮らす皆さんに、ちょっとでも意味のある時間を提供できるとよいのですが…。
さて、明日は折り紙が得意な利用者に教えてもらいながら「折り紙レクをやろうかな」。そんなことを考えている、今日この頃です。
イラスト/たばやん
畑江のつぶやき
すべての入居者に満足いただけるレクは存在するのかな?