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「末期がん患者を世界一周クルーズへ」在宅緩和ケア医・萬田緑平さんが明かした構想 今は自らの診療所は閉じて「客として乗船しながらリサーチ中」

 漫画家の倉田真由美さんの最新著『夫が『家で死ぬ』と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』には、在宅緩和ケア医の萬田緑平さんによる在宅ケアや看取りについての解説も盛り込まれている。著書の発売を記念して開催された対談イベントで、萬田さんの「死ぬまでにやりたいこと」が明かされた。 

世界一周のクルージング 

 夫・叶井俊太郎さんの最期の過ごし方を克明に綴った倉田真由美さんの新著には、在宅緩和ケア医・萬田緑平さんとの対談や解説も収録されている。東京・下北沢のイベント会場には、世界一周クルーズに参加中の萬田さんがオンラインで参加。会場の大きなスクリーンには、大海原の景色も映し出された。 

倉田真由美さん(以下、倉田):先生~! 今どこにいらっしゃるんですか? 

萬田緑平さん(以下、萬田):イギリスに向かって西アフリカ沖の海を渡っているところ。スペイン領カナリア諸島のあたりですね。 

倉田:なぜ海外にいるかわからないかたもいらっしゃると思うので…。 

萬田:人はいつ死ぬかわからないでしょう、だからやりたいと思ったことはやっておかないと。オーロラを見るのが夢だったからね。今年の夏には診療所を閉めて、妻と一緒に世界一周の船旅に出ているんです。全110日間のうち、今は1か月目。3分の1が過ぎたところですけど、楽しんでいますよ。この船旅は、次の構想に向けた下準備でもあるんです。 

倉田:実際にどんな旅を考えているんですか? 

萬田:末期がんと診断された患者さんは、治療じゃなくて世界一周旅行! 患者さんは私が船医としてサポートして、緩和ケアをしながら船旅ができたらいいと思って。この構想が実現できるかどうか、課題は何で、どうクリアすべきかを、客として乗船しながらリサーチしているところです。 

倉田:先生が船旅に出ている間、萬田診療所の患者さんはどうされているんですか? 

萬田:他の医療機関に引き継いでもらって、だんだんと患者さんを減らしていきました。患者さんにはずいぶん前から、船旅に出ることをお話していましたから。 

倉田:患者さん、萬田先生に診てもらえなくて困っていませんでしたか? 

萬田:それが全然(笑い)。「大丈夫、大丈夫。そこまで生きていないから」という人と、「大丈夫、大丈夫。帰って来るまで生きているから」という人がいましたけど、みなさん快く送り出してくださって。 
 
 そもそも私の患者さんは、「余命一週間」と言われながら、在宅緩和ケアに切り替えたら何年も生きている、そんな元気な患者さんが多いんです。 

倉田:船上の生活って、どんな感じなんですか。 

萬田:数日前には、スペイン領・カナリア諸島に寄港して、世界遺産「テイデ国立公園」を観光しました。船内では、人を集めて講演会もやっているんですよ。乗船されているかたたちとも仲良くなって。一杯どうぞって、お酒をごちそうになったりしてね。 

倉田:それは楽しそう! 本の対談でもお話されていましたけど、本当に悔いのない人生を送られていますね。うちの夫もそういう人でした。 

「いつ死んでもいいように」今を生きる 

倉田:夫は過去も未来もあまり考えない、好きなことだけをして楽しんで生きているような人でした。病気になる前から、「俺はもうやりたいことをやり尽くしていたから、いつ死んでもいい」と常々言っていたんです。 

萬田:叶井さんのそういうところ、格好いいよね。最期まで好きなように生きて、スッと旅立つ。くらたまは、叶井さんの最期をいい形でサポートしていたと思いますよ。 

倉田:夫を在宅で看取るって、大変でしょう?ってよく言われるんですけど、私自身も何も我慢することなく過ごしていましたから。それは病気になる前から変わらないんです。私たち夫婦は自由にやりたいことをしてきました。 

相手のために我慢しない 

倉田:すい臓がんが発覚したのが2022年の初夏ですが、2023年の秋ごろまで、九州地方のレギュラー番組に出演するのに毎週出張もしていました。朝の放送なので前泊して。 

夫が亡くなる一週間前も遠方に講演に行っていました。夫に遠慮することもなく。「夫のせいで何かができなかった」とは思いたくなかったですからね。 

萬田:その考え方、誰でもできるわけじゃないからね。私は常々、患者さんのご家族には、「ずっと本人のそばについていなくて大丈夫。仕事は続けて、趣味も習い事もやめずに続けましょう」と提案しています。 
 
 家族が我慢したり、何かをやめたりすると、ストレスがたまってケアが続かなくなるし、ケンカも増えるんですよ。 

在宅ケアは普段通りの生活を続けることが大事。「途中で無理となって入院とならないように、今までの生活を続けましょう」と。 

患者さんはいずれ亡くなってしまうけど、残された家族はこれからも生きていく。だから、全部言うことを聞いてあげるんじゃなくて、あなたの心と体とお金の許す範囲で、希望を叶えてあげればいいんですよ。 

倉田さん:うん、うん、本当にそうですね。私もストレスを抱えることなく最期まで夫に寄り添えました。 

萬田:中には「大丈夫です!私がんばります」って無理してしまうご家族もいますからね。在宅緩和ケアは「もう無理!」と投げ出したくなる家族をいかに減らすか。これが一番の課題。その点で、くらたまと叶井さんは二人で叶えた幸せな最期だったと思います。 

倉田:在宅医療は最期の10日間でしたが、とても濃密な日々でした。お互い何も我慢せず自由に過ごせたと思います。ギリギリまで元気で、最期はスッと旅立ちました。 

* * * 

 新著には、在宅看取り640日の記録が丁寧に綴られている。最期をどう過ごすか、最期までどう生きるか、考えるきっかけになる。イベントの参加者からは「看取りや死のことってなかなか話を聞く機会がなかったので参加してよかった」「在宅での看取りについてとてもいい話が聞けた。学びが多かった」という声が聞かれた。 

撮影/五十嵐美弥 取材・文/桜田容子

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